27:メスガキは遊び人

 夢から覚めるように微睡から意識を取り戻し、アタシは何とか空間から戻ってきた。


「トーカ!」


 目が覚めると同時に、コトネが抱き着いてくる。あ、やわらかい。あ、あたたかい。このまま微睡に堕ちたい(誤字に非ず)気分。ぎゅーっ、とコトネを抱きしめてふわふわした夢の中に――


「あー。無粋とは思うが、周りに説明をしたほうがいいと思うぜ」


 そんな夢心地の環境をぶっ壊してくれたのは、コピペ神の一言だ。何よコイツ。空気読まないわよね。イラっと来て何か言おうとした瞬間に、


「世界を救ったトーカ様の帰還だ!」

「アンタのおかげで皇帝からの支配から脱却できたぜ!」

「おおおおおおおお! アンタのことはずっと信じてた!」

「遊び人サイコー!」

「アサギリ・トーカの凱旋だああああああああ!」


 耳をつんざくほどの歓声が聞こえてきた。は? え? なにこれ!?


 場所はどこかの神殿ぽい場所。アタシとコトネが召喚されたその場所だ。白を基調とした柱と壁と床。魔法陣ぽいものがあり、その中心でアタシとコトネは抱き合っている。


 で、その魔法陣の外に沢山の人がいる。四男オジサン、天騎士おにーさん、アイドルさん、ロリコンおねーさん、斧戦士ちゃん、あと鬼ドクロ。それ以外にもアタシの見知った人もいる。知らない人もいる。


「は? え? ええええええええええ!?」


 何がどうなっているのか全然わからない。魔法陣の周りにいる人達だけでも百人は超えるだろう。そして騒ぎはそれだけでは終わらなかった。


「トーカ、世界中の人達がトーカの帰還を待っていたんです」

「き、帰還? いやちょっと神様何とか空間に閉じ込められて……」

「トーカがいなくなっていた期間は2日程度です。ですがトーカがなしえたことを考えれば、世界中の人達が救世主とたたえるのは当然です」

「きゅ、きゅうせいしゅ……?」


 なんだか仰々しい呼ばれ方をするコトネ。魔王を倒したとかだったら勇者じゃないの? でも勇者っていうのもワンパターンだから救世主っていうのもあり? ……ないわ。ないない。


「アタシちょっとアホ皇帝ぶん殴っただけじゃない」

「貴族として皇帝を足蹴にしたことを、『だけ』と言われるのは胃が痛むのですが」


 アタシの言葉に四男オジサンが重苦しそうに言い放つ。知らないわよ、貴族の立場とか威厳とかなんか。


「いやいやいやいや! 皇帝<フルムーン>を倒したことは偉業だよ! 仮にもこの世界を征服しようとした悪の皇帝! それを愛と勇気と知恵で勝ったんだからもうこれは伝説だね! レジェントレジェント!」

「普通にレベル10アビリティコンボでごり押ししただけよ」

「そこは乗っとけよ。風情ないなぁ、がきんちょ」


 なんかいいように説明するアイドルさん。でも皇帝<フルムーン>はリソースガリガリ使っての力押しで倒したに過ぎない。


「皇帝<フルムーン>を倒してトーカが消えた後、世界に異変が起きました」

「異変?」

「はい。神と悪魔がこの世界に降臨したんです」

「……へ?」


 真剣な顔で言うコトネ。神と悪魔って……まあ、その。多分アタシのせいかなぁ?


「トーカが消えてからしばらくしてシュトレイン様が消えました。そしてその後、天から6本の柱が降ってきたのです。そしてアナウンスが聞こえてきました。

<世界を救ったアサギリ・トーカの願いにより、神と悪魔は受肉した。六柱を崇める者は柱の元で生きよ。六柱に挑む者は柱に入り試練を受けよ。門は開かれた。如何なる存在をも、神と悪魔は受け入れよう!>」


 脳内で変換される渦ママの声。要約すると、エンドコンテンツ用のダンジョンがアップデートされたってことかな? うん、仕事が早い。


「このような感じのアナウンスです。神殿関係者はすでに信じる神の元に向かいました。悪魔の柱には魔物が街を作っているようです。各神や悪魔に挑むために内部に入るものも後を絶ちません。……あまりの魔物の強さに逃げかえる人がほとんどですが」

「そりゃアホ皇帝よりも強いのが待ち構えているもんね。道中のザコ敵も相応に強いわよ。やるじゃないのアイツ等。わかってるぅ」

「つまりトーカはこの件に深くかかわっているということで間違いありませんね。単に願っただけではないというレベルで」


 少しトーンが低くなるコトネの声。あ、やばい。これは素直に答えないと怒るか拗ねるかする流れだ。


「ええと、深いって言うかそうしたらいいんじゃないっていうアイデアを出しただけ……でもないわよね。命令したようなもんだし」

「め、命令? シュトレイン様はともかく、他の神や悪魔に命令したんですか?」

「ま、まあそうなるわよね。ええと――」


 アタシは渦ママと出会ってデバッグモードができるようになった辺りを説明し、それで神と悪魔をエンドコンテンツにした辺りを説明した。


「――――」


 それを聞いた人たちは、皆言葉を失っていた。何よぅ? みんなも人類最強の方がよかったの? レベル99からスタートとか面白みがないんだけど。どれだけレベル上げ面倒なのよ。


「つまり、こういう事ですね」


 その沈黙から最初に解放されたのはコトネだった。


「『満たされし混沌フルムーンケイオス』……いわば世界そのものと言える存在の力を得て、神と悪魔の6柱をこの世界に降臨させたと」

「……なんか、そういうとものすごく仰々しく聞こえるけど」

「これでもオブラートに包んでいます。天地創造の力など、神話の初期に出てくる始まりの存在。主神を産んだ存在ぐらいしか持っていません。

 そしてトーカは世界の在り方を変えたんです。これまで誰も触れることができなかった神と悪魔に形を与え、神秘性を薄めた。人類の上に神がいて、魔物の上に悪魔がいる。絶対ともいえる上下関係。その絶対性を緩めたんです」


 コトネが言うには、アタシのしたことはこの世界のバランスを崩したという事らしい。触れられないから超えられない支配の壁。それを取っ払って、支配者に挑めるようにした。これにより『オレがアイツをボコしてサイキョーだぜ!』とか舐めくさった馬鹿が現れるのだ。


「――って解釈であってる?」

「チンピラっぽい事を除けば概ねその通りです」


 アタシの言葉に思いっきり疲れたような顔で答えるコトネ。他の人達……特にもともとこの世界に住んでいた人たちのショックは大きいみたい。それだけ神と悪魔は絶対だったのだろう。


「つまり魔王<ケイオス>と皇帝<フルムーン>を倒したメスガキは、世界の理を破壊したと」

「魔王と皇帝よりもやってること酷くないか?」

「元に戻すのは……もう無理か」

「どうせなら魔物全部消すとかにしてくれればよかったのによぉ」


 そして周りの意見もアタシのやったことに対して否定的だ。そんなネガネガした意見もあるけど、


「俺はギルガス神の柱に向かうぞ! 正義とは何なのか。それを知るために!」

「リーズハルグ神の所に行けば修行できるかもな」

「激しい戦闘をするのなら悪魔テンマの方がよさそうだ。柱の周囲に魔物がコミューンを作ってるみたいだしな」

「シュトレイン様に癒されたい! ばぶばぶ!」

「赤ちゃんプレイはまっぴらごめんだ! 俺はリーン様の巨乳に癒される!」

「イタ病みロリババア最高!」


 なんだかんだでこの状況を受け入れ、歩いていく人もいる。人間なんて結局そんなもので、グチグチネガネガする奴もいれば変化に対応できる奴もいる。絶対の正義なんてないし、絶対の悪人もいない。それでもしぶとく生きていくイキモノだ。……最後らへんのはどーなのよ、って思うけど。


「アタシ達もひと眠りしたらその柱に突撃よ。負けてられないんだから」

「世界を救ったんですから、少しは休んでもいいと思いますけど」

「世界の平和よりもレベルアップよ!」

「トーカらしいと言えばトーカらしいです」


 当然アタシもそんな人間の一人だ。いい子ちゃんなんて真っ平御免。勇者や賢者とか主人公なジョブはやりたい人に任せるわ。


 アタシは遊び人。好きなようにワガママに、徹底的に遊びつくしてやるんだから!

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