16:メスガキは効率よくレベルを上げる
塔での戦いで、アタシとコトネはレベル70まで上がっていた。正確に言えば、アタシが71でコトネが70。ヴァンパイアを合計で4体倒したのは大きかったわね。
ヴァンパイアのモンスターレベルは89。<フルムーンケイオス>の経験値は今のレベルより上の相手を倒すと経験点にプラス補正がかかる。レベルが近いと補正はなくなり、自分より低い相手だとマイナス補正がかかるわ。
つまり効率よくレベルを上げるには、高レベルのモンスターを退治するのが一番なのだ。
当然それは簡単な事ではない。高レベルのモンスターはステータスもさることながら、レベルに見合ったアビリティを持っている。同じレベルの魔物でもHPが異なったりアビリティの違いで攻撃力や弱点が違う頃などザラである。
だが簡単ではないだけであって、不可能ではない。モンスターデータを確認し、攻撃特性を理解し、そして弱点を調べる。その情報を下地にして戦いからを考え、何度も検証する。机上の空論は無意味かもしれないが、机で論じれる情報すらないのは言葉どおり論外だ。
なにが言いたいかというと、しっかり対策が取れるなら高レベルモンスターの相手もできるという事だ。そしてレベルを上げるために継続してそのモンスターを狩れるなら短期間でレベルアップも可能なのである。
「――というわけで死ねー!」
「ぎゃああああああ! やられたザマス!」
アタシの【コウモリ乱舞】がザマス吸血鬼を塵にする。そしてレベルアップのファンファーレが鳴った。
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
「……その、これ本当にいいんですか……?」
コトネはものすごく申し訳なさそうな顔で、チリになったザマス吸血鬼のいた場所に頭を下げた。良心が痛むのか、胸の所をぎゅと押さえている。
「なによ? まだ文句あるの?」
「文句というか……その、レーゼンさんがあまりに哀れというか……」
「あー、もう。これが一番簡単かつ効率がいいのよ」
アタシは腰に手を当ててコトネに告げる。
「今のアタシ達に必要なのは、他のヴァンパイアが想像する以上に力をつけること。アタシもコトネも相手に強さは知られたんだから、その上を行かないと勝ち目はないわ」
「……そうですね」
「つまり、アタシ達は一気にレベルアップする必要があるのよ。それも急激に。短時間で。具体的には90近くまで。コトネの【聖魔法】を10にして、アタシも【笑う】か【着る】の両方を10にするまで上げないといけないのよ」
「トーカの言いたいことは十分に理解しているんですけど……」
コトネもレベルアップが必要なことは理解してくれている。ただ――
「だからってレーゼンさんを倒して経験値を得るというのは、人としてどうなんですか!?」
その方法が気に入らないという。なんでよ。
アタシが提案したのはザマス吸血鬼を倒して経験値を得るというやり方だ。さっきも言ったとおり、高レベルのモンスターを狩れば経験点はたくさんもらえる。そしてヴァンパイアの攻略方法はすでに立証済み。
そしてザマス吸血鬼の話では、吸血鬼は土地に縛られる。殺してもその土地から復活するし、その土地が近ければ復活までの時間も早い。ザマス吸血鬼はこの土地由来の吸血鬼なので、1分で復活する。
つまり、ザマス吸血鬼は1分でリポップする、倒し方が確立している高レベルモンスター。それを狩れば効率よく経験点が手に入るのよ。
名付けて『ヴァンパイアサンドバックレベルアップ法』。実際、かなりのペースでレベルが上がってるわ。
「おらー!」
「ザマスー!」
「はいコトネ、聖魔法使って!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ギャアアアアア! 光が……満ちる……ザマス……」
「レーゼンさああああああん!」
こうしてアタシとコトネはレベルを上げ続けていた。1分おきに大量の経験点が手に入るというのに、コトネは気に入らないという。違うわね、ちょっと罪悪感を感じている。
「レーゼンさんは元々敵でしたが、今は味方になってるんですよ。ブラムストーカーさんにも忠誠を誓ってますし、人柄もよくいい人じゃないですか」
「敵だったころはアタシを散々バカにしたけどね」
「それは立場もありますし、むしろ侮蔑されることを前提とした作戦だったじゃないですか。
その……効率とかそういう以前に……人として仲間を倒して経験点を得るのはさすがに……!」
人として。要するに仲間をサンドバッグにするのは如何なものかという事である。
「だって吸血鬼、経験点美味しんだもん。聖属性に弱いし、アタシは【精吸血】効かないし。
それにザマス吸血鬼も問題ないって言ったんだしいいじゃない」
「そうザマス! コトネ様は気にしなくていいザマス!」
アタシが言うと同時に、ザマス吸血鬼が復活した。HPMPともに全快している。モンスターだからなのかアンデッドだからなのか、ケロッとしたものだ。
「もっとも私も簡単にはやられてやらないザマスよ。お二人が死んだらおしまいだからって、手加減するつもりはないザマスからね」
「とーぜんよ。そうじゃなきゃ面白くないもんね。負けるつもりは毛頭ないけど」
そう。このアイデアを出した時、ザマス吸血鬼は快諾したのだ。『前』の記憶は残っているのか、アタシにボコられたことも覚えているらしい。
「【精吸血】は効かないザマスから、【コウモリ乱舞】で一気に決めるザマス!」
「そんなのガチガチに防御固めれば耐えられるわ。また完封してあげる」
「アンデッドだからなのかモンスターだからなのか……死生観が違いすぎます……」
脱力して半笑いになるコトネ。銀色吸血鬼も止めなかったし、反対しているのはコトネだけなのだ。
「何度も聞きますけど、レーゼンさんはいいんですか……? その、私達のために何度も殺されて……痛いとか、苦しいとか、そういうことはあるんじゃないんですか……?」
「優しいザマスね、コトネ様は。ワガママでナマイキで未熟でクソガキなトーカ様とは大違いザマス。なぜこのような悪魔的子供にあなたのような身も心も聖女であるコトネ様が一緒に居るのか、理解に苦しむザマス」
思いっきりディスてくるわねザマス吸血鬼。殺す。いや経験点にするつもりだからどうせ殺すんだけど。そしてすぐに復活するんだけど。
「ですが問題ないザマス。私達は何度も復活できる身。前にやられた記憶と痛みが少し残って蓄積してますが、すぐに忘れるザマス。そう、忘れ、忘れ……おお、何ザマスか? ちょっと胸が痛くて頭がガンガン響くザマス。死、殺され、痛い? あれ、何ザマスかこの、幻覚? 斬られてないのに、痛い、ザマス? 魔法で浄化されて分解され、私が消えていく。いやいや私はここに、ここにいる? ここにいる私は本当に私ザマスか?」
「れーぜんさああああああん!? トーカ、これ結構危ない傾向と思いますけど!」
目のハイライトが消えて頭に手を当てるザマス吸血鬼。その様子を見てヤバいと思ったコトネが叫ぶ。アタシはうんと頷いて、解決案を出した。
「困ったときは再起動かければどうにかなるわ!」
「フリーズしたスマホみたいに言わないでください! 休憩! そう、休憩しましょう! このまま続けると危険な気が!」
「そんな余裕はないわ! 死ねザマス吸血鬼!」
「返り討ちにしてやるザァァァァァマス!」
「あああああ、もう。知りませんからね!」
こうしてレベルアップは再開される。終わった後、コトネが本当に申し訳なさそうにザマス吸血鬼に頭を下げていたけど、それ以外は問題なし。
「レベルアップ完了! 次はコトネの装備よ!」
「人類の成長は犠牲の上で成り立つんですね……」
何かを悟ったコトネを引っ張り、アタシは更なるパワーアップの為にダンジョンに潜るのであった。
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