26:メスガキは犠牲にされることを知る
かみちゃまが語るには――
「剣の神リーズハルグ……の分体が、新しい聖武器を作るために吸血鬼貴族のアンカーを操作して、戦争を起こさせていたんですか」
という事らしい。分体とかよくわからないけど、そいつがアンカーを使って戦争をさせていたのはわかったわ。
「はい。そうして皇帝<フルムーン>に対抗するための聖杯を作り出そうとしていたんでち」
かみちゃま曰く、そのリーズハルグという神は戦争で頑張って頑張った分だけ力を溜める神で、その溜めた力を使って聖杯を作り出すという。原理はよくわからないけど、そういうものなんだろう。
ちなみに聖杯の効果と皇帝<フルムーン>の倒し方は嘘じゃないらしい。だけど――
「……トーカちゃんとコトネちゃんを、『次』の英雄の為に犠牲にすると言ってまちた」
皇帝<フルムーン>。アタシが知るのはアホ皇帝が変化した奴で、金の杯から赤い血液を出している。だけどそれは第一形態だ。魔王と同質だから、第二形態はあってもおかしくはない。っていうかきっとある。
魔王<ケイオス>の第二形態はドラゴン型だった。空を飛び、火を噴き、各部位が独立したHPを持っている。高いHPと攻撃力。そんなパワータイプ。まあ、アタシは本体に毒当てて逃げ勝ちしたけどね。
そもそも第一形態だって『一度レベルドレイン喰らって聖杯持っている』状態でようやく戦闘ができる状態にすぎない。レベルドレインする以外の攻撃方法を知らない。それを探ろうにも、未知のモンスターだから調べようがない。
「要するに、アタシ達を当て馬にしようっていうのね」
「否定はしまちぇん。……神は、人類をより多く生かすために、最善の選択をしなくてはいけまちぇん」
棘を含んだアタシの言葉を真正面から受けて、かみちゃまはアタシから目をそらさずに言い返した。効率重視。その方が人間が沢山助かるんだから、そうする。
トロッコ問題だったっけ? トロッコの先にいる5名を救うためにスイッチを入れ替えて、1人を犠牲にするとかそういう話。かみちゃまはスイッチを入れ替えて、アタシとコトネを犠牲にすると言った。
「そーなんだぁ。神って人を犠牲にしちゃうんだぁ。えらい事や正しいこと言ってるのに、誰かを犠牲にしてもいいんだぁ」
「はい。その誹りも罵りも正当なものでち。いくらでも受けまちゅ」
アタシの言葉を真正面から受け止めるかみちゃま。非難されて当然。罵倒されて当然。犠牲にするという事を正しく理解し、それでもそうすることが正しいと信じている。
「ふん、何言ってんのよ。自分でも納得してないって顔してるくせに」
アタシはそんなかみちゃまを小馬鹿にしたように鼻で笑った。びしっと指さし、言葉を続ける。
「そんな表情硬くしてたら嘘言ってるってバレバレなのよ。犠牲にしたくないけど他の神様が正しいと思うからそう言ってるってね。
やーい、嘘つきぃ。しかも噓下手っぴ。アタシみたいにクールで演技力が高い大人な女を騙そうなんて100万光年早いのよ」
「トーカがクールで演技力高くて大人というのはさすがに無理があるかと……」
我慢できなかった、とばかりに口を挟むコトネ。言い返そうと思ったけど100倍にして帰ってきそうなのでやめた。違うわ、今はそんな些細な指摘を気にしている場合じゃない。そうよ、そういう事なのよ。
「大体アタシが負ける前提っていうのが気に入らないわ。
犠牲? あのアホ皇帝にアタシが負けるとか億に一つもあり得ないわ。兆に一つかもね。……ええと?」
「兆の上は京です」
「そう、けいにひとつもないのよ! 次なんてないわ。アタシがアホ皇帝を倒してお終いなのよ!」
指さすアタシを、困惑した目で見るかみちゃま。勝てるはずがない。だけど勝てるかもしれない。そんな表情だ。
「正しい情報に基づいた攻略! 不測の事が起きた時のリカバリー! この二つさえ押さえておけば大抵のことはどうにかなるのよ!
ましてや相手はあのアホ皇帝よ? 高慢ちきで小物でざまあされる対象なのよ? そんな負け確フラグバリバリな相手にアタシが負けるはずがないじゃない」
言いながらアタシは何に怒っていたのかを自覚した。
かみちゃまがアタシを犠牲にする、なんて言った事じゃない。
アタシが負けるだなんて思ってたことじゃない。
そんなことは些細な事だ。所詮他人の分析。アタシが正しい事なんてアタシは何時でも証明してきた。間違ったざこの戯言なんか、聞く耳持たないわ。
本当にムカついているのは、一つだけ。
「かみちゃまはあの時言ったわよね。『みんなが同じ考えである必要はない』って」
コトネを取られそうになってぐちゃぐちゃになっていた時に、かみちゃまはそう言ってアタシを慰めてくれた。グダグダしていたアタシの背中を押してくれた。
「他の神がそう思うからって、かみちゃままで同じである必要はないのよ!」
そうだ。アタシが怒っているのは、かみちゃまが自分の言葉を言わないからだ。
神だから。他の神がそうだから。だから自分もそう思うべきだ。そんな鎖につながれて、かみちゃまは心を閉ざしている。
それが許せない。言いたいことぐらい言ってほしい。
アタシにはコトネと幸せになってほしいと言ったくせに、自分はそうじゃなくていい。そんなの許せないわよ!
「でも……人類を多く救うには……」
「そんなもんどうにかなるわよ。人間のしぶとさ舐めちゃいけないわ。いざとなったら他人を蹴落として悪知恵使って生き延びるのが人間なのよ」
「トーカの言い方はともかく、神の保護がなくても生きていくのが人間です。もちろん、悪魔や皇帝<フルムーン>に対する十分な対策は必要ですが……。
シュトレイン様はどう思われているのですか?」
そんなのかみちゃまの顔を見たらまるわかりだ。
「あたちは……あたちは、誰も犠牲になんかしたくないでち……!」
ボロボロと涙を流し、震える声でかみちゃまは本音をこぼした。
「トーカちゃんにもコトネちゃんにも、他の人間も、あたちは『必要な犠牲』なんて思いたくないでち……!
人間は、命は、数字じゃないんでち……!」」
言って涙を流すかみちゃま。……初めて、かみちゃまの泣き顔を見た気がする。アタシとコトネは、そんなかみちゃまを抱きしめた。
「ふえええええええええええええん! あたちは、あたちは!」
「ばーか、赤ちゃんなんだからもっと素直に泣けばいいのよ」
「でも、でも! 世界は! あたちは!」
「はい。私達がなんとかします」
「安心しなさい。アタシとコトネがいればなんだってできるんだから」
泣きじゃくるかみちゃまを抱きしめながら、アタシは根拠のない自信にあふれていた。実際問題として皇帝<フルムーン>に対抗する術なんて一つもないけど、それでもどうにかできる。そんな自信に満ち溢れていた。
「OOOOOOOOOOOH! 事情はDon’t Knowですが、VeryVeryVery Impresseeeeeeeeeed! MeのTearsはCan’t Stoooooooop!」
そしてそんな感動をぶっ壊すように、銀色吸血鬼が叫ぶ。ハンカチで目元を押さえて、大号泣していた。……そう言えばいたわね。確かに人払いしてないし、コイツ自分の領域ならどこでもテレポートできるんだっけ?
「ええと、邪魔だからどっか行ってほしいんだけど」
「いいえ。ブラムストーカー伯爵に協力を仰ぎたいことがあります。この戦争を終わらせるためにも大事な事です。
トーカ、ブラムストーカー伯爵のアンカーは見えますか? 推測ですが『人間と吸血鬼の民を大事にする』『知識と文化を大事にする』あたりかと」
「コイツがそんなまともな人に見えないけど……」
コトネに言われて、改めて銀色吸血鬼のステータスを見る。
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アンカー
守護:領民 「なので」「聖地巡礼する」
目的:ヴァンパイアと人間の共存 「なので」「聖地巡礼する」
守護:ヴァンパイアと人間の文化 「なので」「聖地巡礼する」
契約:「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」
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……見えた。銀色吸血鬼のアンカー。しかもくっついている契約とやらも一緒に。
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