18:メスガキは皇帝(第二形態)と戦う

「五柱の力を得た余にひれ伏すがいい!」


 アホ皇帝は叫ぶと同時に天秤のような光のエフェクトを形成し、エフェクトが爆ぜるように細かな光となった。小さな光は矢弾となってちらに向かって降り注いでくる。多分だけど、これが神様アビリティなのだろう。


「ギルガスの【等しき裁き】でち! 広範囲の無属性魔法攻撃でちゅ!」


 かみちゃま説明ありがと。でも今のアタシ達には無意味な攻撃よ。


「コトネ! 【聖なるかな】よ!」

「聖なる、聖なる、聖なるかな――」


 コトネの歌声と共に発動するのは【聖歌】のレベル10アビリティ。コトネの周りに三つの光が生まれ、それが回転しながら広がっていく。アタシ達に降り注ぐ光は何の効果も発揮せず消え去った。


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★アビリティ

【聖なるかな】:平和を求める神の歌声をここに。アビリティ発動中、フィールド上全ての攻撃行為は無効化される。MP消費25/秒


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「何……! 神の裁きを消し去っただと!?」

「聖母神は争いを好みません。破壊は全てを無に帰すのですから」


 驚くアホ皇帝に告げるコトネ。このアビリティが発動している間、あらゆる攻撃は無効化される。攻撃できず、されない状態だ。ゲーム的に言えば『町中と同じ状態』になるわ。補助や回復はかけることができるので、戦局の立て直しに使われるわね。


「愚かだな。その声が枯れた時が最後だ。無限に維持できるものでもあるまい」


 アホ皇帝の言うように弱点は膨大なMP消費だ。【聖歌】使用中は自分でポーションなども飲めないので、回復はできない。、魔法特化したコトネのステータスでも、もって数秒。


「そうなる前に攻撃もするからいいのよ」


 言ってアタシはアホ皇帝に迫る。アタシが前衛、コトネが後衛。コトネは回復と支援に徹してもらう作戦よ。切り札の【聖なるかな】を使うのは二人を巻き込む広範囲攻撃が飛んできたときだけ。そう言い含めている。実際、さっきの神様アビリティが終わった時にはコトネは【聖なるかな】を止めているわ。


「遊び人が攻撃だと? 笑わせてくれるわ」

「ホント、アンタはアホね。何度も何度もそう言って、アタシに蹴られたのを忘れたの? ああ、頭悪いから覚えてないんだ。ゴメンねー」

「その減らず口がどこまで叩けるか見ものだな! 余の【剣の誓い】を食らうがいい!」


 叫ぶと同時にアホ皇帝の頭上に剣が生まれる。【セイクリッドナイト】以上とか言っていたから、対象単体の属性攻撃だ。ただし攻撃回数は12回。いや、それ以上なのかな? 【セイクリッドナイト】と同じだとしたら、HP的にアタシでは耐えられない。


 その攻撃を――アタシはあえて何もせず受けた。20回の斬撃がアタシを襲い、HPが一気に削られる。


「……あぅ……!」

「どうだ! 神の力を得た余の一撃は! そのまま跪き、許しを請うがいい! それとももう息絶えたか? つまらん玩具だったということか」

「つまんないのは、アンタのセリフよ。もう少しボスっぽいセリフ考えて喋りなさいよね」


 HP1の状態で何とか耐えるアタシ。耐えられるはずがないダメージを受けたのに、どうにか耐えた。根性とか奇跡とかそんなものじゃない。そういうアビリティを使ったからだ。


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★アビリティ

【不死の実を食う】:究極の食物。それは不老不死の果実。HPが0以下になった時、HP1になって復活できる。使用後、インターバル24時間必要。常時発動。


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【食う】スキルのレベル10アビリティよ、魔王<ケイオス>戦で使った『遁甲符』と同じ効果ね。【不死の実を食う】は常時発動だけど一度使うと24時間経たないと効果を発揮しないわ。いわゆる一日一回の保険だ。


 で、当然魔王<ケイオス>と同じコンボが使えるわ。手にした『辰砂』はHP減少値がそのまま攻撃力になるわ。当然ここで最大リソース使っていくわよ!


「死に体が吠えるか。皇帝と遊び人。身分も格も雲泥の差よ。我が身のみすぼらしさを悟り、恥じて首を垂れるがいい」

「おあいにく様。こう見えてもアンタから逃げた国民を抱える領主だったり、草原の国王だったり、ヴァンパイア国家の象徴だったりするのよ。格の違いで言えばアンタの方が下だからね」

「道化の戯言なら少し笑える冗談を言うんだな。それこそつまらぬ話よ」


 一応本当の事なんだけどね。アタシ自身も忘れそうになるんだけど。


「じゃあこれで信じてもらえるかしら」


 アタシは言って<収容魔法>内にあるガマお金の量を再確認した。それらを全部使いきるようなイメージをする。その瞬間、


「トーカさんへの恩を返す時だ!」

「ヤーシャを救ってくれた英雄に加勢を!」

「アウタナの戦士は友の為に戦おう!」

「アルビオンのブラウニーはお客様に恩を返しますぞ!」

「ムジークの音楽ギルドはアイドルの為に戦います!」

「グランチャコの民はアナンシ王を讃えよう!」

「今宵、ヴァンパイアは恩人の為に牙を向こう!」


 そんな声と共に無数の兵士やら戦士やらアイドルやら草原の人達やらヴァンパイアがこの場に召喚される。まあこれはアビリティエフェクトで、実際にその人達が召喚されたわけじゃないんだけどね。


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★アビリティ

【国を買う】:なんて馬鹿げた金の使い方なんだ! 国の騎士団を購入し、一斉突撃をしてもらう。攻撃回数は消費したガマに依存する。全MP消費。


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【買う】スキルのレベル10アビリティだ。お金を支払えば支払うほど攻撃回数が増す連続攻撃。財布の中を全部使いきっての攻撃よ。これに辰砂の攻撃力プラスも載るわ。一気に削り切るわよ!


「なん……だと……!? こんな生意気な子供にこのような人望があるはずがない! これは何かの間違いだ!」

「はん。お金を払えば人間はいくらでも動くし裏切るのよ。そんなことが分からないなんて、皇帝のくせに世間知らずぅ」


 驚くアホ皇帝を鼻で笑うアタシ。これは【買う】のアビリティなのだから、当然お金で動いているのだ。札束ビンタは何時の時代でもどの世界でも有効なのよ。


「どっちが悪役なのかわからないでち」

「まあまあ、トーカも結構照れてるんですよ。今まで旅してきて出会った人たちがこういう形で出てくるなんて思いもしなかったみたいですし」

「そんなことないもん! ……まあ、その、ちょっと、うん」


 かみちゃまとコトネの言葉に顔を向けずに言うアタシ。これがアビリティエフェクトで、実際に出会った人たちの声じゃないのはわかっているけど……歩いてきた道程を思い出して……ああ、もうなしなしなし! ちょっと粋な演出だったなぁ、ってだけよ!


 数多の人達に総攻撃を食らうアホ皇帝。兵士の槍が貫き、アウタナ戦士の斧が叩き込まれる。ブラウニー達が突撃し、アイドルの歌が魔の力を奪う。草原の民が操る動物達が蹂躙し、ヴァンパイアの牙が鋭く突き立てられた。


 聖女の【聖言】レベル10と遊び人の【食う】【買う】レベル10のコンボ。それがHP9500近くを一気に削り取る。だらだら時間をかける気なんてないわ。一気に決めるのがアタシ流よ!


「くっ、馬鹿な……! 神の力を持つこの余が、負ける、のか……! 悪魔の創りし武具も強靭なる肉体も、遊び人程度に敗れる……だと!?」


 アホ皇帝の体が穴だらけになり、そのまま塵になっていく。驚きの表情と言葉から察するに、第三形態はなさそうだ。そんじゃ、エンディングね。スタッフロールでも流れるのかな? 


「まさかこれを遊び人如きに使うことになろうとはな!」


 前言撤回。まだなんかあるの?


 

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