23:メスガキはカミラと戦う
ジョブ『悪役令嬢』の持つアビリティ【従者命令】【ムチ使い】【闇魔法】【騎乗戦闘】【着る】。
そのうち【従者命令】は【アルカイックスマイル】で封じられる。10レベルで覚えられる【騎士長命令】でも85レベル。レベル相応に強いけど、アタシよりレベルが低い以上は【アルカイックスマイル】で<魅了>して無力化、そして戦力にできるわ。
「どれだけ女ヴァンパイアをぶつけてもむ・い・み。分かったら一人寂しくかかってきなさいよ。ぼっちはかわいそー。同情するわー」
「貴様ら如き私一人で十分よ!」
<魅了>されて襲い掛かる自分の従者を鞭で薙ぎ払う白女。少しでも知性があるのなら、同じ愚は犯さないだろう。
(別にトーカが可愛いのは知っていますし、今のがそういうアビリティでこの状況ではベストな行動なのは疑いませんけど、私以外の人を意図して惑わすような行為をされるといい気持じゃないのは事実なんですからね。ええ、嫉妬ですよ。嫉妬して何が悪いんですか。私はトーカのお嫁さんなんですから。嫉妬しますよ。面倒くさいぐらいに遠慮なく嫉妬しますからね)
――と、コトネが無言の圧力を送ってくるのでできれば従者をぶつけてくれないことを祈る! 切実に! 今でもちょっと怖いもん!
ともあれ【従者命令】はこれで封じたも同然。【騎乗戦闘】は別に何かに乗ってるわけでもないので、これも意味をなさない。となると注目すべきは【着る】による防御効果と、【ムチ使い】【闇魔法】による物理と魔法の攻撃だ。
「ゴーダ・ムファルア・デハイ・マウ。夜と星と影の三賢者、そして地に眠る冥龍に願い奉る。混沌を封じし七つの門。その鍵をわが手に与え給え。
開け門よ。遥か彼方より途絶えることのない冥府からの叫び声を届けよ――!」
【闇魔法】レベル10の【アビスゲート】だ。一直線に闇属性の魔法攻撃をするコトネの【クルセイド】の対になる魔法。ゲームだと画面端まで貫通する後衛殺し、だけどその攻撃も――
「やーん。こわーい。怖いからトーカ、着替えちゃう」
【早着替え】で黒蝶セレナーデに着替え、【カワイイは正義】で闇属性耐性を二倍にして完全防御。さらに【ペアルック】でコトネにもその効果を付与して、ノーダメージ!
「同じアビリティを持ってるくせに、対策されるなんて思わなかったぁ? まさかおねーさん間抜けぇ?」
「ええ、思わなかったわ。まさかこの短期間で【着る】を極めてくるなんて。
ブラムストーカーめ、こんな隠し玉を持っているならもっと早く使えばよかったのに。そうすればあそこまで追い込まれることもなかったでしょうね」
アタシの煽りを冷静に返す白女。アタシに対して強い戦意は感じるけど、怒り狂うというほどでもない。
「あいにくとアタシはつい最近ここに来たのよ。あの銀色吸血鬼に味方したのもついこの前なんだから。
ぶっちゃけ、アホ皇帝を倒す聖杯がなかったら戦争なんか参加してないわ」
「そんな理由……! 聖地ではなく、その副次品が目的だなんて!」
「土地なんてどうでもいいわ。別にダンジョンとかがあるわけでもなさそうだし。逆に聞くけど、なんで場所なんかに拘るのよ」
「聖地には……聖地を取り返すことには、意義が……!」
? 軽口程度の言葉に頭を抱える白女。戦う理由をバカにされて怒るか叫ぶかするかと思ったけど、予想外の反応だ。怒りで言葉が詰まった、とかではない。むしろ予想外のことを言われて脳内がバグってる感じだ。
「聖地には……この戦いを、努力することが、戦いが……! 私は、ただ平和に好きな子を愛でていたい……その為に、戦う……!
そうよ、聖地を納めて、誰にも邪魔されない愛の世界を……!」
「好きな子と行きたいんなら国とか捨てて逃げればいいじゃない。なのになんで戦争なんかしてるのよ」
「黙れ! 貴様に、子供如きに、違う……そうすべき……他の三人が攻めてくるから仕方なく……! 私は、間違ってない!」
支離滅裂だ。愛する者の為と言いながら、他の勢力のせいにする。自分でも間違っていると分かっているのに、間違ってないと無理やり納得している。わけわかんない。
そこまで思った瞬間に、白女から地面に伸びる一本の線に気づいた。なんでこれまで気づかなかったのか? いや、きっと違う。アタシが『それ』に触れたから気づいたのだ。この白女の心の根幹。――アンカーに。白女のステータスを再度見て、前に見ることができなかった項目を確認する。
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アンカー
嗜好:他人を傷つける 「なので」「聖地巡礼する」
矜持:ヴァンパイアロード 「なので」「聖地巡礼する」
目的:愛しい子を愛でる 「なので」「聖地巡礼する」
契約:「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」「聖地巡礼する」
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サディストで自分を最高と思っていて、それでいて従者を愛でる変態白女。根底にある性格全てに『聖地巡礼する』という何かが引っ付いている。
前にオルスト皇国とかで戦ったメイスおててや変態ユニコーンのアンカーみたいに何かがくっついているけど、それらは全部バラバラだった。だけどこの白女は全部一緒。だからなのか、自分で自分がわけわからない感じになっている。
「トーカ!?」
「っ!? やばっ!」
思考がそれてたのか、戦闘への対応が遅れた。防御力の低い黒蝶セレナーデのまま、白女の振るう鞭をまともに受けてしまう。ごっそりHPが減ったり、痺れるぐらいに痛い。だけど本当にきついのは、戦闘の流れをもっていかれたことだ。
「ふふ、隙ありね。会話でこちらの隙を生むつもりだったみたいだけど、どうしたのかしら? もしかして、私にいじめられたいのかしら? その生意気な態度も、その裏返し?」
「つまんない妄想ね。年取って頭バグってんじゃないの? 変なのに操られてんじゃないわよ」
「何を言っているのかわからないけど、このまま押し切らせてもらうわ」
変態白女にアンカーを操られている自覚はない。これまでの奴らと同じだ。悪魔にアンカー弄られて、それで力を―――あれ? 何かおかしくない?
「考えるのは後! 今は立て直しよ!」
【早着替え】でブラッドドレスに着替えて、【精吸血】でHPとMPを回復する。コトネの回復もあわせて、一時的な立て直しはできる。だけど、その間に白女は鞭を振るい、こちらのHPを削ってくる。
【従者召喚】も【闇魔法】も効果がない事を知った以上、白女の戦術は【ムチ使い】と吸血鬼アビリティを軸にしてくるだろう。そしてそれは大正解。アタシ達を最も効率よく倒せるわ。
このままこちらの回復と白女の耐久力の削り合いになるわけだけど、そうなるとさっきの失態がきつい。あれを上手くしのいでも綱渡りなんだけど、今はそれ以下だ。はっきり言って勝ち筋が見えない。
今なら逃げられる。アイテムを使ってコトネと一緒に逃げられる。一緒に居るザマス吸血鬼はアイテムが使えないからボスに巻き込まれてご愁傷さまだけど、あいつ等は考えてみたら時間で復活できるし気にしなくていいわよね。
「コトネ、これやってダメなら逃げるわ!」
だけど、やれることがあるならやる。試せることがあるなら試す。それがアタシだ。コトネも不利を理解しながら、頷いたのが気配で分かった。
「この変態白女をの罵り倒すわ!」
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