31:メスガキは十字架を見る
<プログラム実行不可能なエラーが発生したため、緊急措置を行います>
そんな言葉と同時に、遠い山の向こうで真っ赤な柱が生えた。にょきにょきと、まるで木が生えるように。そして十字架のように広がったのだ。
「……は?」
何あれわけわかんない。えんきんほー? なんかそういうのを考えてもあり得ないぐらいに大きい。山よりも大きくて高いんだから、ビルとか観光地のタワーとかそんなのよりももっと大きいのだ。
「What’s!? あのPlaceはドラキュラ伯爵の領土DESU! Meの知らないBigMagicを行ったのDESUか!?」
そして大仰に驚く銀色吸血鬼。相変わらず突然現れて大声で叫ぶヤツ。でも今回ばかりはその気持ちもわかなくもない。何なのよ、あれ?
「トーカの知識にないという事は、ゲームのモノではないという事ですね?」
「そうね。<フルムーンケイオス>にはないモノよ。そう考えると、厨二悪魔の持ってる
だとしたら、笑うしかない。あんなでっかいモンスター、どうやって倒すのよ? HPとかどんだけあるかって話だわ。……まあ、毒の割合ダメージさえハマれば魔王でも殺せるんだけど。
「そんなはずはありまちぇん。でも、間違いありまちぇん。
あれは……リーズハルグの声でち」
ぼそりと、かみちゃまが呟いた。正確に言えば、驚きと不信で大声が出せなかった。そんなはずはない。そんな驚きと、間違いないと言いながらも信じたくない声色。だけど認めざるを得ない状況。
「あの十字架がリーズハルグ神の生み出したものだという事ですか?」
「正確にはリーズハルグの分身でちゅ。先ほど流れた声。そしてあの武装。間違いなく、リーズハルグのモノでち」
コトネの問いかけに頷き答えるかみちゃま。え? 今なんて言ったの?
「待ってかみちゃま。今武装って言わなかった? あのでっかい十字架が、武装?」
「あい。あれはリーズハルグが生み出した武器でち。あたちにはその力が伝わってきまちゅ。数百年続いた戦争のエネルギーを解放し、今なおその力を放出している武装でち」
「いやいやないでしょ!? どれだけの大きさがあればあれを持てるのよ! 魔王<ケイオス>の第二形態よりも大きいじゃないの!」
「目測でも500mは越えますよ」
アタシとコトネの言葉に、かみちゃまは十字架から目をそらさずに答えた。
「あれは武装が生み出しているデミナルト空間……いわば外側でち。あの中に、武装本体があるんでち」
「中……要するに、ダンジョンみたいなもの?」
「そう解釈して貰って構いまちぇん。武装を得るための試練があの内部で待ち受けていて、それを手に入れればあの十字架は消える。そういう形なんだと思いまちゅ」
成程、攻略したら消えるダンジョンね。で、中にはレアアイテムがあると。
「その……トーカが少しイキイキし始めたのは置いておくとして。何故いきなりそんなものが?」
「リーズハルグはプログラムエラーと言いまちた。おそらくトーカちゃんがリーズハルグのアンカーを三つ解除したから、戦争続行が不可能になったことで発動した緊急措置でちゅ」
「む、別にアタシ悪くないもん。むしろ勝手に戦争させてたコピペ神が悪いんじゃないの」
なんかアタシのせいっぽい流れになりそうなので、一言言っておく。アンカーにくっついてるのを壊したのはアタシだけど、アタシだってこうなると分かっちえたら……やってたかな。
「あい、その通りでち。この状況は全てリーズハルグの責任でちゅ」
「流石かみちゃま話が分かる。そうよ、アタシのせいじゃないもん」
「責任の所在はこの際あまり問題ではありませんよ。むしろこれからどうするかを問題視したほうがいいと思います。
あの場所はドラキュラ伯爵の拠点で間違いありませんね?」
コトネは言った後に銀色吸血鬼と脳筋吸血鬼の方を見た。
「Yes! Direction and Distance的にトランシルバニアCastleでCorrect Answer!」
「十字架の大きさ的に、城どころか城下町のほとんどがあの十字架の内側だな」
「……シュトレイン様。デミナルト空間と言いましたよね? 巻き込まれた人たちはどうなっているのでしょうか?」
「分からないでち。空間の詳細設定は内部に入らないと無理でち」
コトネが最初に尋ねたのは、場所とそしてそこに住む人達だ。ヴァンパイアを含めての安否を確認したという事は……。
「トーカ――」
「行くんでしょ? あそこに住んでた人を助けに」
何かを言おうとしたコトネを制するように、アタシは言葉を告げた。はいはい、わかってるわよ。コトネの言いたいことなんかお見通しなんだから。どんだけ一緒に旅してきたと思ってるのよ。
「……え? あの、いいんですか? いつもなら『レベルアップできない』『効率悪い』とか言って行きたくないって駄々を言うのに」
「駄々じゃないわよ。真実よ。人助けとか正義とか、アタシは大嫌いなの。損得勘定でしか動かないクールな乙女なんだら」
うん。アタシはそういう熱血とか燃えるとか清楚とか正しいとか、そういうのでモチベーションをあげるタイプじゃないわ。
「はあ……トーカはかなり人情にあふれていると言うか身内には甘いというかさみしがり屋というかいつも寝言で別れた人達のことを――」
「うるさいだまってて。あと寝言は忘れて」
呆れたように言うコトネを制するアタシ。寝言の事なんか責任持てないわよ。あああああああ、コトネより先に寝るのははもうやめる!
「とにかく! 未知のダンジョン! 未知のレアアイテム! あそこにはそれがあるんでしょ! だったら行くに決まってるじゃない! そういう事なのよ!」
うん、アタシが行くのはそういう理由だ。あの中にコピペ神が作った武器か防具かがあるのなら、それをゲットしたい。ついでに他にもアイテムがあるだろうからコンプしたい。何せクリアしたら二度とはいれない系のダンジョンなのだ。
「そうですね、どういう理由であれトーカがやる気になっているのはいい事です」
「Sure! MeもCountとして隣国のCrisisにRescue Teamsを派兵しまShow! カルパチア史上におけるGreatIncidentデス!」
「そういう事ならオレもいくぜ。ドラキュラの野郎はいけすかねぇが、こんなことに巻き込まれていいほどの悪党でもねぇ」
頷くコトネに銀色はこぶしを握り、脳筋は頭を掻きながら頷く。……は?
「もしかして、二人とも来るの?」
「Yes! Girlsに比べてWeakBodyですが、DangerousへのShieldぐらいにはなれMASU!」
「よろしく頼むぜ、遊び人。カミラに勝ったって動き、しっかり見させてもらうからな」
アタシに向かって友好的な笑みを浮かべる銀色と脳筋。まさかモンスター、しかもボスが仲間になるなんて思いもしなかったわ。
……前で壁させて弱ったところを経験点にしたほうが美味しいわよね、これ? 離脱前に装備を剥ぐとかRPGの基本だし。効率重視で隙あらばやっちゃうか。
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