15:メスガキは皇帝と邂逅する
「アサギリ・トーカ、イザヨイ・コトネ。貴様らが来るのを待っていたぞ」
玉座っぽい所で盃を手にして立つアホ皇帝。その距離は15mほど。
「神も悪魔も余に力を貸す。いわばこの世界そのものが余に力を与えたも同然。その世に歯向かう貴様ら二人は世界に歯向かうも等しいと――」
「会話スキップキーック!」
どっかーん!
アタシはその距離を一気に走って、飛び蹴りを放った。ジャンプと同時に両足をそろえてのキック。思いっきりアホ皇帝の胸に当たり、吹き飛ばした。
「アンタの会話とかどうでもいいわ。スキップ機能使って飛ばすに限るわよ」
「その、聞くに値しないのは理解しますけど、かといっていきなり攻撃は流石に野蛮かと」
「ふん。どうせRPG的にも殴って解決するんだから早いに越したことはないわ」
後ろで何か言っているコトネに応えるアタシ。長々とアホ皇帝がボク偉い的な話をしているのを聞く気も起きないわ。
「くっくっく。そうよ、貴様は余の御言葉を遮る無礼者だったな」
吹き飛んだアホ皇帝はすぐに起き上がる。ダメージらしいダメージは受けていない。この辺りは前に戦った時と同じだ。
「ちょっとコピペ神。ダメージ与えるようにしてくれるんじゃなかったの。この欠陥品」
「まだやってねーよ。いきなり蹴りかかるとか思わなかったんだよ」
「空気読めないわね。速いは正義。現代っ子は倍速でエンタメを楽しむんだから」
「場を読む云々ではない気がします」
「そもそもいきなり飛び蹴りはどーかと思いまちゅ」
ダメージを与える仕様にしていないコピペ神に怒りをぶつけるが、コトネとかみちゃまから総スカンを食らった。理不尽すぎるわ。
「皇帝<フルムーン>。たとえ神と悪魔が貴方に加担しようとも、この世界の未来はこの世界の人間が決めます。力で未来を閉ざそうなどという行為を許すわけにはいきません」
なんなコトネがそれっぽいことを言いだした。気にせず攻撃しようかなぁ、って思ったけどちょっと空気読んだ。別にコトネに後で睨まれるのがやだなぁ、とか思ったわけではなく。そうではなく。
「それが神の選択だとしてもか?」
「少なくとも聖母の神シュトレイン様はその行為に反対です。人に慈しみあれ。たとえ愚かでも自分の足で歩いてほしいというのが聖母神の御言葉です」
「戯言を。愚者共が歴史にどんな傷跡を残したと思っている。貴様らはこの世界の人間ではないから知らぬだろうが、まさに獣のような所業よ。
魔王<ケイオス>による人類共通の敵を前にしても団結せず、利己的な行動ばかり。魔物よりも人間同士の食い争いで滅びるであろうよ」
アホ皇帝は吐き捨てるように言う。その意見自体には賛成である。人間なんてそんなもので、共通の敵がいようとも一致団結とかできるはずがない。
「ならば絶対的な支配者である余が全てを納めたほうが、より良い世界になるであろう」
でもこいつもその人間の一人で、鏡持って見せたげたいぐらい愚かな奴なのだ。一致団結できないから自分が支配者になるとか、どんだけ極端か。
「ただ一人が納める世界に意味などありません。そこにどんな営みが生まれるというのですか!」
「営みなど要らぬ。大事なのは支配すること。全ての生命は世に支配される権利があるのだ。それを放棄すれば、死ぬ。それだけよ」
「そんな暴論――」
「あー。やめやめ。これ以上は無駄だし」
反論しようとするコトネに割り込むアタシ。これ以上は平行線だし、そもそも相手はこっちの事を理解しようともしていない。ラスボスムーブに酔っぱらってるアホ皇帝に言うことは、一つだ。
「前座はとっととやられて、本命だしなさいよ」
「ぜ、前座だと……!?」
「そうよ。アンタは前座。ラスボスが変形するのはお約束だもんね。魔王<ケイオス>も第二形態があったし、今回は三段かな? どっちにしてもアンタはサクッとやられるんだからいい気にならない方がいいわよ」
「ふ、ふざけるな! 余が、余が前座だと!? このオルスト皇国の第一皇子にして世界の覇者! 赤き水でこのミルガトースを覆う皇帝<フルムーン>こと、クライン=ベルギーナ=オルストを前座扱いだと!」
怒るアホ皇帝。でもだって、ねえ?
言いたくはないけど、アホ皇帝に前負けたのはイベントをこなしていない負け戦闘だったからだ。具体的に言えば対抗策である『一度レベルドレインされる』『聖杯を手にする』というフラグを取ってなかったからだ。
……まあかみちゃまとかコピペ神の話を聞くに皇帝<フルムーン>が現れてから『ヤベェ!? コイツどうにかしないと!』って感じで聖杯作られたらしいから、順番的にはフラグの方が後でアップデートされたわけで、何よそのクソゲーは!
「ならば見るがいい……! 貴様たちの力を取り込んだ後も世界中の者達の力を得た! もはや人間の及ぶ範囲ではない我が強さをその身で味わうがいい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:皇帝<フルムーン>
種族:皇帝(ボス)
Lv:210
HP:2889
解説:世界を統べる皇帝。血の聖杯ですべてを満たす存在。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レベル210。HP約3000。プレイヤーのレベル最高が100だから、人間の成長範囲を超えているのは事実ね。ついでに言えば魔王<ケイオス>の第一形態よりも強いわ。強いって言われれば、強い。
でもまあ、うん。そうね。素直に言うと――
「マジでその程度? 世界中の人を取り込んだって言うけど、全員レベル1とかの初期段階じゃないの?」
ぶっちゃけもう少し盛ってもいいのよ、って感じだ。
「な、何だと!?」
「だって、アタシとコトネのレベルを奪ったら80ぐらいまで行ったんでしょ? あれからどれぐらいの人間とかモンスターとかドレインしたか知らないけど、さすがにそれはしょぼくない?」
確かに<フルムーンケイオス>はレベルが上がるごとに必要経験点が多くなり、1から95と同じ経験点で95から99とか言うひっどい経験点テーブルだけど。それでもあの時のアタシとコトネの強さでもかなり上がったんだから、もう少しあってもいいのに。
「戯言を。あまりの力の差に恐怖して現実逃避したか。
そもそも貴様らは世に傷一つつけることもできぬ。何もできず、また力を奪われるがいい」
「あ、それも解決してるから」
「聖杯よ。後光を示したまえ!」
コトネがコピペ神……聖杯をかざす。聖杯は輝き……何かの効果を発揮したんだろう。よくわかんない聖なる力とか神の力とかが、すごいエフェクトで発動したんじゃないのかな? 見えなかったけど。
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
「問題ない。皇帝<フルムーン>内にいる二人の力を覚醒させた。皇帝<フルムーン>に傷をつけることができる。加えてレベルドレインも無効化した」
「何だと……! 余の取り込んだ力が反発している!? 余の支配から反乱する者がいるというのか!」
アホ皇帝にダメージを与えられるようになったのを再確認する。信じられないけど、アホ皇帝が何か動揺しているし信じていいんだろう。
「よっし。そんじゃ今度こそ蹴っ飛ばしてやるわ」
とっとと第一形態倒して、次の段階に行くわよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます