26:メスガキは神と遊ぶ
「………………は?」
天秤ヤロウは間の抜けたような声を上げた。何が起きたのか、全く分かっていない顔だ。
まあそうだろう。自分の正義をかけて戦いを挑んだ瞬間に、引き分けで勝負がついてしまったのだ。しかも自分は何もしないうちに。
いや、何かはしていた。アタシの最大ダメージを出す【不死の実を食う】+【国を買う】のコンボに対して、カウンターアビリティを仕掛けていたのだろう。天秤の神っぽく、平等にダメージを与えるとかそんな感じの。
「はい、しゅーりょー。一本勝負だからこれでお終いね。
アンタが勝ったわけじゃないから、人類救済とかはナシね」
引き分けだから勝ってない。そんな理屈でアタシはこの件をシメようとする。これで騙され……納得してくれるならラッキーだったんだけど、案の定というか当然の如く食い下がってくる天秤ヤロウ。
「どういう事だ!? 今、使ったのは――【究極の遊び】か!?」
あ、さすがに何されたのかは理解したみたいね。世界を管理するだけあって、ゲーム知識は十分にあるんだ。
「そうよ。20分の1を引いちゃったって所ね」
「な……!」
何が起きたのかを理解して言葉を失う天秤ヤロウ。
遊び人のスキル【遊ぶ】をレベル10にして覚えられるアリビティ【究極の遊び】の効果は、何が起きるかわからない。20個の効果の中からランダムで選ばれた効果が発動する。まさに使ってみるまで分からないアビリティなのだ。
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★アビリティ
【究極の遊び】:何が起きるかわからない。だからこそ面白いんじゃないか! 使うまで何が起きるかわからない。MP100消費。
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【究極の遊び】リスト
1:ぎゃあ!? ふく が ぬげちゃった!(効果:自分の装備が全解除される)
2:がっくり! あそび を おもつかなかった! (効果:MP減少)
3:つまらない と いし を なげられた! (効果:HP減少)
4:じゅーす を いっきのみして おなかをこわした! (効果:味方全員に<毒>)
5:かーど を しゃっふるして めを まわした! (効果:味方全員に<睡眠>)
6:おおごえ で うたって のど が つぶれた! (効果:味方全員に<沈黙>)
7:ひっく! よっぱらった かも? (効果:味方全員に<混乱>)
8:おいしい じゅーす が あめのように ふってきた! (効果:味方全員のMP全快)
9:みんな で ぱーてぃ だ! (効果:味方全員のHP全快)
10:あまい かおり が しゅういに ひろがる! (効果:味方全員が<魅了>)
11:らっきー! なにか ひろったぞ! (効果:ランダムにアイテムを得る)
12:しんけんしょうぶ の あそびくうかん だ! (効果:敵味方全ての常時発動以外のアビリティ効果を打ち消す)
13:ちから が みなぎってくる! (効果:味方全体に物理&魔法攻撃力増加のバフがかかる)
14:あそんで げんき に なった! (効果:味方全体のバッドステータスを解除する)
15:あそんで からだ が かるい! (効果:味方全体に攻撃速度増加のバフがかかる)
16:あそんだ あとは げんきいっぱい! (効果:味方全体に物理&魔法防御力増加のバフがかかる)
17:そらから おほしさま が ふってきた! (効果:敵全体に大ダメージ)
18:すなどけい が ひっくりかえる! (効果:敵全体の動きを一定時間止める)
19:だれも あそび に つきあって くれなかった! (効果:不発)
20:おぞましい なにかが はいご から し の び よ る……! (効果:戦闘強制終了。報酬はなし)
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パーティメンバーにバステがかかる酷い効果もあれば、めちゃくちゃ強い効果もある。曲がりなしにもレベル10アビリティなのバフデバフ効果もレベル相応だ。
で、今回発動したのは20番目の戦闘強制終了。これを引いたら例えラスボス戦だろうがイベント戦だろうが、強制的に終了してしまう。『逃げた』扱いで処理されるらしいので、イベント戦の場合はやり直しになるけど。
「何故……何故【究極の遊び】を使った!? 効果によっては自分に不利になることもあったというのに!」
「あー。アンタがカウンター狙ってたっぽいから『じゃあこっち』ってぐらいの理由?」
「いい加減すぎる! いいや、それにしても判断が早すぎる! まるで最初から使うつもりだったとしか思えない!
なんでこんなアビリティを使おうと思ったんだ!」
こんな、とはひどい扱いである。これでも遊び人にしか使えないアビリティなのに。
とはいえ、ゲームの<フルムーンケイオス>でも不評を買ったアビリティだ。ランダムなので戦略に組み入れられず、【遊ぶ】をレベル10にするメリットはない。大概の攻略サイトでもそんな評価だったわね。
とはいえ、なんで使ったのかと言われれば理由は明白だ。
「決まってるじゃない。ガチガチの正義で法律で頭カチカチで未来はこうあるべきだって神様を、『こんな』アビリティでやり込めた時の顔が見たかったからよ」
「……はい?」
再度、間の抜けた顔をする天秤ヤロウ。
「そう、その顔! 遊び人ジョブの全部を知っていて、それでいて自分はそれをメタッて戦略を立てて。その戦略がこんなふざけたランダム要素で遊ばれた時のその顔! その間抜けが拝みたかったのよ!
ねえ、今どんな気持ち? 人類の為に勝ち確定の勝負に挑んだ瞬間に遊ばれて勝負そのものを不意にされた気分は? もう貴方に人類は救えません。神様なのに情けないとか思わない? カウンター戦略取らずに普通に殴ってれば勝てたのにぃ」
アタシの言葉に天秤ヤロウは顔を下に向ける。どんな表情しているのかは知らないけど、震える体が悔しさを表していた。やーん、こ・も・の。
「あー、笑った笑った。それじゃ、こんどこそお終いね。渦ママのけんのー? それは返しておくわ。
エンドコンテンツ楽しみにしてるわよ」
言って『開発者モード』を放棄するアタシ。なんとなくあっちに出れば元の場所に戻れるんだなぁ、というのが理解できる。出口っぽいアイコンを無意識で感じるとかそういうのだ。アタシはそちらに向かって歩き出す。
「トーカちゃん、ありがとうございまちゅ」
そんなアタシに向かって、かみちゃまが言葉を放ってくる。
「あたちたち6人に話し合いの機会を与えてくれて。和解はまだまだ遠いでちゅけど、それでも一歩進めまちた」
「しーらない。アタシは楽しめればそれでいいだけよ。大勢で相談して決めれば質のいい戦闘ができそうってだけよ」
「はい。そうでちね」
軽く手を振ってかみちゃ間に答えるアタシ。話し合うことが大事だって教えてくれたのはかみちゃまだ。落ち込んでたアタシにそう言ってくれたから、アタシはコトネと向き合えた。そのお礼っていうわけじゃないけど、まあそういうことよ。
「余計なことをしやがって。人類を滅ぼすことには変わりはないからな」
「人間は醜いです。その意見は覆しはしません」
「ふん。ここで情けをかけたことを後悔させてやるぞ」
五流、巨乳、厨二悪魔が声をかけてくる。
「オレと戦うときに天才とはどういう事かを教えてやるぜ!」
「次は負けません。アンカーを扱うという意味を教えてあげましょう」
「サイキョーのモンスターで出迎えてやるからな!」
「そうね。楽しみにしてるわ」
エンドコンテンツにやる気満々の悪魔たちに、アタシは笑みを浮かべた。うんうん、正義云々言うヤツよりこういうほうが分かりやすい。仲間とか腐れ縁とかは御免だけど、敵としてならちょうどいい。
「我が分身を、よろしく頼む」
静かにそう言って頭を下げるのは、マッチョな神様だ。分身……コピペ神か。そう言えば声も似ているわ。まあ、いろいろ思う所があるんだろう。アタシには関係ないけど。
「…………私の正義は、折れない」
天秤ヤロウは諦めきれないのか、そんなことを言う。人類の為。アタシには理解できない価値観で、ずっと戦い続けるのだろう。そういうのは他所でやってちょうだい。その心意気だけは嫌いじゃないけどね。
「そんじゃ。楽しませてもらうわよ。つまんなかったら指さして笑ってやるから」
そしてアタシは創造主から普通の人間に戻るのであった。
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