9章 メスガキとヴァンパイアウォー

1:メスガキは下位吸血鬼を狩る

 カルパチア。吸血鬼系モンスターが多数集うエリアだ。


 山脈に囲まれた移動しにくいエリアで、吸血鬼モンスターが多数存在する。レベルの低い『レッサーヴァンパイア』がそのと殆どを占め、吸血鬼を指す『ヴァンパイア』がちょい強ザコとして現れる。


 町と城は完全に吸血鬼に支配されてダンジョンとなっていて、『ドラキュラ』『ブラムストーカー』『ノスフェラトゥ』『カミラ』の四大ボスが支配する感じだ。設定ではそれぞれのボスが勢力扱いをしており、カルパチアはまさに群雄割拠。吸血鬼同士が争う場所となっているとか。


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名前:レッサーヴァンパイア

種族:アンデッド

Lv:69

HP:189


解説:吸血鬼に血を吸われて契約した元人間。わずかだが吸血鬼の力を行使できる。


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 相手をしているのはレッサーヴァンパイア。カルパチアではザコ扱い。レッサーが外れたヴァンパイアは85とかなりの強さ。ボスに至っては100を超えるので、アルビオン並みに難所である。


 とはいえ、<フルムーンケイオス>のデータ的に吸血鬼はアンデッド属性。アンデッド属性と言えば、回復でダメージを受けるし聖属性が弱点。なので聖女であるコトネの相性はばっちりである。コトネとパーティを組んでいるアタシもそれにあやかり経験点を得られるわけで、はっきり言っていい経験点スポットなのだ。


主、憐れめよキリエ・エレイソン


 祈りと同時に地面が光り、範囲内にいる者に聖なる加護が与えられる。アタシのような良い子(異論は認めない)には防御力アップとHP回復。アンデッドには防御力ダウンとHPダメージ。それがコトネが【聖魔法】レベル8で覚えた【主、憐れめよ】だ。


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★アビリティ

【主、憐れめよ】:祈りは天に届き、そして奇跡を与えたもう。範囲内にいるすべてのキャラの物理防御と魔法防御を上昇。HPを回復する。アンデッド系には効果は反転する。MP55消費


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「オオオオオオ……!」


 回復効果を受けて悲鳴を上げるレッサーヴァンパイア。防御力も下がっているので、大ダメージだ。それで倒れなくても、アタシがゴールドナイフをもって斬りかかれば終わりだ。ゴールドナイフと金糸服で大幅強化された攻撃力と防御力があればトドメには十分よ。


<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


「うんうん。順調にレベルアップしてるわね」

「安らかにお眠りください」


 レベルアップに喜ぶアタシ。塵に帰ったレッサーヴァンパイアに祈るコトネ。毎度のこととはいえ、同情しすぎなのよね。


「もう。倒すたびに祈ってたらキリがないわよ」

「そうなんですが、この方々にも已むに已まれぬ事情があったと思うと……」

「まあいいわ。好きにしなさい」


 アタシは言って手を振った。毎度のことだ。


「変わりましたね、トーカ。以前ならもう少し言葉を続けたのに」

「……別に意味なんてないわ。コトネのそういう所にずっと付き合ってきたんだし」


 うん、意味なんてない。なんていうか、コトネのワガママだから聞いてあげたくなったとかそういうことはない。むしろ遠慮せず自分の意見をぶつけてくれるのが少しうれしいとかそう思うようになってきた。


「はい。ずっと付き合ってくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」

「う、うん……」


 付き合う。自分で言ったんだけど、その意味を改めて考える。一緒に旅をするとかそういう意味あいでもあるけど、その、アタシとコトネは結婚式とキスまでした仲なわけで。こ、こ、こ、恋人的な付き合い? そういうのを意識してしまうわけで。


 ずっと二人で旅しているわけで、当然一緒に寝たりしているわけで。いつもの距離で会話してるけど、ふとしたことで意識してしまってぐだぐだになったり、ちょっとしたふれあいでアタシが顔を赤らめたり。そんな日々だ。


 そしてコトネは何ら変わらないのである。変わらずアタシに接してくれるけど、アタシは無理。ドキドキしてクラクラしていろいろ弾けそう。二人きりが気まずいとかそういうことはないんだけど、その……心と体が幸せすぎて溶けそうになる。


「だあああ! 落ちつけアタシ! 今はレベルアップ中!」

「はい。そうしましょう」


 必殺のゲーム思考に移行して気分をリフレッシュ。コトネもアタシがいろいろいっぱいいっぱいなのを察してか、乗ってくれる。なんというか、何処か余裕さえ感じられる。曰く、


『なんでコトネはドキドキしてるのに平気なのよ?』

『この熱と脈動は好きな人と一緒に居られる幸せの証ですから。

 好きですよ、トーカ』


 などとほほ笑んで言われた後に、強烈なカウンターを食らって轟沈したアタシでした。アタシだって好きだけど、好きだから駄目なのよぉ!


 ともあれ今はレベルアップに勤しむべし。相性がよくともレッサーヴァンパイアは高レベルのアンデッド。ヴァンパイアのアビリティも使えるのだ。


「大丈夫とは思うけど、近づかれないように気を付けてね。吸血鬼に血を吸われたら<吸血>でHPが奪われるから」


 ヴァンパイア三大アビリティの一つ、【吸血】だ。近接攻撃だけどHP吸収効果を持つ。レッサーヴァンパイアはHPを吸収するだけだが、ヴァンパイアは【精吸血】になりHPだけではなくMPも同時に吸収される。多くのプレイヤーを泣かせたわ。


 でもアタシには効かない。黒翡翠コウモリを持っていれば、その手のバステ効果は全部無効化するのだ。これを持っていることもカルパチアを選んだ理由でもある。


「コウモリになったり霧になったりはしないんですか?」

「それをしてくるのはレッサーじゃないヴァンパイアの方ね。【コウモリ乱舞】で多段ダメージ与えてきたり、【霧化】で攻撃を回避したり」


【吸血】【コウモリ乱舞】【霧化】。これがヴァンパイア三大アビリティ。殴りながら回復して、10連ダメージ与えて、攻撃を一回だけ確定で回避する状態になったり。素のスペックも高いヴァンパイアなので、これらのアビリティをどう攻略するかがカルパチアでレベルアップする課題になる。


「カルパチアの四大ボスはその上でレアジョブのスキルを使ってくるわ。元人間の強い人だったとかそう言う設定みたい」

「ドラキュラやノスフェラトゥも貴族階級ですからね。人間としての教育を受けていてもおかしくありません」

「そうなの? ま、今回はボスと戦うつもりはないわ。さすがにレベルも準備も足りないしね」


 カルパチアでのレベルアップは85辺りまでだ。ヴァンパイアを狩れるようになれば、問題ない。欲しいレアアイテムもないし、レベルをあげればすぐに移動だ。先ずはレッサーを狩り続けて65まで上げなくては。


 次はどこで狩ろうかと考えていると、


「OHHHHHHHHHHHHH! こんなところにPrettyなGirlsがいますNEEEEEE!」


 アタシの耳にそんな声が聞こえてくる。ギラギラとした銀色のタキシード。銀色のステッキ。銀色のサングラス。セリフも含めて派手じゃない所を探すのが難しいわ。


「Excuse meeeeeeeeeee! GirlsはVeryVeryCuuuuuuute! 少しお時間頂けますKA?」

「すんごい嫌なんだけど……あんた誰?」

「Sooooooooorry! Meともあろうものが、自己紹介をForgettttt!」 


 無視するという選択を忘れるぐらいに叫ぶ銀色男。アタシの問いに、額に手を当てて叫ぶ。いちいちうるさい。


「MeのNameはブラムストーカーDESU! カルパチアのCount伯爵をやってMASU!

 カルパチアにはSightseeingしに来たのですか? でもここはVeryVeryにDangerous! Meのお城に来るがBest!」


 大仰にポーズを決めて喋る銀男。衣装もあって凄くウザい。変な人について行きたくないんだけど、この変態は一つだけ気になることを言ったのだ。


 ブラムストーカー。


 さっきも言ったカルパチア4大ボスの一人である。コレが?


「………………はぁ?」


 アタシは銀色吸血鬼を前に、何とも言えない声しか出せなかった。

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