28:メスガキは襲撃を聞く
戦争勝利シナリオから戦争ぶっ壊しシナリオに移行すると決定したアタシ。まずやることは――
「具体的にどうするの?」
「吸血貴族のアンカーを破壊します。可能であれば二人とも、最悪一人を壊してしまえば、説得と交渉で戦争終結に持っていけるかもしれません」
コトネが言うには、戦争をさせているアンカーを壊せば戦争をしなくなるんじゃないかという事だ。銀色と白女のアンカーを壊したら戦争に興味を無くしたので、後二人もそうなるんじゃないかという希望的推測である。
「もちろん、本人が持つ元々のアンカーのせいで戦争をしている可能性は否めません。話を聞くにドラキュラ伯爵は人間を差別していますし、ノスフェラトゥ伯爵は理性が薄いと聞きます」
「その時は倒してしまえばいいのよ。ボス倒して経験点! そしてトロフィーゲットでスキルポイント稼げるわ!」
方向性は決まったわ。戦争するよりもよっぽど単純になったわね。
なおアンカーにくっついていたのを破壊された二人の吸血貴族は。
「いまだにUnbelievableなのですが、Meはリーズハルグ神に操られていてWarしていたのDESUね! 何百年もPopulaceの事を思いながらPainを強いていたなんて! Ruler失格DESU!」
『田舎でローラとレイナと100年ぐらいいちゃいちゃしてるわ。領地は貴方達にあげるから後は好きにして』
銀色吸血鬼は体をくねらせて四つん這いになって泣き崩れ、白女悪役令嬢はそんな置手紙をしていなくなっていた。
「……牙抜かれたわねー。戦争やる気モードゼロじゃない」
「防衛の戦力は有していますから、無防備ではないのでしょうが……カミラさんは完全に毒が抜けてますね。元々野心的ではなかったのでしょう」
白女の持っていた領地は銀色のモノになって一気に銀色の土地が増えた。おかげでかなりの数のヴァンパイアが戦力になってかなり戦力は増した。
ただ、肝心の銀色吸血鬼は戦争自体に消極的になっていた。元々負けそうになっていたぐらいにやる気はなかったのだが、それでもアンカーにくっついていた物のせいで戦争自体は放棄しなかった。
「Don’t Worry。領民をGuardするためのWarはDon’t Stop! But……ドラキュラとノスフェラトゥとActiveにWarする気はありまSEN!」
ヘタレれてるけど、守るために戦うこと自体はやめないという。実際問題として他の2人吸血鬼が戦争をやる気満々なのだから、この国から逃げない限りは戦争から避けられないのだろう。……実際、白女はイチャイチャスローライフのためにトンズラしたし。おのれ。
「まあいいわ。どのみち戦争やらないルートなんだし。シミュレーションモードはお終いよ。アタシ達の目的は吸血鬼ボスの打破。RPGモードで直接言ってぶん殴るだけよ」
「そう簡単にいけるのなら苦労はしませんよ。私達のことは知れ渡っているでしょう。経緯はどうあれカミラを倒した相手という事ですから、最大級に警戒されてもおかしくありません」
「ふん、今更ヴァンパイアが束になってきても問題ないわ。コトネの【クルセイド】で一掃できるし、それを突破されてもアタシの【アルカイックスマイル】で寝返らせてお終いよ」
今のアタシ達からすれば、ヴァンパイアは敵じゃない。レッサーヴァンパイア兵士は言うに及ばず、ヴァンパイアでもMPアイテムたんまり買えば無双できるわ。はっきり言って、障害になるのは吸血鬼ボスぐらいだ。
「兵士達の足止めはできなくとも、城門を閉じるなどされればそれ以上進めませんよ。純粋な戦闘力以外でも、落とし穴や堀や柵みたいな高度落差で足止めされればどうしようもありません」
「……あー」
いわゆる『フラグ立つまで開かない扉』だ。或いは鍵アイテム手に入れないと入れない扉である。それはアタシでもどうしようもない。
「確かにメンドくさいわね。ニート張りに籠られたら手も足も出ないわ」
「とにかく情報ですね。相手がどこにいるかをブラムストーカー伯爵にお願いして探ってもらうしかありません。具体的な作戦はそこからです」
「もー。あっちからやってきてくれたら楽なのに」
言ってアタシは椅子に座って足をバタバタさせる。RPGのボスなんだからダンジョンにいる……なんて考えは銀色が普通にいる時点で諦めるしかない。こいつら、普通に出歩いてるし。
「そんな都合のいい事が起きるはずが――」
「大変ザマス! ノスフェラトゥが攻めてきたザマス!」
ありませんよ、と言いかけたコトネの言葉はザマス吸血鬼によって遮られた。
「OH! Quickデスネ! 敵の数はHow many?」
落ち込みから立ち上がる銀色。領主の顔になって、ザマス吸血鬼に問い直した。
「それが……ノスフェラトゥ伯爵一人ザマス!」
「Really!?」
「我が軍の防衛網をものともせず、単独で攻めてきたザマス!
最初は野戦で対応していましたが被害が大きくなったので、籠城したザマス!」
信じられないという顔で報告するザマス吸血鬼。そして銀色も同じように驚いていた。
確かに吸血鬼ボスのスペックがあれば、ヴァンパイア如きじゃ止められないだろう。アタシが考えていたのと同じやり方で攻めてきたのだ。
「そしてノスフェラトゥ伯爵からトーカ様とコトネ様あてに言伝を受け取っているザマス!」
「アタシ達?」
「はいザマス。『ここに強い人間がいるみたいじゃねぇか。そいつらと戦わせろ』……とのことザマス!」
向こうから吸血鬼ボスがやってきてくれたのだ。なんだかなぁ。
「なによその脳筋。頭悪くない? 力技で攻めてくるとかホント考えなしよね」
「言いたくありませんが、トーカも同じことを言っていましたよ」
「……アタシはほら、可愛いから許されるのよ」
コトネの言葉に目を逸らすアタシ。言われてみればアタシがやろうとしていたことと、脳筋のやってることはあんまり変わらない。レベルを上げて殴りに行く。RPG的な思考って、冷静に考えれば脳筋よね。
「この状況は渡りに船なのですが……罠の可能性はありませんか?」
「周囲に伏兵を隠している様子はないザマス。気になるなら私も一緒に出撃するザマス」
「YES! ノスフェラトゥの性格的に、UnexpectedなAttackするとは思えまSEN! 言葉通り、お二人とFightしたいのでShow!」
罠の可能性を考えるコトネだが、ザマス吸血鬼と銀色はそれを否定する。とことん脳筋ね。まあ<フルムーンケイオス>でもギミックもない力押しボスだったし、そんなもんなんでしょ。
「Umm……! GirlsをDangerにExposeするのは気が引けるのDESUが……」
「気にしなくていいわ。コトネの言う通り、アタシ達にとっても都合がいい話なんだし」
「問題があるとすれば相手のアンカーですね。戦いながらそれを探っていくのは難しいでしょう」
少し心配するように言うコトネ。カミラとの戦いはアビリティを駆使して、結構ギリギリだった。アンカーをどうにかしなかったら負けていただろう。
「どうせ脳筋が三つぐらい並んでるわよ。すぐに見破って罵ってあげるわ。
じゃ、そいつが待ってる所まで案内して」
戦闘バカの心の底なんかそんなもんでしょ。アタシは鼻で笑い、ノスフェラトゥの所に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます