17:メスガキはダンジョンで本を狩る
『血の蔵書置き場』――
カルパチアにあるダンジョンの一つである。前にも言ったかも知れないけど、銀色吸血鬼ことブラムストーカーがいるダンジョンね。寂れた図書館風のダンジョンで、ギミックはないけどどでかい本が折り重なったりしている階層もあって地形的にぐねぐねしているわ。
このダンジョンの特徴はいくつかあるけど、最たるはブラムストーカーとその護衛以外に吸血鬼がいない事である。ボスエリアまでの敵は二種類で、本型の魔物である『ブラッドブック』と、魚みたいな巨大な虫の『ノウクイシミ』。ブラッドブックは魔法系遠距離攻撃。ノウクイシミは近距離物理。比率は半々ぐらい。
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名前:ブラッドブック
種族:器物
Lv:71
HP:128
解説:血塗られた本。怨念が宿り、人を襲う魔の本。
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名前:ノウクイシミ
種族:昆虫
Lv:68
HP:98
解説:本を食らう巨大な虫。知識を求め、人を食うようになった。
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「落ちろー! 落とせー!」
そんなダンジョンでアタシとコトネはレア狩りをしていた。相手はブラッドブック。落す確率は【笑う門には福】を使って10%。弱点属性とかはないので、【笑裏蔵刀】で初撃クリティカルから一気に叩き落す戦法だ。
「うーあー。また外れたー!」
ブラッドブックが落したアイテムを手にして、アタシは落胆する。ダンジョンに籠って半日ほど。目的のモノはまだ手に入らない。
「本自体は落ちるんだけど、お前じゃなーい!」
アタシは得たドロップアイテムを手に叫ぶ。レアドロップ自体はそれなりにしているけど、種類が違うのだ。
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★アイテム
アイテム名:火なる書
属性:本
装備条件:魔法使い系ジョブ
魔力:+60 炎属性魔法の効果が+10%される
解説:火の魔導書。より深く魔法を扱えるようになる
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この『血の蔵書置き場』で落ちるレアアイテム。本シリーズだ。特定属性のダメージを増幅させる効果を持つわ。素の魔法攻撃に応じた増幅なので、魔法攻撃特化馬鹿が持てばより強くなる。
欲しいのはこの聖属性バージョン。コトネがこれを持てば武器性能だけではなく、聖魔法の効果も上がる。回復効果にも追加されるので、攻防共に上昇するのだ。
元々手に入れる予定だったけどいろいろあって……主に銀色吸血鬼の濃いキャラに全てを持っていかれて忘れてたのだが、いい機会なので取りに来たのである。
「出ませんねぇ。水と土に続いて三つ目ですね」
「ああ、もう! 全種類コンプするまで出ないとか、そんなの嫌だからね!」
「ゆっくりやりましょう。今のところ、急ぎの知らせは来ていませんし」
急ぎの知らせ。コトネが言うには他吸血鬼勢力が動く可能性があるので、何かあったらチャットで知らせてほしいと銀色吸血鬼に言ったのだ。その為、フレンド名に『ブラムストーカー』がある。
……まさか魔物、しかもボスキャラをフレンドにすることになるとは思いもしなかったけど。
『Woooooooooooooow! MeとFriendになりたいなんでDeeeeeeeeeep Emooooootion! Hug&KissしてPartyNow! Yea Ya!』
そして最初のチャット会話がこれである。目の前に居るのに投げキッスして抱きしめようと手を広げる銀色。悪意がないのはわかるんだけど、まあ色々反応に困る。
「ハグとキスは遠慮しますね。トーカが嫉妬しますから」
「何でアタシを引き合いに出すのよ!」
「嫉妬しないんですか? 私が誰かに抱きしめられてキスされて、嫉妬してくれないんですか?」
「う、うううううううう……! 嫉妬! するけど!」
そのあと『よかったー』と嬉しそうに笑うコトネを見て、からかわれているんだか振り回されてるんだかと自問自答するアタシ。なので仕返ししようと逆にこっちから攻めてみるシミュレーションをしてみる。
『コトネが嫉妬するからアタシに近づかないでね』
『はい、ものすごく嫉妬しますよ。トーカは私のモノですから』
……………………っ! やめ! そんなこと言われたら、真っ赤になって轟沈する自信がある……! 終了!
そんなやり取りと妄想をした後にダンジョンに着たアタシ達。何事もなければそれでよし。何か不穏な動きがあればすぐ塔に戻る。そんな感じでレア狩りをしているわけである。
「あげる相手もいないし。オークションにかけるしかないわね、これ」
三つほどドロップした書物の事を思いながら口を開くアタシ。魔法使い系ジョブの知り合いがいればあげてもいいけど、あいにくともらってうれしそうな相手はいない。強いて言えばアイドルさんは火水風土の四属性で攻撃するけど、武器は魔眼系を使うから要らないし。
「念のためにアイドルさんに聞いてみるか。要らないと思うけど」
「皆さん色々大変そうですからね。役立つのならサポートしてあげたいです」
アホ皇帝が暴れて、アイドルさんを始めとして皆がいろいろ戦ってるのは聞いている。心配かけないようにアタシとコトネにはたいしたことないふうに装うけど、情報なんてその気になればいろんな方向から得れる。コトネの言うように大変なのは伝わってくるわ。
「あの承認欲求丸出しの目立ちたがり屋アイドルさんの事だから、好きで魔物の最前線でライブとかやってるに違いないわ。気にしたら負け負け」
だけど敢えてアタシは楽観視して言う。実際、アイドルさんのアビリティ構成はそんな感じだ。前に出ての魔法カウンター。魔物の最前線に出ること前提の回避壁ステータス。
「最悪なのは自信過剰にアホ皇帝に挑んでレベルドレイン喰らう事ね。目立ちたいからって勝手に突っ込んでいくとかされたら迷惑なんだから、さっさとアホ皇帝倒さないと」
「ふふ。トーカも心配なんですね」
「だから心配なんかしてないわよ。純然たる事実。すぐに追いついてついでに聖杯手に入れてアホ皇帝をぶん殴って倒してやるわ」
くだらないことを言うコトネに、肩をすくめていうアタシ。心配なんかしてないもん。あいつ等ならどうにかなるわ。つまんない突撃してレベルドレインされてアホ皇帝が強化されなきゃいいかも、ってぐらいよ。
「そしてアホ皇帝を倒して足蹴にして罵った後で、あいつ等に『やだぁ。こんなザコも倒せないとか間抜けー。アタシみたいな子供に出し抜かれるとか情けなくないのかなぁ? ねえ、情けないと思わないのぉ?』って上から目線で延々と尋ねて悔しそうな顔させてやるんだから。
反論してもネチネチ言い返してやるわ。『言い訳のジョブは高いのねぇ。でもアタシが先に皇帝を倒したのはじ・じ・つ。負け犬は吠えるしかできないって知ってたぁ? きゃぁ、知らなかったのね? 鏡見たら?』とか言って笑ってやるんだから」
「トーカ」
「いいじゃないこれぐらい。敗者を罵るのは勝者の権利よ」
勝った人間のささやかな報酬を主張するアタシ。コトネは額に手を当てて、ため息とともにアタシに語り掛ける。
「つまりトーカが私の言葉で恥ずかしくて赤面している時に、追い打ちをかけてもいいんですね?
照れて恥ずかしがってるトーカが可愛いとか、もっと照れさせていいですかって言ったり、ぎゅーて抱きしめたりしてもいいんですね?」
「…………ごめんなさい」
「わかればいいです。早く耐えられるようになってくださいね」
「無理ぃ……頑張るけど無理すぎるぅ……」
そんなことされたら、死ぬ。いろいろ耐えられない。謝るアタシに、呆れたように言葉を重ねるコトネ。そんなことされたら、されるって想像しただけで、いろいろダメになるぅ……! ダンジョン内で蹲るアタシであった。
――なお、目的の『聖なる書』は入手できました。
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