25:メスガキは色々考える

 無力化した白女をみて、遠くで戦っていたザマス吸血鬼達がやってくる。


「ヴァンパイアロードのカミラ様を捕えたザマス! これ以上の戦いは無意味! 皆、矛を収めるザマス!」


 ザマス吸血鬼の宣言で、相手側の吸血鬼は戦意を失ったかのように武器を捨てる。その間に白女を縛っていく。


 逃げるヴァンパイアを追うことなく、ザマス吸血鬼達はクルシュに進軍する。旗がするすると降りて、新しい旗が掲げられた。


「どういうこと?」

「あちら側の戦う理由である領主が囚われたんです。戦意を失い降伏したんですよ」

「ってことは、これで女ヴァンパイアの領地はこっちのもの?」

「そうなるかどうかは交渉次第ですね。カミラさんの後を継ぐヴァンパイアがいれば、それを旗頭にして反抗勢力が生まれる可能性もあります」


 なんだかいろいろややこしい。その辺の難しい話はアタシの役割じゃないし、関係ないわ。


「ボスを倒してどうにかなったってことでOK?」

「結果的にですね。まだどうにかなるかはわかりませんが、この場は収まったようです」

「ふふん。やっぱりボスを全員倒してしまえばお終いってことじゃない」

「そういうわけではありませんけど、今回はそういう事で」


 コトネの言葉に胸を張るアタシ。やっぱりRPG的解決で問題なかったってことね。


「YEEEEEEEES! 今回はたまたま上手くいきまSITA! But! VampireLoadはFearfulな相手! 二人で挑むなどDangerous! 正直、二人が無事なのがUnbelievable!」


 そして背後からいきなり叫ぶ声。慣れたけど慣れない銀色吸血鬼だ。クルシュの街を落としたことで、ここまで来れるようになったのだろう。……毎度毎度思うけど、心臓に悪いわ。


「まあね、でんじゃらすであんびりばぶる? とにかくきちんと戦術立てて挑めば勝てない相手はいないのよ」

「今回のはハプニング的な遭遇でしたけどね。ついでに言えば、少し危うい状況でした」


 銀色吸血鬼に振り返り、もう一回胸を張るアタシ。


 ……とはいえ、コトネのいう事も事実だ。正直、あのままだと負けてた。アンカーをどうにかして無理やり勝ちにもっていったに過ぎない。上手く行かなかったら、撤退していたわ。


 そうだ。アンカー。あの白女にはアンカーがあって、しかもそれには悪魔が契約したみたいなモノがついていた。ってことは悪魔が絡んでいるのだろう。前みたいに変な魔物と融合させて……あれ?


「ん? どういうこと?」


 アタシは悪魔がこれまでしてきたことを思い出す。


 巨乳悪魔はオルストシュタインで天騎士おにーさんを暗黒騎士にしたり、ヤーシャで6本腕のヤツや肉の塊を作ったり。後アホ皇帝もアイツか。


 5流悪魔は5流っぽく気持ち悪い魔物作ったり、後武器になって人間操ってたっけ?


 厨二悪魔は魔王<ケイオス>で攻めてきたり、アイドルやってたり。……一番アイツが何もしてないわよね。


 悪魔がやることは基本的に<フルムーンケイオス>にない魔物を作って、暴れさせることだ。変な特殊能力持ってたりへんなギミックだったり。んでもって、そいつらは例外なくアタシが見たら吐きそうなぐらいの感覚に襲われる。


 だけど、白女は――カミラは違った。


 あの戦闘データは<フルムーンケイオス>にあったものそのままだし、吐き気もない。素のカミラデータだ。アンカーなんて奇妙なものはなかったけど、逆に言えば<フルムーンケイオス>と違ったのはそれぐらいだ。……ダンジョンから出てきたり、変態だったりはしたけど。


「そうよ。アンカーを弄ってるのに、何も強くなってないじゃないの」


 悪魔が何かを仕掛ける時は、決まって魔物を使っていた。あいつらは直接人間を攻撃できないからだ。だから魔物を強化して襲わせる。或いは人間を魔物にして襲われる。


 だけど今回のは違う。確かにヴァンパイアボスは元人間という設定だけど、扱いは魔物だ。アンカーを攻撃して倒した時も、人間に戻るとかいう変化はなかったもん。つまり、あれは元から魔物という扱いで間違いない。


 アタシが感じた違和感の正体はこれだ。アンカー弄って契約しているくせに、全然強くなってないのだ。むしろ言動がおかしくなってただけ。


 何のためにアンカーを弄ったのか? しかも三つともガッチガチに同じ内容で。絶対聖地目指すウーマンの如く、揺るぎない感じだったわ。


「トーカ、どうしたんです?」

「……んー、実は――」


 コトネに気づいたことを話すと、しばらく沈黙してから口を開く。


「戦う前ですが、カミラの挙動が不審だったことを覚えていますか?」

「ふしん?」

「戦争の理由を聞いたとき、頭を抱えてぶつぶつと何かを言っていました。『聖地に向かわないと』と無理やり自分を納得させるような感じで」


 コトネに言われて、アタシは戦う前の白女を思い出す。


『理由……理由……! なんで、なんで私達は……! 私は!』


『聖杯、聖地、故郷……! そんな者よりも、好きな子と一緒に静かに暮らしたい……! 違う、そうだ。聖地で、聖地に向かわないと……!』


 ……うん。わけわかんない。何言ってるんだろ、って感じだ。


「トーカ、アンカーの内容は覚えていますか?」

「確か……サドで貴族様で好きな子愛したい? その後になんかくっついてたわね。『聖地に向かいたい』だっけ?」

「はい。アンカーはその存在が心に抱いている根底です。そこにそう言った『目的』がついているのなら、行動すべてが聖地に向かうとせんの……誘導できるのではないでしょうか」


 洗脳、と言いかけて言葉を変えるコトネ。アホ皇帝に洗脳されてたことを思い出しそうになったのだろう。バカ。そんなのもうさせないっての。


「つまりアンカー弄られたから聖地に向かおうとしていて、それで戦争してたってこと?」

「おそらくは。詳細はカミラさんに話を聞かないと分かりませんが、間違いはないと思います。

 問題はトーカの言うように『誰が』アンカーを操作したのか、です」


 コトネの表情は明るくない。誰かが分からない、という事はないのだろう。アタシでも何となく想像がついているのだから。


「そりゃ神様でしょ? 悪魔じゃないんだし、他にアンカー弄れそうなのっていないもん」

「身も蓋もありませんが、そうでしょうね。魔物同士を争わせて戦争させて、何かの利益があるのでしょうが……」


 はっきり言い放つアタシに、陰うつなため息をつくコトネ。聖女だから、というわけでもないけどあまりいい気分はしてないようだ。


「その辺りはかみちゃまに聞けばわかるわよ。今どこにいるんだっけ?」

「ドマンタワーですね。出発前にベビーシッターができる女性の方に渡してきました」

「塔まで戻らないとダメか。だるーい。ワープアイテム欲しいー」

「戻らなくても大丈夫でち」


 ここから塔まで歩くことを考えて気怠くなるアタシ。そんなアタシの目の前に、かみちゃまが瞬間移動してきた。多少力を取り戻したとは聞いたけど、なんでもアリだ。


「Oh! BabyがTeleportation! Surprise! Amazing! Shocking! まさにMiracleMagic!」


 そしてそれを見た銀色吸血鬼が驚いて叫んでいた。アンタも気が付いたら後ろにいたでしょうが。ツッコむ気力もないので、説明を後回しにしてかみちゃまに問いかける。


「こっちの話は聞いてたんでしょ? どういうことなのよ」

「流石に乱暴です。シュトレイン様、実は――」


 ものすごく端的に聞くアタシ。コトネが説明を挟もうとするけど、かみちゃまはそれを手で制する。


「トーカちゃんの言うとおり、全部聞いてまちた。

 カミラを始めとしたカルパチアのヴァンパイアロードにアンカーを結んだのは、リーズハルグ。正確にはそのコピー存在でち」


 そこまで説明してから一旦間を置き、意を決したようにかみちゃまは口を開いた。


「お二人は、この世界の人類のために皇帝<フルムーン>への先兵となってもらいまちゅ。

 できるだけ相手の情報を引き出して、後の英雄に繋げるための犠牲になってほしいんでち」

 

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