24:メスガキは天秤ヤロウと話をする

「これでアタシの世界創るモードはお終いよ」


 アタシがそういうと、神とか悪魔とかは途端に騒ぎ出した。


「どういう事だ!?」

「この世界を好きにしていいんだぞ!」

「っていうか俺達に挑むためだけにお母様の権能を使ったのかよ!?」

「馬鹿じゃろお前」


 驚きの内容を要約すると『この世界を好きにできるのにもったいない』である。あと厨二悪魔、アンタは一回ぶん殴る。


「どうもこうもないわよ。世界を作るとかそういうのに興味ないの」

「興味ないって……」

「そうよ。アタシは<フルムーンケイオス>は好きだけど、プレイヤーの立場で楽しんでるの。クリエーターになりたいわけじゃないのよ」


 正直、好きなゲームの世界を好きにしていいって言われて面白そうという思いはあった。実際、こいつらがエンドコンテンツになるっていうアイデアは面白そうだし恨み張らせるしとダブルでいいアイデアだと思ったわ。


 でもそれぐらいだ。レベルキャップ解放とか新ステージとか考えても、自分がそれを遊べないのなら意味がないのよ。


「待ってくれ。アサギリ・トーカ」


 手を振るアタシに声をかける神の一人。天秤の神様だ。


「君は異世界の存在ではあるが、人間だ。

 その力を使って、この世界の人類が持つステータスを強化したいとか思わないか? 誰もが魔物よりも強くなれば、この世界の人類はより栄えるだろう。一考する価値はあると思うぞ」

「ないわよ、そんなの」


 なんかもっともらしいことを言ってくる天秤ヤロウの言葉を、ばっさり切り捨てる。


「な、なんでだ!?」

「そんなのRPG的に面白くないからに決まってるじゃない。あーだこーだと考えて強くなっていくのが醍醐味? とにかくそういうのなんだから。

 っていうか、人類を自分勝手な色眼鏡で見てない?」


 アタシは天秤ヤロウに向けて指さし、告げる。


「じ、自分勝手だと!? そんなことはない。天秤の神の名の元に、平等に判断している。このままだと人類が滅びそうだから、力を均等にすべきだと――」

「あ、そういう意味じゃないわ。バランス的な意味じゃなくて。

 人類が今以上に力を得て魔物を蹂躙したら、今度は人間同士で争いだすわよ」

「そんなことはない! 艱難辛苦を乗り越えて得た平和を、わざわざ乱すものなどそんなことをするわけがない!」


 天秤ヤロウの言葉にアタシは馬鹿を見るような目で見ながら言葉を返す。


「アンタね。人間が平和を望んでいるなんて思ってんじゃないわよ」

「は? 待ってくれ。魔物による暴力を望む人間などいない。だからこそ皇帝<フルムーン>は一定の支持を受けた。私も神として、人類の形を残すのに最良だと判断して――」

「あー。確かにあのアホ皇帝に支配させて何もさせないで保存っていうのは人類保護って意味じゃ正解ね。それ以外は最悪最低。神とか悪魔って、なんでここまで極端なのよ」


 ウザったく叫ぶ天秤ヤロウの言葉を手で制して告げるアタシ。


「いい? 人間なんて自分が苦しい時は神様とか王様とか上の人間に文句を言って自分では何もせず、平和な時は刺激を求めて対岸の火事を観戦して偉そうに評価したりするのよ。だけど対岸の火事が自分に迫ったらまた自分の上に文句を言って、自分のせいじゃないってわけき散らすのよ!」

「いや、人類はそこまで愚かでは――」

「全人類がそうとは言わないけど、大半の人間はそんなものよ。自分が如何に気持ちよくなれるかが大事なのよ」


 この世界の人間がアタシ達の世界の人間と同じ精神性を持っているなら、アタシの言葉はそう的外れでもないはずだ。仮の本当の正義の勇者とか高潔な賢者とかがいても、周りの人間がいろいろだめにする。


「悪魔は悪魔で人類皆ダメダメ死ね死ねで極端だし。とにかくアンタ達は一旦話し合いなさい。そうすれば、いい感じでバランスが取れるでしょ」

「おヌシ、結局人類に対してポジティブなのかネガティブなのかどっちなんじゃ?」

「どっちでもないわよ。いい所も悪い所もウザい所も鼻で笑う所も死んだらいいのにって思う所もあるけど、100か0しか選べないとか極端じゃないわ」

「結構ネガティブな意見が多いんだが。どちらかというと悪魔よりなんじゃねーか?」

「気にしたら負けよ」


 アタシは別に人類滅びろなんて思ってないわ。単にほとんどの人がアタシより下等だと思ってるだけで。


「話を戻すが……人類を強化するアイデアは許可してもらえないか」

「レベル1から無双するゲームとかすぐに飽きるわ。クリア後の追加コンテンツとかじゃないと楽しめないわよ。強くてニューゲーム!」


 天秤ヤロウが念押しするように問いかけ、アタシはそれを一蹴する。そんなアタシの言葉に天秤神は肩をすくめた。


「どうしても、ダメか?」

「駄目よ。残念でした。アタシ達の世界の事を調べたり、この世界の情報を送ってゲームを作らせたりしたのに、何の成果も得られませんでした、じゃあさすがに落胆するわよね」

「…………気づいていたのか」


 天秤ヤロウはアタシの指摘に一瞬固まり、すぐに頷いて認めた。


「前にもかみちゃまと話をしたけど、この世界とアタシの世界は似すぎてるのよ。アタシの世界を参考にしたのか、こっちの世界の文化がアタシの世界に流れたのかはわからないけど。世界を作っている誰かがパクったか何かしたとしか思えないってね」

「しかしそれが私だという確証はなかったはずだ。何故私だと思ったのだ?」

「さっきまではわかんなかったわよ。正直、その犯人探しにはあまり興味なかったし。

 でもアンタは『<フルムーンケイオス>はプレイヤーの立場で楽しみたい』っていうアタシの言葉を聞いて疑問を抱かなかった。それぐらいならあるかもしれないけど、『強くてニューゲーム!』とか明らかなゲーム用語を聞いてすぐに諦めた。諦めたってことは会話が成立したってことよ

 つまり、アンタはアタシの世界のゲーム用語に精通している。ならその可能性は高いんじゃないって程度の根拠よ」


 実際、根拠はそれだけのあてずっぽうだ。ちなみにもう一人候補はいたんだけど……。


「まあそこのイタ病みアイドル悪魔はゲーム用語はバリバリ知ってるみたいだけど、こんな事するような性格じゃなさそうだし。『オリジナリティじゃ!』とか言いながら自分センスで改悪してしまいそうだしね」

「うむ! 確かに妾なら丸パクはせぬ! 妾のハイセンスなネーミングで世界を染め上げようぞ!」


 候補その二である厨二悪魔はこんなあほな性格で速攻却下した。コイツが黒幕ムーブしても、絶対何処かでぼろが出るわ。ナイナイ。


「とにかく開発モードはこれでおしまい。あとはアンタ達が勝手にやってちょうだい。

 渦ママも元に戻すから、これまでと変わらない運営体制で頑張ってちょうだいね」


『世界を自由にできる』という事なので創造ターンも終わり、というのも可能のようだ。『アタシの命令で』前と変わらないように世界を創り直した、というかそんな扱い。なによそれ、って思うけどOKらしい。


「……いいや、駄目だ」


 なのに天秤ヤロウは、そんなのは認めないとばかりにアタシに食い下がってきた。


「この世界の人類の為に、ここで諦めるわけにはいかないのだ」

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