22:メスガキは悪役令嬢と戦う
ジョブ『悪役令嬢』――
保有しているスキルは【従者命令】【ムチ使い】【闇魔法】【騎乗戦闘】そして【着る】。
【従者命令】はテイマーみたいな命令形。MPとお金を消費して『メイド』『執事』『騎士』などを召喚するタイプ。リソースが沢山あれば滅茶苦茶強いけど、逆に言えばリソース馬鹿食いの趣味スキル。
【ムチ使い】はムチを使った戦士系。【闇魔法】は攻撃特化の魔法使い系。【騎乗戦闘】は動物に乗っている時に有利になる補助系よ。そして【着る】はアタシも持っている服系ドレス系の効果を引き出す形ね。
なお実装時に<フルムーンケイオス>のプレイヤーからは『こんなの悪役令嬢じゃない』『ただの悪役な令嬢や』『転生知識スキル寄越せ』『婚約破棄スキルも寄越せ』『悪役令嬢は概念。スタッフはわかってない』と総スカンをくらってたわ。
話を戻すと、白女はこのスキル全てをレベル10で持っている。当然ヴァンパイアのアビリティもだ。<フルムーンケイオス>でもそのスキルで猛威を振るい、更には周囲の拷問具もあって、多人数で数で押すのが難しい相手だったわ。
「二体の女ヴァンパイアは【騎士長命令】で呼ばれたヤツね。アビリティはないけど高ステータスでガリガリ押してくるわ。あとはコトネの【クルセイド】に相当する【アビスゲート】もあるわよ。本体も【龍髭鞭】で広範囲にダメージと精神系バステを与えてくるわ」
高レベルの取り巻き。物理攻撃も魔法攻撃もボスクラス。そしてコトネの攻撃はドレスで防ぐ。そんな相手よ。
「トーカ!」
「初撃は【クルセイド】! あとは防御重視! 回復のタイミングはいつもより早めで!」
手短に作戦を告げ、同時にアタシは前に出た取り巻き二体に迫る。速攻でこの二体を倒して、白女を攻める。どれだけこの二体を早く倒せるかが勝負の要よ。
「ふふふ。そうくるわよね。聖魔法を極めた聖女様。戦い慣れた遊び人。先に倒すべきは、アナタよ!」
「っ、あいたぁ……!」
白女の鞭が振るわれ、アタシを撃ち据えた。【龍髭鞭】。龍の髭の如く世界を薙ぐ【ムチ使い】最強のアビリティ。高いダメージと<出血><委縮><魅了>の継続ダメージ、攻撃ステータス減少デバフ、そしてコントロール不能の三種類のデバフが高確率で付与される。だけど――
「へたくそぉ。そんなのでアタシに言うこと聞かせようとか、あたまわるーい」
アタシには効かない。あらゆる不利な状況を無効化する【天衣無縫】がある。【ムチ使い】があるんだから、当然対策済み!
「ふふ、当然【天衣無縫】は使ってくるわよね。それも想定済み。そちらに気を割く分、攻撃への意識が薄くなるわ」
そしてそれは【着る】を持っているカミラも知っている。レベル8のMP消費が高いアビリティを使わざるを得ない。その分攻撃に回すリソースは減少する。それが狙いだと言わんばかりの笑み。
「十字の誓いに集え、騎士達よ!」
「聖女の振るう旗に向かって、突撃!」
「この想い、この愛、聖女のために!」
コトネの叫びと共に【クルセイド】が発動する。……なんか魔法エフェクトのくせに邪な気配を感じたけど。とっとと突撃しろ。そして消えろ。
「そしてそれも予測済み。ローラ」
「はい、カミラ様」
【クルセイド】発動に合わせて、白女は女ヴァンパイアの一体に【ペアルック】を発動させた。自分が着ている聖属性耐性のある服を着せたのだ。騎士の突撃が吸血鬼達を飲み込む。短い悲鳴が聞こえ、【ペアルック】を受けなかった女吸血鬼が消滅した。
「これで勝負あり、かしら。あれだけの魔法を連発はできないでしょうし、いくらでも無効化できる。
<吸血>無効のアイテムを持っているのはどちらかしら? 枯渇した精力は持っていない方から奪わせてもらうわ」
勝利を確信した笑みを浮かべる白女。こちらの最大火力である【クルセイド】の対策はばっちりだ。白女があのドレスを着ている限り、コトネの攻撃は全て意味をなさない。【ペアルック】で女ヴァンパイアも守れるのだ。
「まだあきらめてない顔ね。じゃあ絶望をもう少し濃くしてあげるわ。
蘇りなさい、レイナ」
「はい、カミラ様」
甘くささやくように白女が言うと、消滅した場所に女ヴァンパイアがまた現れる。お金とMPを使って【騎士長命令】で召喚したのだ。さっきと同じ女ヴァンパイアなのかどうかはわからないけど、ゲーム的にはそんな所だろう。
「いいわよ、無駄に足搔いても。その心が折れるまで、何度でも同じことをしてあげる。戦う子は大好きよ。気の強い子も大好き。それが砕ける様も、心が壊れる様も、何もかも捨てて無様に命乞いする様も大好き。
さあ、あなた達はどれだけ戦えるかしら? どんな敗北を魅せてくれるのかしら? どんな蜜を放ってくれるのかしら?」
【クルセイド】は決定打にならない。倒しても復活する。白女本体もボス相応に強い。遊び人と聖女如きでは勝ち目はない。あとは逃がさぬようにするだけだ。主従の関係を魂にまで刻み、その愉悦に酔う。
「うわ、変態。ちょっと強いからって図に乗って妄想に耽るとかやめてくれない」
そんな白女にドン引きするように言うアタシ。カミラのスペックは全部知っているのだ。予測済み、はこっちのセリフなのよ。
「あらあら可愛いわね。その態度がどう変わっていくのか楽しみだわ。許してくださいカミラ様、って泣きながら懇願するまでこの鞭でいたぶってあげる。それとも、この子達にイジメてもらおうかしら」
「そうね。高慢で高飛車な人が心折れる瞬間て見てて気持ちいいわ。それは同意してあげる。自分のモノだったのに奪われて泣き叫ぶ姿とか、どんな感じなんでしょうね」
アタシは言って女ヴァンパイアに向きなおる。アタシは女ヴァンパイア二体に向かって微笑み、【笑う】のレベル10アビリティを使う。
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★アビリティ
【アルカイックスマイル】:全てを優しく包み込む究極の微笑み。自分のレベルが対象のレベル以上の場合、耐性を無視して<魅了>を与える。(BOSS属性には効かない)。MP100消費
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自分のレベル以下のモンスターに<魅了>を与えるアビリティよ。効果範囲はアタシの近接距離にいるモンスター全員。この場合、女ヴァンパイア二体ね。条件を満たせばボスじゃなければ効くぶっ壊れ。
「ああ、トーカ様ぁ……。だめ、心ではだめだと分かっているのに、体が……!」
「違うんです。カミラ様の事が大事なのにぃ、トーカ様に逆らえません……!」
<魅了>がかかった女ヴァンパイアは味方である白女に向かう。状態異常解除のアビリティがあれば治せるが、カミラのステータスにそれがないのは知っている。
「き、貴様ぁ! 私のローラとレイナになんてことを……!」
「あははは! 本気で怒ってる! ねえどんな気持ち? 自分の所有物を一瞬で奪われてどんな気持ち? 脳破壊されちゃったぁ?」
「このクソガキぃ……!」
あー、気持ちいい。頭を抱える白女を見て、アタシはさいっこーに悦に浸っていた。
「アンタがどれだけ声かけても無駄無駄ぁ。アタシの微笑みで心奪われちゃってるもんね。支配とか言ってるけど、だ・さ・だ・さ。アタシに魅了されて利用されるだけの駒になっちゃったもんねぇ」
「……戦術的に間違っていないことを踏まえたうえで、後で話があるからトーカ」
「ひゃい!? でもこうしないと勝ち目がないことだけはわかって!」
低い声でぼそりというコトネ。その圧力に思わず背筋を伸ばすアタシ。あ、これ以上この件は触れない方がよさそう。……やだ、いまうしろみたくない。コトネ本気で怒ってるよぉ……。
相手の戦力を一気に減らし、アタシ達とカミラの戦いは続く。
これでも天秤は少しだけこちらに傾いた程度なのだ。
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