19:メスガキは次の街を攻める
クルシュ。カルパチアにある町の一つだ。
大きさ的にはそれほどでもなく、ゲーム的にも吸血鬼ボスのカミラがいるダンジョン『竜牙砦』の補給地点でしかない。
だけど目の前に見えるクルシュとその周辺はアタシが知る光景ではなかった。まあ、ゲーム内の光景なんかいちいち記憶はしていないんだけど。それでもこんなものはなかったと断言できる。
トゲトゲのついた椅子、尖った杭、そう言った見るからに痛そうな器具。それが血まみれになって転がっているのだ。
拷問具。具体的にどんな風に使うかは知らないけど、これらが何のために使われる道具なのかは理解できる。そしてそれらは皆血にまみれ、地面を赤く濡らしているのだ。
「ワラキアの領主、ヴラド三世は2万人のトルコ兵士を串刺しにして敵兵士の士気を挫いたと言いますが……規模はともかくそういう意図なのでしょうね」
コトネが嫌悪感と共にそんなことを言う。アタシ達と一緒に進軍してきたレッサーヴァンパイア兵士やザマス吸血鬼も似たような表情だ。
「カミラのダンジョンにあるオブジェと同じ感じね。ってことは近づいたらダメージだったりバステ喰らったりって感じかな」
アタシは恐怖よりも『竜牙砦』のダンジョンギミックを思い出してげんなりしていた。あのダンジョンはトラップ豊富で、モンスターよりもトラップに殺されるキャラの方が多いとまで言われている。ボス戦でもそのトラップは存在し、カミラの広範囲攻撃も相まって厄介な戦場なのだ。
そしてクルシュの入り口近くに、レッサーヴァンパイアが沢山いる。テレビで見た歴史ドラマっぽく陣を組んでいて、その先頭にはレッサーじゃないヴァンパイアがいる。その矛先は明らかにアタシ達を向いていた。
「野戦を仕掛けるつもりみたいですね」
「やせん?」
「町に被害を出さないように、街の防壁に頼らない戦いの事です。こちらの数を見て、打って出てきたという所だと思います」
コトネの説明にそんなものかと頷くアタシ。
クルシュを攻める。そう決めたのは一日前の事だ。ドマンタワーを取り返して要所を確保し、その土地から復活するザマス吸血鬼やレッサーヴァンパイア兵士を味方に取り込んで兵力を回復したからだ。
当然だけどクルシュにも敵の兵士がいて、それとドンパチすることはわかっている。100年かけて戦争を終わらせようとしている銀色は慎重に物事を進めるつもりだったけど、アタシ達はそうもいかない。むしろ速攻で終わらせるために超絶レベルアップをしたのだ。
「Dangerous! Hazard! Insecure! クルシュはカミラのいるHomeのすぐ近くDESU! 今の兵力では手も足もでませんYO!」
「大丈夫よ。数の不利はコトネが解決するし、ヴァンパイアならアタシが余裕で勝てるわ」
心配する銀色にアタシは絶対の自信をもって返す。レベル10の【聖魔法】とそれを会得できるだけのレベルがあればレッサーヴァンパイア兵士はどうにかなる。ヴァンパイアも今のアタシならどうとでもなる。
「OH! トーカとコトネがStrongになったのは知ってます! But! カミラ軍はGirlsのことを警戒してMASU! Foremostに狙われるのはDoubtless!」
相変わらずよくわからないけど、アタシ達を警戒して狙ってきていることを心配しているのは何となく察した。というかアタシはそんなことは大前提で作戦を練っているのだ。
「レベル10のジョブアビリティがあるから大丈夫よ。不意打ちで囲まれない限りは負けないわ」
言って頷くアタシ。銀色吸血鬼は困った顔でアタシを見ていた。アタシのいう事が信じられないのだろう。もう、頭悪いんだから。
「不安に思うのは当然だと思います。事、兵力差を個人が覆すという事などとても信じられないでしょう」
そんな銀色にコトネが言葉を挟んだ。
「トーカは確かに説明不足な所があり、ワガママでだらしなくて他人の気持ちに気づかず不摂生でいい加減な部分があり信頼がないのもは事実です。私も伯爵の立場なら難色を示したでしょう。
言動と行動も大胆不敵に見えますが、実は経験と実績に基づいています。逆に言えば不慣れな事には臆病で、手を引っ張ってあげないといけない怖がりなんですが」
「ねえ、さりげなく酷いこと言ってない?」
「これでもまだ我慢しているんですけど」
「……まあ、その。本当かどうかはその人が信じればいいわ」
何か言いたげなコトネから目を逸らすアタシ。臆病じゃないもん。怖がりじゃないもん。コトネに手を引かれないと何もできないとかそんなことないもん。
「トーカは『これなら勝てる』と言いました。なら私はその言葉を信じます。これまで一緒に旅してきて、最も信用できる言葉です。この言葉があったから、私は多くの苦難を乗り越えてこれました。
悪魔の策略からチャルストーンを、ヤーシャを、アウタナを、ムジークを救ったトーカの事を信じてください。魔王<ケイオス>を倒し、皇帝<フルムーン>に負けながらもなお挑むトーカを信じてください」
心の底からアタシの事を信じているのが伝わるコトネの言葉。その姿にちょっとウルっと来た。あ、アタシ本気で愛されてるんだなって心が震えた。空気読んで、コトネを抱きしめたいっていう気持ちを必死に抑える。そんなことしたらそのまま泣きそうだし。
「
LOVE! It’s Love! Excellent! GirlsたちのLoveにSo Impressed! これに応えなければGentlemenの名が泣きMASU! ブラムストーカーは、愛に生きるのDESU!」
そして銀色吸血鬼もそれに感動したのか、感極まって叫ぶ。
そうしてクルシュ攻略が決まり、塔を守る兵士から50人ほどのレッサーヴァンパイア兵士とザマス吸血鬼を伴ってやってきたのだ。そうしたら目の前に拷問グッツが並んでいたのである。
「トーカ、どうします?」
「問題ないわ。アタシとコトネで特攻。拷問具の近くには近づかないでね。変なトラップが発動するから」
問題ない、とばかりに頷くアタシ。数をそろえれば勝てるなんていうのは成長したレアジョブには通じない。問題なく勝てるわ。
「あんなザコ、無双してあげるわ。そしてざーこざこって罵ってやるから」
「そういう油断をしてると足元をすくわれますよ」
「コトネはアタシが自信満々に『勝てる』って言ったら信頼してくれるんじゃなかったの?」
「そうですけど他人を罵っていいわけではありません」
「えー。勝って相手を罵るのは勝者の特権じゃない」
アタシはそんなことを言いながらブラッドドレスとブラッドウィップを手に進む。コトネも聖なる書を手にアタシに続いた。
見せてあげようじゃないの。強くなった聖女と、そして遊び人の強さを。
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