33:メスガキは闘技場につく

「Fuuuuuuuuu! VeryGoodなExerciseでした!」

「準備運動にはちょうどよかったな」


 吸血鬼の二人がアスレチックを突破して、一息ついてからワープポイントに入るアタシ達。エレベーターが急発進したようなふわっとした感覚が襲ったかと思うと、次の瞬間には景色が変わっていた。


「これは……何が待ってるのか、分かりやすいわね」


 ワープした先は、一言で言えば闘技場だった。


 円状の壁があって、その向こう側には観客席。そこにいるのは……おそらくこの十字架ダンジョンに囚われた人達かな? 吸血鬼や人間やらが沢山いる。


『第二関門は<コロっせよコロッセオ>! これから皆さんには殺し合いをしてもらいます!』


 そして聞こえてくる声。あー、うん。想像通り。そしてわかったことがあるわ。


「このネーミングセンスは素なの?」

「あい。リーズハルグはこういうノリが大好きなんでち」


 アタシの質問に沈痛な声で答えるかみちゃま。そっかー、そういう性格なのかー。


『観客はドラマチックな戦いを求めている! さあ、今宵如何なる血の雨が降るのか!』


 そしてアタシ達の向かい側には二人の吸血鬼がいた。一人は知ってるけど、もう一人は知らないわ。


「OH! That’s カミラ卿! Aaaaaaaaannd! ドラキュラ卿!」

「あいつらと戦って勝てってことか」


 一人は銀色が叫んだとおり、アタシが一回倒した白女ことカミラ。そんでもってもう一人は、ドラキュラ。<フルムーンケイオス>と同じような、黒マントに赤い瞳、牙を生やした吸血鬼。


「余を倒さぬ限り、聖杯は手に入らぬ。来るがいい、未来の英雄よ。我らの屍を乗り越えるがいい!」

「英雄は時に非情を求められるわ。一度倒して友愛を結んだ相手でも、倒さないといけないの。悲しいかもしれないけど、それが世界を救うものが背負わなくてはいけない責務」


 マントを広げて叫ぶドラキュラ。顔に憂いを浮かべて微笑むカミラ。


戦友ともと戦わなければならない悲劇! ドラキュラ伯爵とカミラ伯爵は世界を救おうとする英雄に試練を与えるため、あえて悲劇を選んだぁぁぁぁぁ!

 英雄は友情を乗り越えて、勝利をつかめるのか!?』


 そしてものすごくウザったいナレーション。えーと、多分コピペ神?


「屍って……アンタら属性はアンデッドじゃない。とっくに死んでるくせに何言ってんのよ」


 アタシはとりあえずそこをツッコんだ。


「それと、勝手にアタシを未来の英雄にしないでくれる? アタシが強くてかわいくて将来ぐらまーになるのは確定的で避けようがない事実だからそういうふうに思うのは勝手だけど、アタシが何になるかはアタシが決めるわ」

「とーかがぐらまー。その、はい」

「トーカちゃん、現実は見たほうがいいでちよ」


 アタシの言葉にコトネとかみちゃまがそんなことを言ってくる。聞こえないわよ、そんな現実! 牛乳だってこっそり飲んでるもん!


「乳腺の発達はFemaleHormoneのEstrogenがActionして増えMASU! Hormoneの為にGoodSleep! Aaaaaaand! HealthyEating! RegularなLifestyleがImportant!」

「ガキは何したってガキなんだから諦めろ」


 なんか偉そうに講釈する銀色。多分規則正しい生活が大事って言いたいんだと思うけど、それができるなら苦労しないわよ。そして脳筋は後でぶっ飛ばす。


「そもそも、戦友とも? そっちのマント男とは戦ったことも会ったこともないし、そこの悪役令嬢に情なんてかけらもないわよ。アタシに負けて経験点にすらならなかったざーこなんだから。言われるまで名前も思い出せなかったわ」

「マント男……!? 余を、このドラキュラ伯爵を……見た目だけの雑な呼び名で……!」

「そういう娘だとは思っていたけど、実際言われるとムカつくわね」


 続いてのツッコミどころに反応するマント男と白女。いやまぁ、ゲームのボスキャラだから名前は覚えてたけど、顔と名前が一致しなかったわ。


「そんなわけで、サクッと倒れて経験点になってちょうだい。アンタ達のスペックは把握済みなの。【処刑人】は即死攻撃が怖いだけで全部【天衣無縫】でしのげるし、【悪役令嬢】の火力でコトネと銀色【料理人】の回復量を超えるのは無理だから」


 4対2。数の上でも有利だし、相性も悪くない。鼻で笑うぐらいに余裕なんだから。


『ちょちょちょちょ! え? カミラに何の情もないの!? あれだけ熱く戦ったじゃないか! 具体的には4話ほど! だいたい12000文字ぐらい!』


 よんわ? いちまんにせんもじ? よくわからないことを言うコピペ神。


「知らないわよ、そんなの。アタシに取ったら作業よ作業。殴り合って友情とか愛情が芽生えるとか、そんな変態じゃないわアタシは」


 確かに白女を罵るのはちょっと楽しかったけど、それぐらいだ。どちらかというとあの戦いは【アルカイックスマイル】で<魅了>した時のコトネの嫉妬が怖かったわ。あれ、有耶無耶にしてるけど事態が落ち着いたら追及されるんだろうなぁ……。このまま忘れちゃいたい。忘れて。


「勝手に因縁付けて勝手に盛り上がるのは勝手だけど、当事者の意思を無視してるだけだから。アンタがやってるのは、変態オタクがわけわかんないカップル作って自己満足で盛り上がってるのと変わらないのよ」

『いや! カップリングの自由は認めるべきかと! 妄想することは自由だ!』

「はいはい、妄想するなら当人の迷惑にならない程度にしてよね。巻き込まれたアタシはいい迷惑だわ」

『うぐぐぐぐぐ! 空気を読まない子供の分際で!』

「はいでたー。子供の分際。子供のくせに。年齢以外にマウント取れない大人の負け犬遠吠え♡ ねえ、先に生まれて人生経験豊富なのに、たいした経験してない子供に言い負かされるのってどんな気持ち? 自慢の人生経験が役に立たないって証明されて、悔しい?」

  

 返事は帰ってこなかった。多分モニターの向こう側とかで頭掻きむしっているんだろう。キーボードでガンガン机叩いて、奇声を上げてるわよ。パソコンなのかどうかはわからないけど。


「……トーカちゃん、容赦なさすぎでち」

「事実よ事実。勝手なシナリオに当てはめられてウザったいのも含めてね。

 そこの二人もそういうのに巻き込まれたクチでしょ。コピペ神にアンカーに何かくっつけられて、自分のやりたいことができなくなったとかそんなの」


 かみちゃまの言葉を鼻で笑って流すアタシ。そしてマント男と白女を見れば、構えを解いてマント男がアタシを見ていた。


「ふむ。いくつか意味不明な言語があるが……余よりも事情を知っているようだな。

 カミラが示した遊び人と聖女とは汝らか。人間如き、と見下していい相手ではないのは事実のようだ」

「へー。アタシとコトネの事を知ってるんだ。それで? まだ戦うつもり?」

「余を縛っていた神の呪縛は今はない。此処で余が負けを宣言すれば、汝らは神の座に行く権利を得るだろう。――が」

「そうね。降参してくれるとアタシとしては楽だわ。――でもね」


 アタシとマント男は似たような笑みを浮かべた。あ、コイツ同じこと考えてるわ。


「人間如きが余に勝てるという戯言、吸血鬼の王といて見過ごすわけにはいかぬな!」

「せっかくカルパチアに来たんだから、吸血鬼ボス狩らないとね! 経験値とトロフィー寄越せ!」

「……結局戦うんですね。平和的に終わると思ったのですけど」


 牙をむき出しにするマント男に真っ向勝負するアタシ。コトネはため息をつきながら、アタシのサポートに回った。


 コピペ神もしょーもない役割とか設定をあてはめようとせず、黙って戦えってやれば普通に戦ったのに。ホント、頭悪いんだから。


「あ、ちくしょう! 次は俺と戦えよ!」

「黒星が付いたままというのは面白くないわね。次は馬に乗った私と戦ってもらうわ」

「ではMeもCookingBattleをIntroduction! トーカとコトネとは、一度BattleCommunicationしてみたかったのDESU!」


 ギャラリーの脳筋と白女と銀色もやる気満々で順番待ち状態だ。


「は? どういうこと!? 人間とドラキュラ伯爵が戦う?」

「知ってるぞ、あの人間! ブラムストーカー伯爵の懐刀だ!」

「カミラ様を倒したっていうあの!」

「ノスフェラトゥも軍門に加えたっていうあの二人か!」

「どういう状況かわからないけど、カルパチアの最強戦力が今ここに集まっているのか!」

「おおおおおおおお! なんか燃えてきたぞ! これ、タダで見ていいのか?」


 そして観客席のギャラリーも急に沸き立ってきた。事情は分からないけど、アタシ達が戦うという事実だけはわかったらしい。


 こうして闘技場の観客の歓声の元、吸血鬼4大ボス(EXモード)との4連戦が始まるのであった――

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