37:メスガキは神のアンカーを変える
神であることを誇りに思い、努力を素晴らしと思う。しかしニセモノ。
コピペ神の心の根底にあるのはこれだ。そしてそれを言われれば烈火の如くキレる。超キレる。アタシを殺そうとするぐらいにキレる。
『あの分体にとっては、殺さないといけないぐらいの事だったんです』
コトネの言葉を思い出す。アタシにアンカーを弄られることは、弄った相手を殺すほどの事だ。何を言われても元の神様の性格に従ってきたコピペが、ブチキレするぐらいに。
『私達に倒されることを目的としている神が、それをされては困るぐらいにアンカーを攻撃されることが赦せなかった』
倒されることで幕引きになるシチュエーションを作ったコピペ神。自分が負けることは受け入れているのに、アタシに弱い所を弄られるのだけは許せない。
「ねえ。アンタここで負けたらどうなるの? またどこかに潜って戦争再会とかそんな感じなの?」
アタシはコピペ神に問いかける。
「聖武器作製に全てのリソースを割り振った後に、消滅する。それが使命だ」
「それって死ぬってこと? アンタはそれでいいの?」
「もとよりそこまでが私の機構だ。人類の発展の邪魔になる存在のために武器を作り、その者に全てを託す。その者も破れるやもしれぬが、その結果もまた誰かが受け継ぐだろう。
遺志を継ぐこと。データを蓄積すること。それこそが、私が生きた証なのだ」
死ぬ、という言葉を否定しないコピペ神。死んでもいい。死んでアイテムを作って、そのアイテムでどうにかするならそれでいい。そのアイテムでどうにかできなくても、その結果を誰かが生かしてくれるだろう。
それを素晴らしいと思っているのか、コピペ神の言葉に淀みはない。そうであることが当然とばかりの表情だ。自分が死ぬことに何の恐怖もない。
「はん。言葉通りの道具じゃない。あれだけアタシの行動にズルだの卑怯だの言ってたやられ役もしくはザコなのに、最後は物言わないアイテムになるなんて情けなくない?」
「その為に生まれてきたのだからな。ズルをする者を正し、正しい努力に力を与える。それこそがリーズハルグの想い。リーズハルグならそうするだろう性格に従っているだけだ」
「そのなんとかって神様は自分が死にたくないから、分身作って丸投げしたんでしょうが」
「当然だ。神が死ぬなどあってはならない。リーズハルグ神は努力を続け、人類をよくある方向に導くべくより良い手段を選ばなくてはならないのだから」
リーズハルグのため。リーズハルグのため。リーズハルグのため。
ああ、そうか。コイツは――
「アンタは何者なのよ?」
「何をいまさら。私はリーズハルグの分体――」
「そんなのを聞いてるんじゃないわよ。アンタがどうやって生まれたとか、そんな昔のことはどうでもいいの」
何を言えばいいのか、頭の中で整理する。言いたいことはわかっているのに、言葉がまとまらない。なので思うままに口を開く。
「アンタの名前とか、アンタの趣味とか、アンタがやりたいこととか!」
だけど言葉にすれば、言いたいことはアタシの中でまとまっていく。
「神様からコピペされた事じゃなく、アンタ自身は何様なのよ!」
ニセモノ。リーズハルグのコピー。コイツはそれを禁忌と思っている。触れられたくないと思っている。
けして武器になることを、誇りになんか思っていないのだ。
「いい! アンタはなんとかっていう神様のコピペかもしれないけど、神様はアンタみたいにヴァンパイアに戦争なんかさせてないし、こんな馬鹿でかい十字架を作ったわけじゃないでしょ!
そうよ! 一階でズルしたアタシを卑怯だって罵ったのもアンタ! 二階で熱血しなかったアタシを面白くないって言ったのもアンタ! 神様じゃないアンタなのよ!」
「だがそれは――」
「元となったのは努力大好きな神かもしれないけど!」
何か言おうとするコピペ神に、びしっと指さして言ってやる。ああ、そうだ。アタシは怒ってるんだ。
「でもアンタがやったことはアンタの事よ! アンタは神だけど神のニセモノで、努力が好きだけどそれもニセモノで!」
「二、ニセモノだと!?」
「そうよ。アンタは神じゃない。神の力を持っているだけの別の何かなのよ! 努力が好きなのもそういうふうに作られて、でもその通りに行動して!
きっかけはどうでもいいわ。アンタは神のように動いて、神のように努力させて、神のように計画して、でも神じゃないのよ」
許せない。神の為とか言って自分がないのが許せない。神の為とか言って最後は消えようとするのが許せない。全部、神の為。そんなこと許せない。
「神じゃないアンタは何様なのよ!」
アタシがそう言った瞬間、コピペ神のアンカー三つが大きく揺れた。
「わ、私は……! 私は、リーズハルグ神の分体で……それ以外の意味などな、い!」
「はん。アンタが自分がニセモノだってことを気にしてることなんてお見通しなのよ」
心に神という仮面をかぶって逃げようとするコピペ神にはっきり言ってやる。アンカーに書かれていることだ。誤魔化すことなんてできるはずがない。
……いいや、誤魔化せていたんだ。心に蓋をして、それだけは必死に閉じ込めていた。
『そんなの、アタシが面白くないもん!』
アタシが最大限のワガママを言った時に、その蓋が解けた。ワガママに自分を貫くアタシを見て、自分を殺してきたコイツがどんな感情を抱いたかはアタシにはわからない。それはコイツの問題だ。
「アンタは積み上げてきた。何百年も吸血鬼を戦争させて、その力を蓄えてきた。その証がこの馬鹿でかい十字架で、あのアスレチックで、あの闘技場で、それが今のアンタなのよ!
神じゃない、アンタの生きた証なのよ!」
「私の、証……」
「神の為なんかに生きるな。もっとワガママに生きろ! 神の為に死ぬとか、自分が死んでも他人がいるとか言うな!」
他人のために犠牲になる? なんで神とかはそんな考え方なのよ。ホント、バカバカしい。
「他人に受け継ぐとか脇役めいた考えしかできないなんて、ざーこなのよ」
「いや……しかし、私は神の分体で、神本人ではないから――」
「コピーが本物を超えちゃ駄目とか、誰が決めたのよ。むしろ二作目主人公が一作目主人公を倒すとか、エンドコンテンツあるあるじゃない」
「え? と?」
むぅ、さすがに例えが分かりにくいか。
「ニセモノで、コピーで、神の為に頑張るのがアンタかもしれないけど、そこまでやったんならもう少し努力しなさいよ。
せっかく努力したんだから、自分が主役になるためにもっと努力しなさいよ!」
「そ、そんなことを……そんなことを、していいはずが……」
「なっさけないわね。アンタの努力はその程度? 諦めちゃうのが努力なんだ。ニセモノの神だもんね。限界かー」
アタシの言葉に、ピクリと体を震わせるコピペ神……いいや、コピペ神だった何か。
「まあしょうがないわよね。アタシみたいな美人で頭が良くて可愛い英雄が目の前にいるんだから、努力しても無駄だって思うのは仕方ないわよねー」
「安い挑発だな。あと美人を名乗るのは三十年ほど早すぎる。可愛いを名乗るなら生意気な口を慎むことだな」
「ふん。アタシの魅力が分からないとか、たいしたことないわね」
「そうだな。まだまだ学ぶことは多そうだ。リーズハルグ神にはない努力。リーズハルグ神にはない知識。それを蓄えなくては」
自分がない神みたいな何かは。
「とはいえ、貴様が可愛いというのは異論があるがな。くそ生意気なメスガキめ」
「ナマイキカワイイって単語もあるのよ。覚えておきなさい」
「リーズハルグ神にはない知識だが、覚える必要はなさそうだな」
生まれて初めて、ワガママに生きようと思ったみたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アンカー
矜持:神
主義:努力
禁忌:ニセモノと言われる ⇒ 目的:己を知る
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
変化したアンカーが、小さな一歩を証明していた。
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