無題(Anotherside)
@ayumi78
死神草子(Anotherside)
「戻りましたー」
入り口でそう言うと、扉が開いた。
いつも通りの日常作業を終えると、後ろから「よっ」と声がかかった。
「*****、帰ってきてたのかよ」呼ばれたので振り返ると、知り合いが立っていた。
「なんや、####か、って、沢山集めてきたんやなー」
「お前には負けるよ。ついでに救った数も、な」
「ほんまはボクらの仕事やないねんけどな。こういうのはお空の方の縄張りやん」
「まあ、あっちはあっちで忙しいみたいだしな。人手が足りないんだろうよ」
「せやな」
苦笑いしながら返事をすると、「ちょっと付き合わねぇか?」と言われた。
ここはボクらの職場、いわゆる「彼岸」にある、死神たちの集まる場所。ボクらは死神として魂を運び、ここに持ってくるのが仕事。振り分けるのは別の部署。1日何万、何十万と魂がやってくるので、今日持ってきた魂が振り分けられるのはいつになるか分からない。なのに
「おい!いつになったらわしを天国に振り分けるんだ!」と怒鳴る亡者がいる。生前も、横柄な態度でいたんだろう。人に命令するのが慣れているから、ここでも怖いものなしなんだな。
と、そこに、「やかましい!ここは平等だ!そんなに怒鳴るなら、すぐさま地獄に叩き込むぞ!」と、地響きのような声がした。流石に怯んだのだろう、文句は止んだ。
「あほらし。」そう呟いて、ボクは目を逸らした。
アイツについて行くと、ヒト社会にきた。喫茶店の中でコーヒーの香りを吸い込みながら、「いいだろ?ここ。」
「ええなあ。ボクら飲み食いできひんけど、香りを楽しめるな」
ふと見渡すと、見知った顔がある。
いつだったか、そう、仕事帰りに立ち寄ったビルの屋上のフェンスをよじ登ろうとした男。あれから何日、何年経ったか……誘惑に勝ったみたいだな。
「どうした?」
「いや、何でもない」
「そうか。……あ、呼ばれてる」
「……ボクもや」
休憩終わり。じゃあ行くか、と外に出ようとした時、あの男と目が合った。まだボクが見えているらしく、軽く手を振ってきたので、こちらも手を振り返した。
多分、暫くは生きているだろう。もしまた会う事があったら、またボクが迎えに行くから。その時は容赦しない。
なぜならボクは死神だから。
「さーてと」大鎌を担ぎ、空に向かう。地上からは見えないけど、まだ星の光は人間に降り注いでいる。
じゃ、またな。
無題(Anotherside) @ayumi78
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