32:メスガキは大きな十字架に入る
「なんていうか……でっかいわね」
アタシは赤い十字架ダンジョンに近づくにつれて、その大きさに呆れていた。
「私達が移動する間も大きくなってましたからね」
十字架を見上げるようにして言うコトネ。コトネは呆れるというよりは信じられないという顔だ。
「ブラムストーカーさんから頂いた地図と照らし合わせると、300mほどの円柱形です。
高さも1000m近くはあるんじゃないでしょうか?」
「先端見えないもんね。1000mってどれだけよ」
「1000mの建物は私たちの世界ではまだ到達していません。ハイパービルディング計画として今なお建造中の建物が完成する予定です」
「想像もできないわ」
アタシは考えることを止めた。とにかくでっかい塔ダンジョンっていうのが解ればいいわ。
「Fuuuuuuuuu! これがリーズハルグ神のPower! HumanのUnderstandingを軽くBeyondしてMASU!」
「デカけりゃ強いっていうわけでもねぇが、コイツは圧巻だな」
ついてきた銀色と脳筋もそんなことを言っている。とにかく大きさにビビっているのは事実だ。
「階段で上まで登るとかだったらアタシ帰るわよ。だるくて歩いてられないわ」
「だるいはともかく、歩いて昇るのは現実的ではありませんね」
大抵こういう塔は上に上に登っていくのだ。しかも地道に。ゲームのエンドコンテンツとかそんな感じで。とにかく無限に登っていく。
「伯爵、入り口と思われる門を発見したザマス!」
ザマス吸血鬼が言って敬礼する。コイツもついてきた……と言うか銀色吸血鬼の軍隊全てがついてきたのだ。
「ご苦労。引き続き、避難民の救助を。十字架はいまだに活動している。動向に注意しながら救助活動を続けてくれ」
真面目な口調で返す銀色。その言葉にザマス吸血鬼は頷き、下がっていく。
ついてきた軍隊は主に町で怪我した人を救助していた。町のほとんどは瓦礫となり、それに巻き込まれた吸血鬼や人間は多い。先ずはその救助活動だ。
加えて、この赤十字架ダンジョンは生きているらしく、近づけば赤い触手を出してこちらを捕えようとする。そんなに強くはない……と言えるのは90レベルに届くアタシやコトネレベルだからだろう。力のない人やレッサーヴァンパイアレベルでは抵抗もできない。ヴァンパイアレベルでどうにかなるレベルだ。
「どうなの、かみちゃま。何か分かる?」
「リーズハルグの分体が作ったのは間違いありまちぇんね。数百年の抗争で生まれた血肉と怨嗟を力に変換していまちゅ。
階層は……3つでち」
「は? 3つ?」
何かわかればいいや、レベルでかみちゃまに尋ねたら、意外な答えが返ってきた。
「あい。間違いありまちぇん。内部にある障害も3つ。その1つがリーズハルグの分身でち」
「んー……障害っていうのはモンスターって事でいいの?」
「あい。ついでに言えば、上に登る手段はテレポーターでち」
……なにそれ? 敵は3体。わずか3階のショートダンジョン。
「はん! そんなのよゆーじゃない。無限階層とかだったらどうでもいいやと思ってたけど、三つぐらいならすぐに突破してあげるわよ」
「はい。生存者があの中にいるなら早く助けてあげないといけません」
「Let’s Go! リーズハルグ神の生み出したDungeonデス。NegligenceはできまSEN!」
「敵が3体だけっていうのは味気なさそうなんだよなぁ」
アタシの言葉にコトネが同意し、銀色がポーズを決めて叫ぶ。脳筋が不満そうに言うのが本当に脳筋。
アタシ達が塔の入り口に近づくと、赤十字架の壁からにょきにょきと枝が生えるように細いモノが伸びてくる。これに捕まるとあの十字架の中に取り込まれるらしい。ザマス吸血鬼がそんなこと言ってたわ。剥がすのに苦労したらしい。
「そんじゃ、行くわよ」
「はい」
アタシはブラッドドレスに着替えて【ペアルック】を使い、コトネにブラッドドレスの能力を付与する。そしてブラッドドレスの【霧化】をつかい、一度だけダメージを無効化する能力を使って触手に触れることを回避した。
「Coooooooooooool! こういうStrategyをすぐにDeriveするのがトーカのWonderfulな所DESU!」
「爪を振るえないのは面白くねぇんだよなぁ」
吸血鬼ボスの二人も同じように【霧化】を使って回避する。英単語だらけでよくわかんないけど多分褒めてる銀色と、殴れなくて不満な脳筋。
「別にアンタが囚われてもアタシは構わないんだけど」
「敵と戦う前にリタイアとかそれこそ面白くねぇだろうが。つーか、お前と戦えてないのも不満なんだぞ」
「おあいにく様。アタシはバトルとかどうでもいいの。如何に勝って相手を罵って見下すかが大事なんだから」
「……それだけ聞くと、最低なセリフだな」
「酷い言われようね。勝つ為に頭を使うのは基本だし、敗者を罵るのは勝者の権利なんだから」
脳筋とつまらない会話を交わしながら入り繰りの扉を開けるアタシ。
「Ummm……! NoCommentさせてもらいMASU!」
「はいその、トーカがいろいろすみません」
少し後ろで銀色とコトネがそんなことを言っていた。アタシが悪いみたいな言い方じゃないの。ふん。
扉を開けて広がる光景は――
「……なにこれ?」
「アスレチック施設……ですか?」
空中に浮かぶ無数の石やら丸太。でっかい壁にはそこを摑んだり踏んだりして昇れとばかりにボコボコに石があって、移動する床とかが空中に浮かんでいる。アスレチックっていうよりは昔のアクションゲームっぽい感じ。
『天を突き、高くそびえ立つこの塔。
今まさにこの塔を巡って壮絶なる戦いの火蓋が切って落とされようとしていた!』
入るなり、そんな声が響く。
『第一関門は<段々ダンジョン>! 上下左右に構築された迷路! 体力、知力、そして運! その全てを駆使して踏破してみよ! 見事艱難辛苦を乗り越え、ワープポイントまでくるがよい!』
三次元ダンジョン。どっちかっていうとコトネの言うようにレジャー施設とか運動神経を競い合うテレビ番組っぽい感じだ。壁を登ってロープを伝い、移動する床とか円柱に捕まって。落ちれば床に真っ逆さま。
そして床には赤くドロドロの液体が流れている。足を踏み入れたらそのまま飲み込まれて、入り口に戻されるようになっているわ。殺すつもりはないけど、落ちたらリトライ。
「リーズハルグらしいでち……」
「どういうことですか?」
「リーズハルグはこういった肉体を行使することを好みまちゅ。努力の末に踏破できる。パワーとタフネスを鍛え上げると言ったことが好きなんでち」
かみちゃま解説を聞いて、アタシは眉を顰める。うわウザったい。
「分かりやすいじゃねぇか。先に行かせてもらうぜ」
そして脳筋とは波長が合うらしい。準備運動をした後で、走っていく脳筋。
「私達もいきます?」
「突破できる自信ある、コトネ?」
「恥ずかしながら運動は苦手で……」
「運動ってレベルじゃないわよ、あれ」
脳筋の動きを見ながら、アタシは肩をすくめた。登って降りて飛んで跳ねて。それだけではなく、移動中にトゲトゲ鉄球が飛んできたり地面が跳ね上がったりと言った妨害もある。素の身体能力とかを考えても、突破できるとは思えないわ。
「でも行くしか道はありませんよ?」
「道ならあるじゃない。ここに」
アタシはドロドロの沼っぽいものを指さす。足を踏み入れればそのまま飲み込まれそうだけど、ゲーム的にはこれ『動く床』ってカンジっぽい。つまり『アタシにとって不利な影響』なのだ。
つまり【天衣無縫】で無力化できるのである。
「そんじゃ行ってくるわ」
アタシはアビリティを使って、足を踏み入れる。推測通り何ともないわ。雪の上を歩く感覚でドロドロした赤い沼の上を歩いていく。
『は? そっちから行くの!?』
なんか叫ぶ声がするけど、無視無視。勝てばいいのよ。
アタシはアスレチック部分を迂回するように沼を歩いて、終了地点まで進む。アタシはぴょんとその上に飛び乗った。はい、ゴール。
「コトネ、こっち来て」
「はい、トーカ」
そして結婚アビリティ【おかえりなさい】を使ってコトネをアタシの元に呼び寄せる。これでコトネもゴールだ。
「悪いけど、アンタ達は自力で頑張ってね」
「YES! I’ll do my best!」
「おう! こういうのは好きだぜ! 何でも来い!」
吸血鬼組はどうしようもないので、頑張ってもらうしかない。銀色は親指立てて頷き、脳筋は笑みを浮かべて張り切ってる。さすがにこのダンジョンなんではいつものテレポートは使えないみたいだし。
『ちょおおおおお! せっかく作ったのにそういう解決方法は酷くない!?』
「リーズハルグ……哀れでち」
コトネと一緒にやってきたかみちゃまがそんなことを言う。
「悪い? アタシはこういう人間なのよ」
「まちゃか。トーカちゃんらしいでち」
その声はズルした人間を責めるのではなく、むしろ嬉しそうな声だった。
「Fuuuuuuuuu! VeryGoodなExerciseでした!」
「準備運動にはちょうどよかったな」
――吸血鬼組が到着するまで2時間ほど。アタシ達はそういう動画を楽しむように、吸血鬼達の運動を見ていた。
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