29:メスガキは戦闘狂(のうきん)に会う

 ノスフェラトゥ。吸血鬼4大ボスの一人。


 前も言ったけど、獣っぽい恰好をしたヤツでパワー系。吸血鬼アビリティの【精吸血】【コウモリ乱舞】【霧化】に加え、【狂戦士】と呼ばれる戦士系アビリティを持っている。


【狂戦士】は防御を捨てた構成で【牙狩り】はHPを消費することで攻撃力を増すアビリティを覚え、【血滾り】はHPが減るたびに様々な効果を得るアビリティを得る。その二つのシナジー効果を軸にするのが主眼のガチ殴り合い前衛系のジョブよ。


<フルムーンケイオス>でもHPが減るたびに馬鹿みたいに強化され、如何にHPを一気に削るかでネット上でも議論されてたわ。バフを一気にため込んで、そこからいっせーのーで、で殴りかかる。多分これが最適解。


 とにかくそんな攻撃特化の脳筋ボスは――


「よぉ! お前達がブラムストーカーの剣客か! 子供と聞いていたが本当に子供なんだな!」


 アタシ達を見ると両手を広げて嬉しそうに話しかけてきた。二本足で直立した全身モフモフの狼だ。漫画に出てくる狼男とかそんな感じ。


「細いなぁ! 飯食ってるか? ああ、ブラムストーカーの所にいるからその心配はないか! がはははははは!」


 めちゃくちゃフレンドリーに肩を叩き、豪快に笑う。親戚の叔父さんとかこんな感じだ。


「はあ……」


 思いっきり戦う気でいたアタシはあっけに取られてしまう。コトネにも戦いが始まったらどうするかを説明した後だったので、余計に気が抜ける。


「あの……確認なのですが、あなたがノスフェラトゥ伯爵で間違いないのですね?」

「やめろよ伯爵なんて。オレは身分なんていらないんだ。名義上はボスだがこんなのオレを倒せる奴がいたらいつでも返上するぜ。

 気軽におっさんでもいいし、狼野郎でもいいぜ」


 コトネの問いに笑って返す脳筋。


「じゃあ脳筋って呼ぶわ。脳みそまで筋肉の戦闘バカ」

「いいねぇ脳筋。オレを示すのにわかりやすいぜ! 馬鹿みたいに戦って考えるのも筋肉が決める。最高じゃねぇか!」


 皮肉交じりのアタシの言葉も、笑って受け止める。ここまで脳筋だと馬鹿にする気も失せるわ。


「ではノスフェラトゥさん。私達に会いに来たという事ですが、どういった用事でしょうか?」

「聞いてないのか? 戦いにきたんだよ。人間なのにカミラを倒したって聞いたんでな。どのぐらい強いのか確かめに来たんだよ」

「戦いに来たんなら、なんでこんなにフレンドリーに話しかけてくるのよ。いきなり殴りかかってこないの?」


<フルムーンケイオス>の凶悪性能と【狂戦士】のイメージから大きく離れる脳筋吸血鬼の反応に、思わず聞いてしまうアタシ。


「? 友好的じゃダメなのか?」

「ダメっていうか、わけわかんない。どうせ殴って倒すのに友達になってどうするのよ。夕日の河原で殴り合って友情でも芽生えるとかそんなクチ?」

「んなわけないだろうが。殴り合ったらきっちり殺す。それが俺達のルールだ」


 アタシの質問に物騒な答えを返す脳筋。訂正、やっぱり狂戦士だ。


「復活しても殺す。何度でも殺す。心が折れるまで何度も殺す。弱い奴は負ける。強いヤツが勝つ。その事を理解するまで殺しつくす」


 モンスターは殺しても復活する。だからというわけでもないだろうけど、とにかく殺意のこもった言葉だ。雑談レベルでこんなこと言ってくるのが、とっても脳筋。


「友情なんざねぇな。戦うことは上下を決めることだ。そいつが対等とか言い出したらまた殺して関係をはっきりさせる。それがオレの領地のルールだ」

「ノスフェラトゥさんの領地は弱肉強食、と聞いていましたがまさにその通りなんですね」

「まあな。オレはドラキュラやブラムストーカーのような管理はできねぇ。カミラみたいに愛だの恋だのもよくわからねぇ。力を示す以外のやり方は知らねぇんだ」


 そして脳筋は脳筋っぽい支配しかできないと自白する。まあ、そんな感じよね。


「尚更わからないわね。上下関係決めるまで殺すとか言って、なんでアタシ達にはフレンドリーなのよ? アタシ達は死んだらお終いだけど」

「一度殺したらお終いとか人間は難儀だなぁ。そういうのが面倒だから放逐して手ぇ出さなかったんだがな。

 友好的なのは上下関係決める前だからだよ。今は上も下もねぇ。ケリがついてないんだからな。だからだよ」

「ああ、うん。分かったわ。要するに脳筋なのね」


 脳筋のよくわからない脳筋理論なんか、欠片もわからないという事が分かったわ。


「オレは戦えればそれでいい。そんなタチでな。ぶっちゃけ、戦争なんざめんどくせぇ。でも戦うのは愉しいからな。強いヤツがいると聞いてやってきたんだよ」

「戦争が面倒……ですか?」

「まあな。メシの管理とか弱い奴の世話とかやってられねぇ。真っ直ぐ言ってぶっ飛ばす。それ以外の戦いには興味がねぇんだ。落とし穴とか壁とか卑怯な事するなって感じだぜ」

「あー、うん。とことんオレサマ主義で脳筋なのね」


 本気で頭悪いのはよくわかったわ。


「なるほどわかりました。ところでノスフェラトゥさん。私達のことは誰に聞きましたか?」

「ああん? カミラだよ」


 あの白女。いきなりいなくなったかと思ったらアタシ達の事をチクってたのか。ぶっ殺す。死んでも死なないから、何度でもぶっころす。……アタシも脳筋と同じこと考えてるなと気づいて、頭を振った。アタシは脳筋じゃないもん。


「ふらっと現れてお前らに負けたことを教えてくれたんだ。余計な一言を言ってたな」

「それは『戦う前に私達と話をしてください』という類の事ですか?」

「ああ。そんな感じだな。言われなくても人間なのに強いヤツってことだから話ぐらいはするつもりだったけどな」

「はい、ありがとうございます。大変参考になりました」


 言って頭を下げるコトネ。……? どういうこと?


「カミラさんにお礼を言わないといけませんね」

「なんでよ。あの白女はあの脳筋を焚きつけて、アタシ達に向かわせたんでしょ? なんでお礼なのよ?」

「そうですね。カミラさんはノスフェラトゥさんを焚きつけてくれました。おかげで簡単に吸血鬼の貴族に接触できましたよね」


 言われてみれば、ボスが向こうからノコノコとやってきてくれたのだ。城攻めメンドイとか言ってたのに。


「アンカーの事まで理解しているかは不明ですが、自分を含めた貴族が何かに操られていたのはカミラさんも察したんだと思います。トーカがそれを解除したのも。

 だからカミラさんは他の吸血鬼の貴族をトーカに向かわせるように動いたんだと思います」

「この状況をあの変態白女が誘導したって事?」

「はい。しかもアンカーを探りやすいように事前に会話をするように言っています。

 ノスフェラトゥさんの性格的に言わずとも話はできた可能性はありますが」


 コトネの言葉を聞きながら、アタシは脳筋のステータスを見る。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:ノスフェラトゥ

種族:アンデッド(ボス)

Lv:129

HP:1702


解説:貴族階級の吸血鬼。好戦的で残虐な獣の王。


アンカー

嗜好:戦闘 「なので」「聖地巡礼する」

主義:孤独に生きる 「なので」「聖地巡礼する」

誓約:勝者に従う 「なので」「聖地巡礼する」


契約:「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 確かにアンカー見えた。今までの会話のおかげだ。


 これがコトネの言う通りあの白女が裏で動いた結果というのなら……まあ感謝ぐらいはしてあげてもいいわ。


「ただの脳筋と思ったら心の底まで脳筋だったのね」

「あん? 褒めても手加減はしねぇぞ」

「褒めてない」


 心の底までマッチョな脳筋に呆れながら、アタシはどう馬鹿にしたらいいかを考えていた。


 ……何言っても『がはは!』って笑って受け流しそうでヤダなぁ……。

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