最終章 メスガキとフルムーンケイオス
1:メスガキは変態おねーさんと再会する
アタシ達がカルパチアでごたごたしている間に、世界は大きく変わっていた。
一言で言えば、アホ皇帝が大きく進攻していた。チャールストンを落とし、ヤーシャに攻め入っている。他の国や町はすでに陥落し、そこは赤い水に沈んでしまったとか。
そして世界中に5体の魔物が飛び交っているという。
リーン、テンマ、アンジェラ、ギルガス、リーズハルグ。
悪魔と神を模した強力なモンスター。宙を舞い、ランダムに人の住む町に現れては破壊をして帰っていく。その気になれば一気に街を壊滅できるのだが、そいつらはあえてそれをせずにこう告げて去っていくのだ。
『アサギリ・トーカとイザヨイ・コトネを皇帝<フルムーン>の元に差し出せ』
『その二人を捕えるまで、我々は破壊を続ける』
『二人を差し出せば、安全を保障しよう』
アタシ達をアホ皇帝に差し出すために、あえて全破壊せずに遊んでいるのだ。いつ来るかわからない襲撃に町の人達は怯え、そしてそれが正しくないと知りながらアタシ達を捕まえようとする。
『このジュースはサービスです。皇帝<フルムーン>を倒そうとするお二人を町は歓迎していますよ』
『ありがとー。……あれ、眠く、なってきた……?』
『あふぅ……』
『へっへっへ。魔法による解毒もできない特注の睡眠薬だ。今のうちに……』
何も知らないアタシ達は街の宿屋で毒を盛られ、動けなくなった所を拘束される。二人はこのまま皇帝<フルムーン>の元に差し出されるだろう。
だがその前に――
『へっへっへ。本物かどうかしっかり確かめないとな』
『体の隅々までしっかり調べさせてもらうぜ』
『お前達が悪いんだからな。悪い子は痛い目に遭うことを教えてやる』
身動き取れないアタシ達の服を剥ぐ男達。
「やぁ……そこ、さわるな。ら、らめぇ……!」
「ゆ、ゆるひて、くらしゃ……ひ、ゃあああ!」
幼い体に暴力的な欲望がぶちまけられ――
……………………。
…………。
……。
「――という目にあうかもしれない所だったんですよ!」
鼻息荒く拳を握ってそんなことを叫ぶのは、ロリコン変態テーラーおねーさんだ。再会するなりそんなことを言うあたり、とってもおねーさん。
「最後の展開はおねーさんの妄想じゃない。この変態」
「ぐはぁ! 容赦のない罵倒。リアルでひどい目に会うのは絶対だめですが、妄想ぐらいいいじゃないですか!? あ、でも罵倒がむしろ少し優しくなったかも? 変態の後にもう少し追加してもいいんですよ。
はっ、これは放置プレイ! そのような高度なテクニックを覚えるとはさすがです!」
「あの、ソレイユさん。落ち着いてください」
相変わらずの暴走っぷりである。ハスハス興奮して、目をウルウルさせている。なので遠慮なく罵ってやる。
「
「うぐはぁ! これです! この容赦のなさこそがトーカさん! そんなジョブがあるならころころしてでもうばいとる!
……いえいえ、さすがに針子は捨てません。幼女を愛でる。幼女の服を作る! 両方こなすのがワタクシなのです!」
「ブレないわねぇ」
状況を説明すると、アタシ達がトランシルバニア城を出てすぐに、乗用トカゲに乗って走ってくるお姉さんと合流したのだ。正確に言えば、おねーさんはアタシ達を探してカルパチアに来たのだ。
「お二人ともお久しぶりです! 相変わらず、何処にいても事件を起こすので探すのは容易でしたよ。さすがに十字架の塔には驚きましたが!」
アタシをトラブルメイカーだと思ってない? 騒ぎを起こす原因は大抵コトネなのに……と、口にしたらコトネがものすごく怒りそうなので言わないけど。
そしておねーさんは神と悪魔を真似したモンスターが世界中を飛び回って、街を襲っていること。そしてそのモンスターが街の人にそういう要求をしていることを教えてくれたのである。
「わざわざ言いに来なくてもいいじゃない。チャットあるんだし」
「チャットで罵られるよりは、直接会って罵られる方が気持ちいいからに決まってるじゃないですか」
「なにこの犯罪者半歩手前女」
連絡だけならステータスにあるチャットを使えばいいのに、わざわざアタシ達に会いに来たのだ。マジで逮捕されるんじゃないの? 通話で済む話をわざわざ会いに来るとか。ストーカーじゃない。
「違います! 大人になるにつれて失っていく純粋さ。社会的な立場で生まれてしまう常識と遠慮。まだ幼い子供にはそれがないのです! いわばピュア! 世間で穢れら心を、仕事で疲れた心を、ピュアな感情が洗い流してくれるのです! なので合法!」
「やだなぁ、そんな法律」
「トーカさんも大人になればわかります。いいえ、大人にならないでください! そのままのトーカさんでいて! ちっちゃく可愛く生意気で素直で口が悪いトーカさんのままでいて!」
縋りつくほどの勢いで迫ってくるおねーさん。近寄るな、この変態。アタシが手を振って遠ざけると、むしろ嬉しそうにほわっとした顔になる。だめだこの女はやくなんとかしないと。
「行き違いになる可能性もありましたし、せめて事前に連絡ぐらい入れていただければよかったのですが」
「本当のことを言うと、わざわざ会いに来たのは『アンジェラ』対策です。現在ステータスを通した交信は全て『アンジェラ』に知られてしまいます」
「……は? なにそれ?」
ステータスを通したチャットが知られる?
「はい。これまで国家間で行われていた通話もすべて知られていました。情報網を完全に抑えられてしまい、戦術関係は全て後手後手になってしまいます」
「それが本当なら、かなりの危機です。情報戦において通信傍受は強いカードです。誰もが持つステータスによる通信は、この世界でもっとも大きな通信手段。大規模な連携はこれで封じられたも同然です」
おねーさんの言葉に、コトネが頷く。よくわかんないけど、国とかが役立たずになったのはわかったわ。
「要するに、ラスボス前に四天王が生えたってことでしょ。そいつら全部倒せばいいってことね」
「5人いますよ」
「五……五……五人衆! とにかく全員倒してアホ皇帝を蹴って踏んで罵倒してやるんだから!」
言い直すアタシ。とにかくラスボスダンジョン前にそういうのが急に生えるとかゲームあるあるアニメあるある。気にしたら負けよ。
「ああ、自信に満ちたトーカさんナマイキカワイイ。これだけでご飯五杯は行けます!
最初の一杯はこの情動のまま! 二杯目は顔とふともも見ながら! 三杯目は余韻で! 四杯目は脳内でボイス再生して! 最後の一杯はトーカさんの罵倒する可愛さを語りながら!」
「ソレイユさん、戻ってきてください」
「戻ってこなくていいんじゃない?」
「ああん、そんな優しいコトネさんも冷たいトーカさんもだいしゅき! 相反する性格の幼女百合とか、もう昇天しちゃうそうです!」
両手を合わせて、天に上りそうな勢いのおねーさん。マジでこのまま放置してもいい気がしてきた。
「話を戻しますけど」
「勝手に脱線したのはおねーさんじゃない」
「がはぁ! 喜びの喀血! その言葉、冷たく鋭いカタナソードの如く! 我がロリショタ人生に悔いなし!
皇帝<フルムーン>が作った五体の魔物は相手をしなくていいです」
急にシリアス口調に戻るおねーさん。え? なんて?
「相手しなくていいって……無視したらいろんな人が襲われるんじゃないの? アタシはどうでもいいけど」
「素直になれないトーカはさておき、私は見過ごせません。彼らが犠牲になる前に――」
「ダメです。先ほどのは例え話ですが、この状況でお二人が悪意に晒される可能性は否定できません」
ぴしゃり、と手をかざしてストップを示すおねーさん。町の様子がそれだけヤバい空気なのだと伝わってくる。
「街への買い物や補給はワタクシが行います。お二人は街に近づかず、皇帝<フルムーン>の所に向かってください」
「まあいいけど。その五人衆はどうするのよ? アタシ達を狙っているなら見つかって襲われる可能性もあるんじゃないの?」
「町が襲われているのに無視をするのはさすがに……」
そんなことを言うアタシとコトネだが、おねーさんはわかっていますとばかりに頷いて答えた。
「五体の魔物はワタクシ達がお相手します。
ゴルドさん、ルークさん、アミーさん、ニダウィさん、トバリさん。皆さん、トーカさんを皇帝<フルムーン>に向かわせるために頑張っています」
世界各国に散って暴れる五体の神と悪魔のコピペ。
それを倒すために、五人がすでに動いていた――
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