23:メスガキは神と悪魔に物申す

 この世界を好きにできる。


 渦ママの言うとおりにステータスを見れば『開発モード』とかいうのが追加されていた。本当はもっと仰々しいんだろうけど、アタシにわかりやすいように翻訳されているとか、そんな異世界転生あるある。


 開いてみれば、これまたゲームっぽくまとめられていた。インターフェイスも説明文もアタシにしっくりくる感じだ。町を作ったりするゲームみたいにいろいろできる。リセット機能も付いていて、思うままだ。


「凄いわね。フィールドマップの設定から個人のステータスまで好き放題じゃない。ジョブの修正もHPもやりたい放題。指先一つで何でもできるわね」


 うん。本当にこの世界全ての事に関して好き勝手出来るみたい。サイコーじゃないの。


「繰り返すけど、本当にアタシの好きにしていいのよね?」

<はい>

「よーし、それじゃあ……お前ら集合よ!」


 アタシはステータスをフリックして、世界に命令する。アタシを囲んでいた3つの光が、人の姿を取った。


「……はい。及びでしょうか、アサギリトーカ様」

「貴様……!」

「まじかあああああ!? こ奴がお母様の権能を継承したじゃと!」


 巨乳悪魔、五流悪魔、そして厨二悪魔だ。そして――


「は。天秤神ギルガス、ここに」

「リーズハルグ。母の召喚に応じます」

「トーカちゃん……。いいえ。我らが母よ。ご命令を」


 偉そうな神二人と、そしてかみちゃまだ。


「知っているとは思うけど、この世界はアタシが受け継いだわ。当然だけど、アンタらはアタシの部下よ。

 分かったらアタシに跪きなさい!」


 悪魔三名と神三名は一瞬だけ様々な感情を浮かべたが、すぐにアタシの前で膝を曲げて頭を下げた。うっはー。マジでこいつらが部下になるんだ。


「ねえ、今まで下に見ていた人間風情に跪いて忠誠を誓うとか恥ずかしくない? 今どんな気持ち? どんな気持ちぃ?」

「アサギリ・トーカ様に関して不敬な想いを抱くことなどありません」

「素直に言いなさい」

「このクソガキぶっ殺してやりてええええええええ!」


 アタシが『命令』すると五流悪魔がものすごく悔しそうにこぶしを握った。厨二悪魔も巨乳悪魔も似たような表情だ。男神二人はまだ冷静だが、拳を握っているのが分かる。


「素直に言うと恥ずかしくはありまちぇん。むしろそういう煽りをするトーカちゃんの方が恥ずかしいでち」

「うるさいわね。これまで散々世界中で迷惑かけられたんだから、これぐらいの仕返しはいいでしょ?」


 かみちゃまだけはどこか呆れるように言う。言われて少し恥ずかしくなったけど、気にしたら負けだ。


「はー。どう思っていようよかってだけど、これまでアタシの邪魔をしてきた恨みぐらいは晴らさせてもらうからね。

 悪魔三人もそうだけど、神もよ。アンタらがしょうもない事するから色々大変だったのよ」


 思えばこいつらがいろいろ暗躍してたせいで、アタシの<フルムーンケイオス>ライフは予想外の事ばかりだったのだ。いつか絶対ぶっ飛ばすって決めてたんだからね。


「…………」


 アタシの言葉に神と悪魔は言葉を返さない。アタシとかこの世界の人間にしたことを反省するような性格ではないのだが、それでも渦ママの力を得たアタシに逆らうつもりはなさそうだ。


 こいつらの生殺与奪剣はアタシにある。『開発モード』の範疇内にこいつらも入っているのだ。悪魔三柱と、神三柱の設定。その気になれば存在をなかったことにすることもできるわ。過去にさかのぼって、初めから存在しなかったこともできるとかどんだけよ。


 いろいろ引っ掻き回された恨みを込めて、アタシは告げる。


「アンタら、人類の事で喧嘩するの禁止!」

「「「「「「は?」」」」」」


 アタシが言った瞬間に、神と悪魔はそろって同じ言葉を返した。


「アンタらがしょうもない喧嘩するから人間が巻き込まれてメンドクサイ事件が起きてるんだから。そういうのはやめてちょうだい。

 人類なんかほっといたら勝手に絶滅するんだから、わざわざ神とか悪魔が干渉する事じゃないわ。アンタらはもっと別の事をしてこの世界を管理してればいいのよ」


 全くめんどくさい。こいつらが喧嘩している理由なんて本当にどうでもいい事なのだ。そんなことの為にずっと兄弟姉妹喧嘩しているとか、馬鹿じゃないの?


「ええと、恨みとかは……?」


 おずおずと聞いてくる巨乳悪魔。アタシはそれにいやらしい笑みを浮かべた。


「あるわよぉ。自分が喧嘩してきた相手と手を結ぶとか、最高にストレスかかるんじゃない?」

「うわコイツ性格悪い」

「トーカちゃんらしいでち」


 アタシの言葉に納得したように告げる神様陣営。納得というかアタシの性格の良さに感動している感じかしら?


「あと誰にも傷けられない設定も禁止よ。アンタらはエンドコンテンツのラスボスとして君臨してもらうわ。新しいダンジョン創って、そこでボスキャラとしてやってくるキャラを迎え撃ちなさい。

 アンタらに勝ったら『お見事!』と書かれただけの記念アイテムが手に入るとかそんな感じの奴」

「えんどこんて……んつ?」

「知ってるぞ。裏ボスとかじゃな! ぬっふっふ。妾は魔王<ケイオス>と皇帝<フルムーン>を部下にして待っておこう」


 アタシの言葉に首をかしげる悪魔ズ。厨二悪魔だけは言いたいことが分かったらしい。ムカつくけど、2ボス同時戦闘はやってみたいいいアイデアね。厨二悪魔のくせに。厨二悪魔のくせに。


「とにかく喧嘩禁止。人間が好きとか嫌いとか思うのは自由だし滅ぼしたりするのはいいけど、行動に移す前に必ず6人で相談すること。いいわね!」

「滅ぼすのはいいのかよ」

「いいんじゃない? ムカつくヤツをどうにかしたいと思うのは当然の感情よ。でも喧嘩するな。皆で相談してから判断しなさい。皆賛成ならやってよし!」

「オマエ、同じ『人間』なんじゃないのかよ? 異世界の事だからって他人事過ぎないか!?」

「人間だからってムカつくやつはいるわよ。今さっきぶっ飛ばしてきたけど」


 アホ皇帝の事を思い出し、ちょっとイラっと来た。それで思い出したことを言ってみる。


「そうそう。アタシみたいに召喚された人を元の世界に戻すゲートを作ってちょうだい。望む人はそこから元の世界に帰れるとかそういうの」


 アタシはあのアホ皇帝に無理やり召喚されたのだ。はっきり言って誘拐である。きちんと帰る道を作らないといけないわ。


「召喚した者を全員一斉送還ではだめなのか?」

「駄目よ。それだとアタシも帰るからアンタらをぶちのめせないじゃない。せっかくエンドコンテンツ作ったのにそれを楽しめないとか、何のために設定したかわからないじゃない」


 神の一人……天秤の神だっけか? その言葉にアタシは手を振って答える。


「……え? 私達を……倒す?」

「そうよ。まさか逆らうつもりじゃないでしょうね?」

「いいえ、そういうつもりは……」


 巨乳悪魔がアタシの言葉に疑問を思ったのか聞いてくる。アタシに逆らうつもりはないけど、その後で言葉を続ける。


「トーカ様が今持つ権限を使えば私達を消滅させることは余裕です。恨みを晴らしたいのならそうすれば終わりなのですが」

「恨みはあるわよ。だからダメージ与えられる設定にしてボコるって言ってるのよ」

「ええ……どういう……?」


 アタシが言いたいことを理解できないのか、巨乳悪魔を始めとした悪魔ズと神ズは困惑している。……あ、かみちゃまは気づいたっぽい。ちょっと苦笑してるわ。


「これでアタシの世界創るモードはお終いよ。けんのーだっけ? それを破棄して1ゲームプレイヤーに戻ってアンタらに挑むから」

「「「「「はああああああああ!?」」」」」


 アタシの世界創造辞める言葉に、かみちゃま以外の神と悪魔の驚きの声が響き渡った。

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