27:メスガキは方向性を定める
「領民を守ってヴァンパイアと人間の文化を守って共存する? そんな夢とか理想とか無理無理無理ぃ。夢はお布団の中だけで見てればいいのよ!」
「No! Meは、Meは人間とヴァンパイアが手を取り合う街を目指して!」
「現実見なさいよこのドリーム野郎! ヴァンパイアにとって人間は血の塊! 人間にとってヴァンパイアは経験値! 争って戦いあう以外に共存する道なんてないわぁ。ああ、ヴァンパイアの経験値うまー! アタシに利用されるためだけに生きてるのよあいつらは!」
「Godは……Deathしましたァァァァァァァ!」
アタシの言葉に膝をつく銀色吸血鬼。勝ったわ。
「その、さすがにひどすぎると思います。確かに難しいとは思いますが、ブラムストーカー伯爵は理想に向けて一歩ずつ進んでいたのに」
「コトネがやれって言ったんでしょ。アンカーがあるなら壊してって」
そう。アタシがいきなり銀色吸血鬼を罵って倒したのは、別にアタシの趣味ではない。いやまあ、ちょっと夢見がちでウザかったんで現実見せたいなぁ、という気持ちがないわけでもないしちょっとすっきりしたのは間違いないけど。
銀色吸血鬼のアンカーに変なのがくっついているのがある事をコトネに言った後、コトネは真剣な顔でこう言ったのだ。
『壊してください。シュトレイン様の話から考えれば、それがブラムストーカー様を始めとしたヴァンパイア貴族を戦争に向かわせている原因です』
と言ったので、アタシは速攻でアンカーを壊すべく夢と理想を語るダメな吸血鬼をさんざん馬鹿にして……精神攻撃? そういうのでアンカーを壊したのだ。
「その……アンカーの内容はわからないので」
「コトネだって大体の予想ついてたくせに」
「もう少しスマートというか……ゆっくり話し合う感じで解除はできないんですか?
その人間の根底にあるモノを上から目線で否定して心を折るのは見ていて気持ちがよくないです」
アタシのやり方に問題はないけど、もう少し方法があったんじゃないかと言うコトネ。
確かに今までぶっ壊した相手のアンカーは、平和的とは言えなかった。っていうか変態めいたものばかりだった。子供のアタシから見ても『ないわー。マジでないわー』な感じばかりだった。
なのでキモイとかその辺もあって、罵ってアンカーを揺らして解除していたんだけど……もしかしたらゆっくり話し合っても解除できるかもしれない。その可能性を全く考えなかったのは事実だ。
「つまり、冷静に論破して相手を泣かせればいいってこと?」
「泣かせないでください。完全に相手を言い負かせるのでなく説得というか……話の落し所を見つける形の方が平和的なんです」
「中途半端は良くないわ。戦うなら徹底的にやらなくちゃ」
「やりすぎると恨みを買うだけですからね」
アタシとコトネのおんがくせい? とにかくその辺の感覚の違いはまあいつものことだ。ケンカというよりは意見交換程度に過ぎない。今の問題はそこじゃない。
「それでアンカー壊したんだけど、この後どうするの?」
「はい。ブラムストーカーさんと話をします。アンカーが壊れた後もなお聖地を求める必要があるのか? ないなら今後どうするのか?」
「なかったらどうするの?」
「他の吸血貴族たちを説得して、戦争を止める方向に移行できるかもしれません」
言いながらコトネは銀色吸血鬼に近づき、無事を確認する。肉体的には何の影響はないのか、銀色吸血鬼はすぐに起き上がった。
「Sorry! すこしMindがSparkしてSITA! Wonderfulな感覚ですNE! UnknowなAbilityを受けたようDESU!」
なおアンカーに『英単語を使った口調で喋る』とかがあったらアタシは真っ先に罵ってたんだけど、残念ながらそういうのはなかったのである。
「それに関する説明は後でします。ブラムストーカー伯爵、アナタが戦争を行う理由は何ですか?」
「WarのReason? それは……PopulationをGuardするためDESU! 他領主のInvasionから――」
「つまり、聖地と呼ばれる場所自体には興味はないのですね?」
相変わらず何言ってるのかわからないけど、たぶん他の吸血鬼が攻めるから守ってるんだなぁというのはニュアンスで分かった。そんな銀色の言葉を途中で遮って、コトネは質問を挟む。
「YES! Meは今の領土内で人間とヴァンパイアがCoexistenceできる場所をCreateしていくのがPurpose! ……UN? ではなぜMeは侵攻したのDESUか?」
言って首をひねる銀色吸血鬼。
「アンタが戦争したのは聖地の為で聖杯の為でしょ。ボケてんの?」
「そのボケをトーカが治したんですよ。カミラとブラムストーカー伯爵、その根底に根付いていた者を取り払い、聖地に対する執着を消したんです。
おそらく、カミラも同じように戦争を行う理由を失っているはずです」
「あんだけ好戦的だったのに?」
「その好戦的なのも、アンカーが原因です。
カミラに戦争の理由を尋ねた時、狂ったようになったのを覚えてますか? 自分でも納得できない理由に振り回されて私達に襲い掛かってきたのを」
コトネに言われて、アタシはカミラとの会話を思い出す。
『理由……理由……! なんで、なんで私達は……! 私は!
聖杯、聖地、故郷……! そんな者よりも、好きな子と一緒に静かに暮らしたい……! 違う、そうだ。聖地で、聖地に向かわないと……!』
コトネが戦争の理由に触れた時、いきなり呼吸を乱してこんな感じで叫んでた。大事なものはあるのに、それよりも聖地に向かう事を優先して。だけどその理由は本人にもわかっていない感じだった。
「あれがアンカーが原因だってこと?」
「はい。心の根底に結び付けることで思想を操り、戦争を強いていたんでしょう」
「で、それをやっていたのがリー……なんとかのコピペ?」
「リーズハルグですね。アルビオンのシュトレイン様のように存在を分けて、この地に身を潜めているのでしょう。戦争することでエネルギーを得て、そのエネルギーで聖杯を作るために」
吸血鬼達を戦わせて、それで得たコストで武器を製造する。そういうシステムを作り、吸血鬼ボスにアンカーを仕込んで戦わせる。そう言うことね。
「あれ? じゃあ戦争やめたら聖杯は出ない感じなの?」
「あ……そうなりますね。別のやり方でリーズハルグ様へのエネルギーを捧げるか、或いは別の方法を考えるしかありません」
「マジかー」
そして戦争停止ルートに入れば、レアアイテムは手に入らない。いわゆるルート分岐だ。片方が手に入れば、もう片方は手に入らない。よくある事よね。
「ま、いいんじゃない。どうにかなるわよ。そのコピペ神の所に殴りこんで。強制労働させるとか課金させてポイントゲットさせればいいのよ」
「課金……?
その、いいんですか? 戦争を止めたいというのは私のワガママみたいなものですし、聖杯の事を考えれば少し軽率だったんですけど」
少ししおらしく言うコトネ。
……まあ、この子からすれば『強制的に戦わされる』なんてのにトラウマがあるわけで。たとえそれが神様の行動で世界の為だからと言って、見逃せなかったのだ。
「アタシも白女のアンカーを勝手にへし折ってるんだし一緒一緒。軽率もワガママもアタシの方が多いんだからね。
それにクリアするならベリーハードモードでないと面白くないのよ」
「……トーカ」
なのでアタシはそれに気づかないふりをして、軽率に言い放った。ばか。そんな程度の事、一緒に背負ってあげるんだから。
「そんじゃ、戦争ストップルートで行くわよ! コピペ神の戦争シナリオなんかぶっ潰して、アタシが最高だって示してやるんだから!」
やることは決まったわ。聖杯なんていーらない!
「……で、具体的にどうするの? やっぱ吸血鬼ボス2体ぶった押す感じ?」
「できれば平和的に解決したいです……」
その方が経験点手にはいるんだけどなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます