現在
そんなことを考えながらぼーっとツイッターを見ていると、今日は本願寺と御園のコラボ配信が行われるらしい。内容はリスナーからのお悩みに二人で答えるというよくあるお悩み相談であった。
とはいえ、二人がコラボする時は大体ゲーム配信が多いので二人でお悩み相談をするのは初めてかもしれない。
このタイミングということは、もしかすると御園もこの前神流川と話したことがきっかけで、本願寺に対して何かを思ったのかもしれない。
『こんみそに~、御園桜だよ! 今日は美鏡ちゃんを呼んで珍しくお悩み相談をやろうと思う! これまで二人でコラボする時ってゲームが多かったけどたまには色々お話するコラボしてみたいなって思ってね。それじゃあ早速、本願寺美鏡ちゃん!』
『こんがんじ~、お悩み相談系Vtuberの本願寺美鏡です、今日はみんなよろしくね~』
途端にコメントが『は?』『ん?』『草』で埋まっていく。
前に恋愛相談をしていた時も『本願寺に恋愛相談するな』みたいな辛辣なコメントがあったように、彼女はあまり真面目なキャラとして認識されていない。
『え、何系Vtuberだって?』
『お悩み相談系だけど』
『あれ、うまく聞き取れないんだけど、ノイズかな? じゃあ早速一人目の相談に行ってみよう! えーっと、タコ丸さんから「初めまして、僕は高校二年生です。いつもお二人の配信を見ていて将来Vtuberになりたいって親に言ったらふざけたこと言ってないで受験勉強しなさいって言われました! やはりVtuberになるのは難しいのでしょうか? 目指すにしても勉強は真面目にやった方がいいのでしょうか? それでは今後とも配信頑張ってください」とのことです。まずはお便りありがとう~』
『この方、すごく真面目だね』
『まあ美鏡ちゃんに比べれば皆真面目なんじゃない?』
『誰がクズだ!』
『別に私はクズとまでは言ってないけどな。思い当たるところがあるから自分でそう言うんじゃない?』
御園のボケに対して本願寺はキレのある突っ込みを披露し、さらに御園が突っ込みを入れる。
まあまあ仲良くないと出来ないやりとりだろう。
『酷いよみそに~! それはそれとしてお便りの話だけど、やっぱりVtuberやるにせよ大学行っておいて損はないんじゃない? 受験勉強させられるってことは大学に行かせてくれるってことでしょ?』
『それはまあそうだね。ただ私ってずっと勉強とかほとんどせずにゲームばっかしてたから今があるみたいなところもあるから、勉強した方がいいと思うけど私からはあんまり強く言えないかな』
『確かに、受験勉強してるみそにはあんまり想像出来ないかも』
『はあ? て言いたいけどそれは認めざるを得ないかな。正直Vtuberってよほど能力がある人じゃなければ普通の人が大人気になるのは難しいとは思う』
御園もゲームはまあまあうまいが、実写のゲーム実況者に比べれば一枚か二枚劣るらしい。とはいえ御園よりもゲームが上手い実況者よりも御園は人気があるから、それはトークやコラボなどの企画力によるものなのだろう。
『と言う訳で、趣味の延長みたいな感じでやるなら真っ当な人生送った方がいいけど、もし本気でやるなら何かすごい才能を一つか二つ育てた方がいいと思う』
『でもそう言われて才能を育てるのって大変じゃない?』
『もしくは美鏡ちゃんぐらい尖った性格になるか』
『誰がクズだ!』
『だからそれは言ってないってば』
こんな感じで、基本的に二人のテンポのいいトークで配信は進んでいく。
主に本願寺がボケ、御園が突っ込みという形になることが多くトーク自体もおもしろいのだが、何よりも二人の仲良さそうな空気感が見ていて楽しい。御園は今の本願寺が大事だ、ということを言っていたが確かにここまでのトークが出来る相手はなかなか見つからないかもしれない。
そんな配信を見ると、どうしても本多の除霊を行った方がいいのかどうかを真剣に考えてしまう。
もし除霊を行えば、今こうして楽しく配信している記憶は残るかもしれないが、御園との関係性は元のままではいられなくなってしまうだろう。もうこの距離感で配信することは出来なくなってしまうかもしれないし、言い方は悪いが個人での配信もおもしろくなくなるかもしれない。それは、今この配信を見ている数千のリスナーや、本願寺の数万のチャンネル登録者の期待を裏切ることになる。
俺や佐紀野が本多に忘れられたという個人的な動機でそんな本願寺を元に戻してしまっていいのだろうか。例え怪異にとりつかれたという原因であれ、今が良ければそれでいいのではないか。
そんなことを考えているうちに配信は進んでいく。
五十分ほど経ったところで、御園が言う。
『さて、そろそろいい時間だしこれで最後の相談にしようかな。ラストだし、ちょっとシリアスなやつね』
『もう終わっちゃうのか。みそにとならこのまま朝まででも話せそうだけど』
『それは私が疲れるから嫌だ。じゃあ最後はミルミルミルネさんから。「こんにちは。私は今高校三年生ですが、クラスで虐められていて正直学校に行きたくないです。でも将来のためにどうしても高校を出ておきたいです。だから励ましの言葉をください。お二人の励ましがあればあと半年乗り切れそうな気がします」とのことです。大変な状況なのに配信聞いて、お便りまでくれてありがとう』
御園がお便りを読み上げるとシリアスな内容に一瞬空気がしんと静まる。直前まで『草』とかで満ちていたコメント欄も急に流れが遅くなった。
おそらく御園は本多の過去なんて知らないから、このお便りを選んだのは偶然だろう。多分彼女なりにこのリスナーを励ましたかったから選んだというだけに違いない。しかし俺からすれば、高校生活がほぼなかったことになった本願寺がどう答えるのか、すごく気になった。
『別に無理して学校に行かなくてもいいのに自分のために通おうとするのはすごいと思う。美鏡だったら休んじゃうかもしれない。だからあなたのその勇気を私は応援しているよ』
普通に聞くと本願寺の言葉はいい言葉なのだが、佐紀野から本多の話を聞いていると、「休んじゃうかもしれない」という言葉は引っ掛かった。本多も虐めに負けずに高校に通っていたというのに。
『私はただゲームしてしゃべってるだけなのに、それだけの配信が人生の活力になっているっていうのは嬉しいな。大変だと思うけど頑張ってね。あと、毎日配信してるから私の配信で良ければいつでも聞きに来てね』
本願寺の言葉に御園が相槌を打ちつつ、そうまとめた。
佐紀野から聞いた本多の経験があればもっと深いアドバイスが出来たかもしれないのに、と俺は勝手に悔しく思う。
とはいえそんな俺の内心とは無関係に二人のお悩み相談は少ししんみりした感じで終了したのだった。
配信が終わって、俺は改めて考える。やはり怪異に憑かれる前の本多と今の本願寺ではほぼ別人だ。こんな異様な状態を放置していいはずがない、と思う一方でもし彼女がいじめのことも本当に忘れているならそれはそれでいいのではないか、という気もしてくる。
ファンの望む本願寺は学校でいじめに遭うことはないのだろう。
間に怪異が挟まっているとはいえ、暗い過去がなくなったならそれはそれでいいのではないか。そういう風にも思えてくる。
結局、いくら考えても結論は出ず、布団に入った俺は全然寝付けなかった。
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