18:メスガキはまたジョブレベルを上げる

 そんなこんなでレベルアップもレアアイテム狩りも完了。


「もう教えることはないザマス……!」


 ザマス吸血鬼を散々倒し続け、アタシのレベルはザマス吸血鬼と同じ89。コトネも88まで上がったわ。カルパチアに来た時は50とかだったから、まさに怒涛のレベルアップ。


「やっぱり効率いいわ1分リポップ吸血鬼。経験値の泉ね」

「トーカ」

「分かってるわよ、感謝してるわ」


 コトネにせっつかれて、ザマス吸血鬼に礼を言うアタシ。


 この三日間、ザマス吸血鬼倒してダンジョンで本を叩いて銀色吸血鬼の作った料理を食べて寝るというサイクルだった。そのおかげで十分なパワーアップになったわ。


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★アイテム

アイテム名:聖なる書

属性:本

装備条件:魔法使い系ジョブ

魔力:+60 聖属性魔法の効果が+10%される


解説:聖の魔導書。より深く魔法を扱えるようになる


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 コトネの装備で手に入れたのは、聖属性攻撃の効果が増す書物。回復も攻撃もバフもデバフも増すので、攻防支援が一気にパワーアップしたわ。だけどコトネのパワーアップの目玉は【聖魔法】のレベル10アビリティだ。


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★アビリティ

【クルセイド】:光の騎士よ、我が命に従い聖なる行軍を。直線に聖属性攻撃を行う。MP200消費


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 騎士を召喚して突撃させる……という設定の直線魔法攻撃。MP消費が馬鹿じゃないのってぐらいに多いけど、それに見合うスペックがあるのも事実。


 そして【聖魔法】が最高レベルに達したので、『【聖魔法】を極めし者』のトロフィーもゲットしたわ。


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★トロフィー

【聖魔法】を極めし者:アビリティを限界まで習得した証。対象アビリティの効果が+20%される。


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 そのアビリティによる効果が増すトロフィー。ダメージや回復量、バステ付与の成功率などにも効果が及ぶのでとにかく強いわ。


 当然コトネだけじゃない。アタシだって【着る】と【笑う】をレベル10まで覚えるわ。『【着る】を極めし者』と『【笑う】を極めし者』も手に入れて、一気に強くなるのよ。


 ……うん、その。まだジョブレベルを上げていないわ。これから上げる予定。


 何故かって? それは今回のレベルアップ計画をコトネに説明したときにさかのぼる。


「てなわけで一気にジョブレベル10にするわ。そこまでパワーアップして、向こうの目論見をぶっ壊すわよ」


 相手吸血鬼の予想を超えたパワーアップ。それが今回の作戦だ。聖女のコトネを警戒し、ヴァンパイア装備のアタシも無視はできない。相応の対策を練ってくるのは間違いない。その度肝を抜くためのレベルアップだ。


 そうしたら、コトネはこう言ったのだ。


「じゃあ二人同時にジョブレベルを10にしましょう」

「……うん? そうよね。アタシそう言ったけど?」

「はい。一緒にですよ」


 その意味を深く考えなかったのがアタシの運の尽き。お互いに十分なジョブポイントがたまった時に、コトネは寝間着姿でベッドの上でこう言ったのだ。


「では約束通り、ジョブレベルをあげましょうね」


 今。此処で。この姿で。同時に。ジョブレベルを上げて感覚に溺れましょう。


 そんなコトネの意図を察するアタシ。完全包囲網完成済みとばかりに笑みを浮かべ、アタシも寝間着姿でベットの上にいる状態でようやく事実に気づいたのであった。


「まままままま待って! ねえ待って! その……わかってると思うけど、ジョブレベルアップってあの感覚で、しかもレベルが上がるたびに激しくなってるのよ!」

「はい。シュトレイン様も言ってましたよね。そういう感覚で脳と体を麻痺させて、その間に変化させる。高レベルの変化ならその感覚がより深く強くなるのは道理です」

「なんでそこで冷静になって判断できるの!? その、つまり、この前よりも……ってことだからね!」


 数日前、【笑う門には福】を習得した時のことを思い出す。あの時の深い感覚。コトネにいじめられてたこともあるけど、本当に頭の中がわけわかんない事になった。


「知っていますよ。私だって【主、憐れめよ】を習得した時もそうでしたし。あの時以上というのは想像もできません」


 そう言えばコトネもレベル8アビリティは習得していた。いや、なら……!


「怖く、ないの? レベル8の時だってバラバラになりそうだったのに。それ以上とかだったら……」

「怖いですけど、トーカと一緒なら大丈夫だって思います。いいえ、トーカと一緒に初めてを経験したいんです」

「その言い方はいろいろだめだからね!」


 コトネのセリフにストップをかけるアタシ。倫理的にダメっていうのもあるけど、アタシの精神的もダメ。本気でクラっときた。言葉だけなのに心臓がバクバク激しくなって、頬が火照ってるのが分かる。初めて、とか……!


「ジョブレベルの事ですよ、トーカ」

「分かってるけど……!」

「いつかトーカとそういう事をしたいという願望はありますけど」

「……っ!」


 思いっきり不意を突かれて、赤面どころか顔が爆発するアタシ。コトネの言葉と笑顔を見ながら『そういう事』を想像してしまう……キスをしながらコトネの手がアタシのいろんなところを触って、指がアタシの恥ずかしい所に触れて、そして――


「どういうことを想像したんです、トーカ?」

「コトネの馬鹿ぁ! 意地悪禁止!」


 アタシの心を見透かしたかのように言うコトネ。アタシは恥ずかしさに負けて、ベッドの中に潜り込む。もー、もー、もー!


「好きな子には意地悪したくなるんです」


 言いながらベッドに入って後ろから抱き着いてくるコトネ。優しく、だけど強くアタシを抱きしめる。


「トーカだけですからね。こういう事するの」

「……コトネの意地悪」


 せめてもの抵抗とばかりにそう呟いて、アタシは体を半回転させる。寝間着姿のまま向き合って、アタシもコトネを抱きしめた。薄い布越しにコトネの肌を感じる。コトネの柔らかさを感じる。コトネの体温を感じる。


「好きです、トーカ」

「コトネ、大好き」


 お互いの名前を呼んで存在を感じながら、唇を重ねた。より深くより強く感じるように力を込めていく。


 熱にうなされたまま、アタシはステータスウィンドウを開いてジョブ項目を開ける。指先で触れる必要はない。意識するだけで操作できる。


「ふぁ……ちょっとコトネ。変な指の動きぃ、しない、でぇ……」

「トーカが私を見てないから嫉妬しました」

「拗ねないでよ……ジョブレベル上げるんでしょ」

「分かっていますけど、それとこれとは別です」


 頬を膨らませるコトネに、ちょっと優越感を感じた。今までこっち方面では散々やり込められてたので、ちょっと仕返しできた気分だ。


「じゃあ、行くよ」

「同時に、ですからね」

「前もこんなことしたわよね」

「ええ。でも今回はあの時よりもずっと近い距離です。心も体も」

「……うん。コトネの全部、凄く近くで感じてる……」

「私もです。トーカ」


 二人でぎゅーっと抱きしめ合いながら、


「怖い……溶け、そう……! こんなの、無理ぃ……!」

「ぁ、だ、大丈夫、ですよ、トーカ。私がいますから。ずっと、いますから、ぁ!」

「一緒、ずっと、一緒だからぁ……!」

「はい! トーカぁ、トーカぁ、ああ、あああああ!」


 アタシ達はジョブレベルを上げて、そのまま優しい夢の中に包まれた。

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