24:メスガキはアンカーを弄る
「この変態白女をの罵り倒すわ!」
「実力じゃ勝てないから口喧嘩? 負け犬の遠吠えぐらいは聞いてあげるわ」
アタシの言葉に余裕の笑みを浮かべる白女。実際、状況は白女が有利だ。アタシの言葉は負け惜しみにしか感じないだろう。
「はい。トーカに任せます」
アンカーの事を知っているコトネだから、素直に頷いてくれた。知っていてもコトネじゃなかったらいろいろ言われたかもしれない。怪訝な顔されたか、何言ってるのってツッコまれたか。どっちにせよ、余計なやり取りをしなくて済むのは気楽だ。
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アンカー
嗜好:他人を傷つける 「なので」「聖地巡礼する」
矜持:ヴァンパイアロード 「なので」「聖地巡礼する」
目的:愛しい子を愛でる 「なので」「聖地巡礼する」
契約:「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」
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白女のアンカーはこの三つだ。サドで自分の立場にプライドもって好きな子を愛でる吸血鬼。……あの首輪つけて雑に扱うのが愛でているのかと言われれば。アタシにはわからない世界なんだけど。
戦いながらという事もあって、時間はあまりない。じわじわと追い込まれる中、アタシは時間もないので上から罵っていく。
「大人なのに他人をイジメて楽しむとか、変態にもほどがあるわぁ。人を傷つけて楽しむとか、どんだけ精神が歪んでるのよ。情けなくない? ああ、そう感じないから変態なんだよね。かわいそー」
アタシの言葉に一番上のアンカー『嗜好:他人を傷つける』が揺れる。それに繋がっている「なので」「聖地巡礼する」も一緒に揺れた。このまま攻撃し続ければ、前みたいにぶっ壊れてくれるはず。
「……トーカ、それ自分にも当てはまりますけど」
「アタシは子供だからいいの!」
「よくはありません」
そしてコトネがものすごく申し訳なさそうに言ってくる。アタシは無敵の子供理論でガードするけど、コトネのいい子ちゃんスピアはそれをあっさり貫通して追撃してきた。痛いけど気にしないわ。
「ふん、高貴なる一族に赦された特権よ。愚民には理解できない高尚な趣味と知りなさい」
「出た! 貴族特有の『愚民ども!』が! その愚か者の子供も黙らせられないんだから、貴族っていうのも大したことないわよね。力ずくで黙らせるなら、愚民も貴族も変わらないわ」
「あらあらよく回る舌ですこと。その口が許しを請う言葉を想像したら奮えてきたわ。せいぜい今のうちに吠えてなさい」
アタシの言葉に余裕を崩さずに返す白女。……? ちょっとおかしい。いやその、こういうふうに返されること自体は想定内っていうか、そういうキャラなんだろうけど。
アタシが罵るたびに、アンカーはダメージを受けている感じでガンガン揺れている。前だとその度に揺れは大きくなって、そしてぽろっと崩れ去った。だけど白女はそういう傾向はない。揺れるんだけど、何かに支えられるようにすぐに揺れが収まる。
「何か困ったことでもありましたか、トーカ」
「なんだろう? 予想していたよりもアンカーが堅いっていうか……効いてはいるんだろうけど、ちょっと壊せそうにない?」
アタシの様子を察してか、コトネが声をかけてくる。
「普段と何か違う事があるんですか?」
「違う。そうね、違う。アンカーに繋がってるものが全部同じ」
「私はアンカーを見れないのでわかりませんが、それが原因なのでは? 同じもの同士連結して支え合っているとか?」
コトネの言葉を聞いて、アタシはアンカーの揺れ方を思い出す。そしてもう一回口を開いた。
「そんな変態サディストに愛される人も大変よね。ブラック企業も真っ青のパワハラじゃない。気付いたらいなくなってるかもしれないわ。あーあ、でも自業自得よね」
「ぶらっく? よくわからないけど私とローラとレイナの絆を疑うつもりなの? 下賤な民がつまらない価値観で私達を推し量るんじゃないわ!」
今度は『他人を傷つける』と『愛しい子を愛でる』を同時に揺らしてみる。反応はさっきよりも大きいけど、すぐに冷静を取り戻した。でも今度は注目していたからしっかり見えた。
コトネの推測通り、「なので」「聖地巡礼する」同士が繋がっている。それも揺れるんだけど、揺れてない「なので」「聖地巡礼する」がその揺れを抑えて、そして全体の揺れを止めている。
「ってことは三つ同時にやらないとダメってことか」
おっけー。ギミックが分かればどうという事はないわ。
「絆ってさっきアタシに<魅了>されたあの二人? あははははは! 嗤っちゃうわよね、絆。そんなものがあってもアタシに微笑まれてコロッとしちゃうんだもん。貴族様の痛い痛い愛よりも、アタシが笑うほうが効果あるってことが証明されたわね」
「……っ! 貴様のはそういうアビリティでしょうが!」
おお、効果絶大。白女は大きく怒り、アンカーも三ついっぺんに盛大に揺れたわ。「なので」「聖地巡礼する」も揺れが止まらない。
「本当にアビリティだけだと思うぅ? 殴って脅して圧力かけて、そんな横暴貴族様よりも、可愛いアタシを愛でたいって思うのは普通の感覚じゃない。あ、貴族様には愚民の心はわからないか。頭悪いもんねぇ」
「黙れ……!」
怒りの叫びと同時に攻撃を繰り出す白女。こっちのHPは残り少ない。コトネの回復があるとはいえ、長くはもたない。HPがあっても痛いものは痛いし、できるだけ早く終わらせないと。
「あはぁ。怒った? 図星刺されて怒ったぁ? っていうかアンタも心のどこかで不安に思ってたんじゃない。こんなことして逃げないか。愛してもらえるのか。でも貴族のプライドが邪魔して聞けないんだもんね。なさけなーい。子供でも分かるぐらいに終わってるわ」
「う、うるさい! 貴様なんかに何が分かる!」
「でたでた! 必殺の『お前なんかに何が分かる』! 自分は辛いんだ。自分は努力したんだ。なのになんで誰も理解してもらえないの? 分かるわけないでしょ、他人の気持ちなんか。ましてや傷つけないと愛せない偏屈吸血鬼貴族の心なんか論外よ。
アタシの<魅了>を責めてるけど、アンタも【従者召喚】アビリティでいう事聞かせてるじゃない。なのに絆? 愛? あははははは! そういうのをなんていうか知ってる? 無様っていうのよ。様になってない貴族様。MP使って従者創って愛して大満足! きゃー! ぶ・ざ・まぁ♡」
最後は指さして罵ってやったわ。アンカーあんまり関係ないけど、つい興が乗って言っちゃった。だって言いたかったんだもーん。
「……このっ! このぉ! お前だけは、お前だけはぁ……!」
揺れていたアンカー。三つのアンカーの後ろについていた「なので」「聖地巡礼する」が粉々になって砕け散る。音とかはならないんだけど、パリーンとかそんな感じで。そして白女は気力が尽きたのか膝をついて崩れ落ちる。
「アタシの頭の良さには勝てなかったみたいね」
一息ついてよろけるアタシ。残りHPは4。結構ギリギリの勝負だったわ。
「アンカーを揺らされて気を失ったのは理解しますが、さすがに言い過ぎというか……この人もこの人なりに愛していたわけですから、そこまで否定しなくてもよかったんじゃないですか?」
「事実だし、いいのよ。それに敵だしね」
「グランチャコでブレナンさんに事実をつつかれて泣かされたのと同じことをしたんですよ」
「…………まあ、仕方なかったのよ。そういうアンカーだし」
コトネの言葉に、アタシはちょっと反省する。自分がされたことを思い出して、ちくちく心が痛んだ。コトネへの想いを責められて、わんわん泣いてたもんね、アタシ……。
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