問⑨【苦い思い出の話】

 公園で僕たちは並んでブランコに揺られていた。

 夕暮れが迫り、蝉が鳴いている。


 今日はずっと彼女の様子が変だった。

 だから人けのない静かな公園に彼女を誘ってみたのだ。


「関川君って、どんな子供だったの?」

「どんなって、まぁ、よく覚えてないかな。リア充ではなかったけど」


 ハハハ、と笑う。まぁそれだけは断言できる。

 明るくてかわいい彼女とは真逆の子供時代だったと思う。


「わたしはね、昔の自分が好きじゃないんだよね、今も思い出すとつらくなる」

「僕も昔にはいい思い出はないけどね」


「今でも関川君に話せないコト、話したくないコトあるんだよね」


 なんか思い詰めた様子でそんなことを話してくる。

 でも彼女、けっこう小さいことでも悩む癖がある。

 なんだそんなことか、というようなことでも。


「僕は今のキミが好きだよ。キミといられて幸せだと思ってる」


「でも、本当のわたしは関川君が思ってるような人じゃないかも」


 そう言って彼女はそっとため息をついた。


「ねぇ、関川君はわたしの昔の話を聞きたい? 聞きたくない?」


 僕には彼女が抱えていたキズが見えていなかった。

 いや、今が幸せすぎて、見ようとしなかったのかもしれない。


 でもそれでいいと思う自分がいる。

 過去はもう流れ過ぎたものだから。

 

 僕は迷っていた……それでもどちらかを選ばなければならなかった。 

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