15:メスガキは肉を食う
肉が焼ける匂いが広がり、それだけで食欲がそそられる。
肉を適当な大きさに切って、串にさして焼く。味付け用の塩をつけるだけの簡素な料理。アタシでもできそうなそんな調理。たったそれだけなのに、
「……っ、もぐっ、んぐっ」
「は、ふ……ぁ。美味しいです」
アタシとコトネは夢中になってその肉を食べていた。ヤバヤバ。何がヤバいかって暴力的に美味しい。蛮族チックな料理だからこそ、蛮族的に一撃が大きい。口に入れた瞬間、もう負けた。何言ってんのか自分でもわからないけど、とにかくそんな感じで美味しい。
「Fire! 新鮮なMeatをStrongにFlameし、肉汁をConfine! 余熱で中まで温度を通し、BestTimingでEaaaaaaaaat!
Temperatureを見定め、Timeを誤らない! Easyにみえて、DeepなExperienceが必要なのDEEEEEEEEEESU!」
銀色吸血鬼がそんなことを叫びながら肉を焼いている。わけわかんないけど、わけがわからないなりの技術が必要なんだなぁ、という事はわかった。なお【料理】スキルを使っていない素の料理である。
「美味いザマス! ブラムストーカー伯爵の料理は最高ザマス!」
そしてアタシの隣でバクバクお肉を食べているのはザマス吸血鬼だ。さも当然のようにアタシ達の味方になっているのだが、それには理由があった。
「この領土を奪われカミラ伯爵の軍門に下っていたザマスが、あそこではまともな料理はなかったザマス!」
何でも吸血鬼は土地に縛られており、その土地の支配者に従うというモノらしい。アタシと戦った時はカミラの土地だったから敵対したけど、今は銀色の土地だからアタシの味方……という事らしい。
「前にもシュトレイン様が言っていましたが、モンスターは土地に紐づいていて、そこから生まれるみたいですね。吸血鬼が土地に縛られるのはその関係かも知れません」
「あー。モンスターがなんで尽きないって話か。……確かに一度倒されて
ゲーム的に考えれば、確かにあるあるだ。そういうものなんだろうと納得することにした。
「塩! 料理に塩があるザマス! もうそれだけで……感涙ザマス!」
「興味で聞くけど、どんな料理だったの?」
「…………肉をぐちゃぐちゃに潰して、ドロドロのまま流し込むザマス」
「うわぁ」
なんとなくどんな食事だったのかを聞いたら、想像以上に雑だった。しかも土地の支配者の命令には逆らえないので、嫌でもそうするしかなかったとか。
「ってことは、さっき倒したレッサーヴァンパイアとかなんとか三兄弟とかもどこかにいるの?」
「レーンロート卿はこの土地由来のヴァンパイアではないのでいないザマス。由来の土地で復活しているザマス」
「あー。そういう感じか」
倒したモンスターが復活するのは、復活ポイントでという事である。ザマス吸血鬼がこうであるのなら、確かにそうなるよなぁと納得するアタシ。
「という事は、あちらの兵力はそれほど減っていないという事ですか?」
「そうザマス。とはいえ復活するまでの時間はやられた場所と土地との距離に比例するザマス。私はすぐ近くだったので復活は早かったザマスが」
「具体的にどれだけとか分かります?」
「レーンロート卿はマルギド出身と言っていたザマスから……三日後ぐらいだと思うザマス」
「…………」
ザマス吸血鬼とやり取りした後に黙り込むコトネ。少し難しい顔だ。
「先ほどトーカは私と一緒にヴァンパイア3体を倒しましたが、戦えば毎回勝てると思いますか?」
「え、いきなり何よ?」
「大事な質問です」
親権に問いかけるコトネに、アタシは頭を使って考える。毎回勝てるかと言われればそれは――
「無理。コトネに【精吸血】を集中砲火されれば、回復リソースがなくなって負けるわ」
アタシとコトネの弱点はいくつかあるけど、ヴァンパイアに負けるパターンがあるとすればそれだ。【主、憐れめよ】での回復と吸血鬼弱体化。対吸血鬼戦術を使うコトネのMPが枯渇すればおしまいね。
「トーカが吸血鬼ドレスを着て相手吸血鬼から血を吸ってもダメですか?」
「ダメダメ。ブラッドドレスによる【精吸血】も限界があるわ。一対一ならともかく、3体相手とかなら押し敗けるわ。さっきだってアイテムをドカドカ使って凌いだんだし」
「なるほど……。前提条件が大違いですね。戦争が100年続くわけです」
言って人差し指を額に当てるコトネ。なんかいろいろ気付いたみたい。アタシはお肉をパクパクしながら、コトネのセリフを待った。きっとコトネは、アタシにわかりやすいように説明を考えてくれているはずだ。
「前に戦争の終結条件を言いましたよね。相手にこれ以上相手が戦争を続けるのを損と思わせて、条約によって締結させると」
「言ってたわね。相手を適当に痛めつけて、弱ったところで交渉を仕掛けるとか。なんか酷いチンピラの脅しみたいだなぁ、って思ったけど」
「戦争は何時の時代も悪辣で無法なものです。人間同士の戦争は泥沼になり、お互い引くに引けなくなる前に講和条約を結んで終わらせるのが賢いやり方なんです。
まあ、そうならないケースもありますが」
言ってから渋い顔をするコトネ。あ、これはきっとあれね。『そうならないケース』を思い出して、その馬鹿さ加減に頭痛めている感じね。
「ですがそれは人間の場合です」
「うん? どういうこと?」
「戦争における損は色々ありますが、戦争をする兵士数の比率は大きいです。前も言いましたが、よほどのことがない限りは全滅するまで戦争をすることはありません。引くに引けない理由がない限りは、落し所を見つけて降伏します。
戦争が終わっても国家は存続し、生きていかなくてはいけないのですから」
「シミュレーションゲームだと相手を全滅させてようやく国盗りだけどね」
「ゲームの話は分かりませんけど……現実はそうだと思ってください」
話の腰を折らないでくださいよ、とムスッとするコトネ。ちょっとかわいいって思うアタシ。
「話を戻しますけど、吸血鬼はそれがありません。彼らは倒されても死なず、時間が経てば復活します」
アタシの沈黙を了承と受け取ったのか話を続けるコトネ。
「つまりどれだけ攻めても、土地を奪い返さない限りは相手の兵力は減らないんです。時間が経てば復活して相手は損を取り返せるんです」
「つまり……えーと、攻めるなら土地取るぐらいじゃないと意味がないってこと?」
「はい。ですが攻めるに際してヴァンパイアとの戦闘は避けられないでしょう。
そして私たちは警戒されています。戦場に出れば狙われますし、先ほどトーカの言っていたことをしてくる可能性は十分にあります」
つまり、今度は相手がアタシ達をメタってくるってことか。遊び人だから無能でクズジョブだって侮らず、コトネと同レベルで考えて攻めてくる。
そして半端な攻めだと意味がない。相手の街とか城とかを奪わなって土地を取り返さないと復活されてやり直し。要はクリア条件がベリーハードってことね。そして失敗すればリトライできない。
「ふん、つまりやるなら徹底的にやれってことでしょ」
「出来そうですか?」
「問題ないわよ。要はアタシとコトネが相手の予想を超えて強くなって、そんでもって一気にがーっと攻めればいいのよ」
言ってアタシは肉を口にして飲み込んだ。
やだホント、美味しすぎ。
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