なぞなぞ

プライヴァティア公爵

なぞなぞ

先日、私は近所の道を歩いている最中、或る男に出会った。

その男は棒立ちで道に向かって歌を歌っていた。

不審がった私は、その男に声をかけた。


「おい、お前は何をしているのだ」


と。


「歌を歌っているのさ」


男は答えた。答え終わるとすぐに彼は歌いだした。

彼の歌は同じフレーズを繰り返すもので、自然に喧騒に溶け込んでいた。


「なぜおまえは歌を歌うのだ?」


私は問うた。


「俺は道行く野焼きの迷子たちに道を教えるために歌っているのだよ。彼らだって探し求めるものにたどり着きたいからね」


男は答えた。そして、また歌いだす。


「ほら、一人やってきた」


男は指をさした。その先には確かに野焼きの迷子がいた。

男はその迷子に向かって歌を歌う。すると、迷子は迷うことなく目的を果たす。


「こうして道を教えているのさ」


「迷子が来ないときはどうしているのだ?」


私は男に問うた。


「その時も歌っているさ。迷子が常に迷子らしくあるわけじゃない。探し求める何かがなくとも迷うものはいるからね」


男はそう言って、私に和同開珎を渡してくれた。

私は彼に対して礼を言い、頭を下げた。男はそれにうなずくと、またやってきた迷子に歌を歌っていた。

しばらく道を歩くと、またしても男にあった。

その男は、歌を歌っていなかった。


「なぜおまえは歌わないのか?」


私は問うた。


「なぜ歌う必要があるのか?私にはわからない」


男は言った。


「しかし、向こうの男は迷子のために歌っていた。おまえはなぜ歌わないのだ?」


私は問うた。


「なぜ、迷子のために歌う必要がある?あの野焼きたちは煙たくて仕方がない。近寄られないためにも歌わないほうがいい」


男は答えた。


「そうか、わかった」


私が男に言うと、男は私に五十円玉をくれた。

私が和同開珎の穴の中から男を見ると、そこに男は映っていなかった。



さて問題です。

この男とは、いったい何でしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なぞなぞ プライヴァティア公爵 @Arakawa_Takuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ