14:メスガキは余韻を味わう
「撤退! 撤退!」
「レーゼン卿とレーンロート卿たちが敗北した!」
「クルシュまで撤退でゴワス! 殿は余が務めるでゴワス!」
アタシがなんとか三兄弟を倒してから、戦況は激変した。
塔にいるレッサーヴァンパイア兵士達が逃げの方向に走り、塔からの攻撃が弱まったのを見て銀色吸血鬼の軍勢が一気に塔に攻め入る。あれだけ苦戦していたのに、ヴァンパイアが倒れた瞬間に一気にひっくり返ったのだ。
「最後のヴァンパイアが撤退命令を出したんでしょうね。ここで全滅するよりはいいという判断です」
「戦争ってお互いが死ぬまでやる者じゃないんだ」
「流石にそれは物騒すぎます。戦争は外交の一種で、損益が大きくなりそうなら諦めるのが普通です。……もっとも、様々な思惑が重なり合ってそう簡単にいかないのが現実なのですが」
コトネの説明に、アタシはそんなものなのねと納得する。そう言えば損害3割がどうとか言ってたわね。
「とりあえずアタシ達の勝ちってことよね。余裕余裕」
「相手が私達の事を知らなかったことが強いですね。逆に言えば、今後は私達も注目されます。同じ方法は使えないでしょう」
「ふん、アタシを舐めてた罰よ」
コトネの言葉に腕を組んで胸を張るアタシ。格下だと思ってたアタシに振り回されて困惑する姿は思い出しても笑いが込み上げてくる。どっちが格下でざーこでむのーなのかをわからせてあげたわ。
とはいえ、同じ手が通じないのは事実だ。ぶっちゃけ、こんなのは全リソース突っ込んだ奇襲だ。結婚アビリティ。【吸血】無効。コトネの聖魔法。そしてアタシのブラッド装備。この4つを相手が知らなかったから成立したに過ぎない。
だけど手の内は全部バレた。相手が馬鹿じゃない限りは、アタシやコトネは見た瞬間に警戒するだろう。見た瞬間に攻撃か、こっちが気付かなかったら不意打ちか。コトネに集中砲火されれば瓦解するし、アタシは聖属性攻撃を持たないからパンチに欠ける。その辺りを考えて作戦を立ててくるだろう。
「ま、どうにかなるわよ。面倒くさいならやめて逃げてもいいし。アホ皇帝もレベルを上げて物理で殴ればどうにかなるわ」
「考えすぎなのもネガティブになるので問題ですが、楽観過ぎて思考を放棄するのも問題です」
「考えても考えなくてもダメとか、どうしろっていうのよ」
「何事もほどほどです。過ぎたるは猶及ばざるが如しですよ」
「一点特化型のステータスの方が分かりやすくて楽じゃない?」
「よくわかりませんけど、得意分野だけを突き詰めてそれが役立つ状況に身を置けれるだけのサポートがあれば有用だと思います」
途中からいろいろ変わる話題。ついさっきまで戦っていたこともあり、会話の内容はとりとめがないと言うかどうでもいい内容だ。気を抜いて、ついでに力も抜いて思うままに喋り続ける。
「ドマンタワーを占拠したぞー!」
「やったー!」
「ブラムストーカー軍の勝利だー!」
塔の制圧が終わったのか、塔の頂上に旗が立つ。湧き上がる歓声と喜びの声。元からいたレッサーヴァンパイア兵士は全員撤退したのか、戦いの気配はない。勝利の勝どきが周囲を震わせる。
「まあ、死にかけた国がどうにか一領地取り換えしただけなんだけどね」
「そうなんですが、喜びに水を差すのはやめましょう。彼らもわかっていることですし。それに大変なのはここからですよ」
「大変って何が?」
「ブラムストーカー伯爵がこの塔を占拠したことと、私達の事は他の吸血鬼にも知れ渡るでしょう。そして対策を考えます。
急ぎ攻められないように塔を整える必要があります。兵站、戦力増強、そして侵攻対策。これらを短時間で進めないといけません」
「Yes! 戦争はWinしてFinishではありまSEN! むしろEND of Warの方がBusy! Oh! Scheduleが大変DESU! Fuuuuuuuuuuuuu!」
「おわぁ!?」
突然背後から聞こえた声に驚くアタシ。驚いたのは突然だったこともあるけど、甲高くわけわかんない喋り方だったからだ。そしてこんな濃い喋りをするのは、一人しかいない。
銀色吸血鬼。ブラムストーカーだ。奇妙なポーズを取って体をくねらせ、多分喜んでいるんだろう奇声を上げていた。
「アンタ、いつの間にここに来たのよ! お城にいないといけないんじゃなかったの!?」
コイツは戦争に参加していない。曰く、街を護る結界を張らないと攻められるとかなんとか。なんで街にいるはずなんだけど。コトネみたいに結婚アビリティとか使わない限りは一瞬でここに来るのは無理なんだけど。
じゃあニセモノ……はない。こんな濃い喋り方するヤツがいてたまるか。真似てるにしても、ウザさまでそっくりすぎる。銀色本人だとしか思えない。
「そのQuestionは人間には当然DESUネ! 吸血鬼は土地に縛られMAAAAASU! MeのようなLord級になればTerritoryの外に出ることは叶いませんが、Territory内ならどこにでもMovement!
トーカとコトネがTowerを取り返してくれたおかげで、Meの行動可能な範囲が広まったのDESU!」
「えーと……。つまりアタシ達が塔を取り返したから一瞬でここまで来れたってこと?」
「みたいですね。吸血鬼は家人に誘われないと家に入れないという伝承もありますし、そういう制限なのでしょう」
HAHAHAと笑う銀色を見ながらアタシは目を細めて言う。コトネもデタラメさは感じているが、同時に納得していた。吸血鬼なんでもアリね。
「お二人には感謝しています。貴方達の協力がなければこの勝利はなかったでしょう。このブラムストーカー。領民を代表してトーカ様とコトネ様に感謝の言葉を。勲功には報いるつもりですので、何なりとほしい物をおっしゃってください」
そしていきなりおふざけなしで頭をあげて礼をする。このギャップもどうにかしてほしい。いや、いつもあの口調っていうのも困るけど。
「別にいいわよ。むしろブラッドドレスがもらえて感謝してるぐらいだし」
「そうですね。それを報酬の前借りという事にしてください。信賞必罰は大事ですし」
「しんしょうひつばつ?」
「功績に褒美を与え、失態には罰則を与えることです。軍が組織として維持されるには、こうしたルールが大事なんです」
よくわからないけど、ムチとアメみたいなもの? 組織とか大変よね。シミュレーションゲームでプレゼント送って忠誠度上げるとかそんな感じ?
「了解しまSITA! では凱旋のPaaaaaaaaaarrrrrrrrty! 今日は腕によりをかけてCooking! GoodEat! And! GoodSleep! それこそがGoodHealthなBody&MindのBase!
Soldierの皆様もParticipation! Let’s Enjoooooooooooooy!」
そして火山が爆発するみたいに急にハジけだす銀色吸血鬼。言ってることの9割はわからないけど、クッキングとかパーティとか言ってるから、ご飯を作ってくれるんだろうなぁという事はわかる。
……むぅ、確かにお腹は空いたし、この銀色の作るご飯は美味しいのよね。余計な事を考えるのは後にして、今はごはんごはん。
「確認だけど、レッサーヴァンパイアの食事で本当に血が滴ってるステーキとか言うオチはやめてよね。アタシ、グロ苦手なんだから」
「安心するザマス! ブラムストーカー伯爵の料理は天下一品! 当然ヒト用と吸血鬼用に分ける配慮もしてくれるザマスよ!」
あー。なら安心した…………ざます?
「はい!?」
「何ザマスか?」
振り返ったアタシが見たのは、先ほど倒したザマス吸血鬼が傷一つなく立っている姿だった。
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