16:メスガキは皇帝(第一形態)と戦う

「余の支配から反乱する者がいるというのか!」


 怒りの言葉を吐くアホ皇帝。アタシからすればダメージが通るようになったというイベントでしかないけど、いい機会だし煽っておこう。


「反乱されるのが意外って思ってたぁ? ばーか、アンタの支配なんか誰も受けたくないのよ。勝手に最高の皇帝と思ってたけど、実はみんな嫌ってましたぁ! ざーんねーん!

 歴史書には最低最悪の犯罪者として名前が載るのか・く・て・い。かわいそー。死んでもなお馬鹿にされ続けるとかホントかわいそー。同情するわ―」

「トーカ……なんでイキイキしてるんですか」

「相手が弱っているところにとどめを刺すのは戦いの基本なのよ」


 戦いの基本をレクチャーするアタシ。弱点ついて楽して勝利。これがアタシなのよ。


「ええい、黙れ! 口を開けば下らぬことを! その口、永遠に塞いでくれるわ!

 出でよ、我が精鋭たちよ!」


 アホ皇帝が叫ぶと同時に、地面に流れる赤い水が膨れ上がり、赤色の鎧を着た騎士になる。その数は20。ブラッド系最強のブラッドナイトだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:ブラッドナイト

種族:魔法生物

Lv:80

HP:242


解説:血液から生み出された騎士。主に忠義を示すために生み出された魔法生物


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


<フルムーンケイオス>では魔王の血液から生み出された生物で、魔王城内を守るするモンスターだ。そういう設定なのでブラッド系は魔王城にしか存在せず、デーモンと並んで魔王城の強モンスター双璧である。


「我が高貴なる血より無限に生み出されし騎士団よ。並の騎士団などこの一軍で蹂躙し、多くの国を滅ぼした騎士達だ! 遊び人如き葬るのなど造作もないわ!」


 実際、人間の国家に出てくるNPC騎士よりも強い。コイツが無限に沸いてきて襲い掛かってくるとか、どんな負けイベントかとおもうわ。


「遊び人如き、ねえ?」

「笑わないでください。皇帝<フルムーン>は本気で言っているんですから」

「コトネだってアタシと同じ気分じゃない?」

「そうですね。そこは否定はしません」


 展開するブラッドナイトを見ながら、アタシとコトネは緩く笑いながらそんなことを言っていた。言っている間にもブラッドナイトの数は増えているのだが、それでも笑みは崩れない。


「何をごちゃごちゃと。勝ち目がないと悟って狂ったか? 今頭を垂れるのなら、聖女の命だけは助けてやろう。皇帝の慈悲に感謝するのだな」

「そっかー。アンタ本気で知らないんだもんね。アタシの事を遊び人って理由で外に投げ飛ばすんだし。

 こんなのどれだけ持ってこられても、アタシとコトネには意味がないのよ」


 言ってアタシはブラッドナイトの前に立つ。一斉に迫る騎士を前に、アタシはにっこり微笑んだ。


「くすっ、そんなよわよわレベルでアタシに歯向かうつもりなのぉ? 負けるってわからないぐらいに頭もよわよわすぎてうけるー」


【アルカイックスマイル】――アタシよりレベルが低い相手を<魅了>するアビリティだ。<魅了>されたブラッドナイトはよわよわながらも周囲のブラッドナイトと同士討ちを始める。


「なっ!? どういうことだ! 余の言う事を聞け!」

「レベル80程度のザコなんかどれだけ呼んだって無駄なのよ。ざーこざーこ」

「余の精鋭たちをザコ呼ばわり……だと!」

「騎士の蹂躙をお望みなら、私がお相手しましょう」


 聖杯を掲げ、祈るポーズを取るコトネ。その祈りに合わせるように、聖なる印が刻印された騎士達が召喚されていく。


「聖女コトネの名の元に、騎士達よ突き進め! これは聖なる戦です!」

「おおおおおおおお! 聖女様!」

「悪なる皇帝を打ち砕け!」

「これは世界を救う戦いである!」


 コトネの【クルセイド】が発動し、召喚された騎士達が突撃する。一直線に突き進み、ブラッドナイトを駆逐していく。召喚された騎士が消えれば、そこにはダメージを負ったアホ皇帝以外は残っていなかった。


「聖魔法【クルセイド】! 話には聞いていたが……この威力は歴史書以上のものだぞ!」

「純粋にコトネのスペックの結果ね。このこのマジメ努力を舐めるんじゃないわよ!」

「ええ、トーカの教えの賜物です」


 ザコ敵を一蹴するアタシとコトネ。ぶっちゃけ、カルパチアではこれよりレベルの高い吸血鬼と戦争してたのだ。無限沸きとはいえそれより弱い相手など話にもならないわ。


「だがそれほどの高レベルアビリティは連発もできまい。一発撃てば補充が必要だ」


 高レベルアビリティは消費MPが高いから連発できない。当然その対策でポーションを大量に購入している。


「回復などさせぬ。貴様らの血も魔力も、全て皇帝に捧げよ」


 アホ皇帝が言うと同時に、軽いめまいのような感覚が襲う。何が起きたのかとステータスを見るとHPとMPが減っていた。そしてアホ皇帝が何かを咀嚼するように唇を舐めている。


「量は多いが下賤の味だな。反吐が出る」

「HPMPをドレインしたのね……キモイわ!」


 ドレイン。要するに吸収アビリティだ。相手のHPとMPを減少させ、その分自分のHPとMPを回復する。その上位版がレベルドレインだ。となるとこいつのコンセプトは……。


「成程ドレイン系ね。自分じゃ何もできないから、他人から奪っていい気になるのが皇帝なんだ。騎士に命令したり奪ったり。自分の力は何もないなんて情けなーい」

「真の支配者は動かずとも贅沢ができるものだ。民が労働して税を納めるように、皇帝は座してその税を受けるモノよ」


 アタシの推測を肯定するかのように、アホ皇帝は鼻で笑った。ムカつくけど、推測が当たったのはラッキー。っていうか自分の能力喋るとかホントアホ皇帝。


「税を民の為に使うのが支配者の務め。それを放棄するなど度し難い行為です」

「ふん、余に支配される喜びを知ればそのような戯言は言わぬ。もっとも貴様らには別の支配をくれてやる。永遠に終らぬ奴隷の人生をな」


 コトネの言葉に詰まらない返しをするアホ皇帝。何よそのどこかのエロ男子が書いた小説に出てきそうな言葉は。アホ皇帝、語彙力ないわね。


「アタシの喜びはアタシが決めるわ。具体的には勘違いしているアホに現実を突きつけるってことよ。アンタの攻撃なんか、全然通じないんだからね」


 ドレイン攻撃を続けるアホ皇帝。MPを枯渇化させれば攻撃もできなくなるだろうという考えだろうけど……甘いわ。


 ドレイン攻撃は吸収するっていうメリットがある分、火力自体は低い。素の攻撃力が低い分、防御力でカットできるわ。つまりアタシの防御力が高ければ無駄攻撃ってことになる。


 おねーさんが作ってくれたドレスに【カワイイは正義!】をかけて防御力2倍。ついでに【HP自動回復】の回復量も2倍になってるわ。アホ皇帝のしょぼいドレイン攻撃なんか大した痛みにならないし、問題にならないぐらいにHPが回復する。


 当然アタシもコトネもドレインされっぱなしじゃない。普通に攻撃してアホ皇帝のHPを削っていく。【笑裏蔵刀】による確定クリティカル+ドレス効果でのクリティカルダメージ増加。コトネの高レベル聖魔法。それらが積み重なれば、


「バカな……! 皇帝が膝をつくだと……!」


 コトネの聖魔法を食らって、言葉通りに膝をつくアホ皇帝。手にしていた盃が割れ、アホ皇帝は悔しそうにアタシ達を見ていた。


「はい、終了。前座だしこんなもんでしょ。

 ねえ、どんな気持ち? 上から目線で見降ろした遊び人にここまで無様に負けるってどんな気持ち? ねえ、教えてよこ・う・て・い・さ・ま♡」

「ぐ、ぐおおおおおおおお……!」


 アタシの問いかけに答えず唸り声を上げるアホ皇帝。もー、人の質問にはきちんと答えないとダメだって教わらなかったの? だからアホ皇帝なのよ。


「まさか貴様如き子供に、真の力を解放する事になろうとは……!」


 そして定番のセリフを吐くアホ皇帝。はいはい、第二形態ね。


 前座も終わったし、ここから気合い入れていくわ。

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