29:メスガキはボス狩りの話をする

 グランチャコには4体のボスキャラがいる。


 圧倒的な速度と鋭い爪で蹂躙するジャガーバーサーカー。


 森の中で格闘の修行を続けるカンフーゴリラ。


 ドラゴン系に匹敵するステータスを持つホワイトライオン。


 人特攻を持つヒトクイアリクイ。


 ただの動物と侮ることなかれ。ボスキャラである以上、持っているアビリティも基本スペックも段違い。舐めた構成で挑めばあっさり返り討ちだ。


「この4体のうち、どれか好きなのを選んで。それをヨーイドン! で探し始めて先に倒したほうが勝ち」

「何だと……!? どれもグランチャコの猛獣ではないか!」

「強いけど倒せない相手じゃないわ。アンタには神の加護があるんでしょ? 神に選ばれた王が倒せないわけないじゃない」


 言い淀むじじいに、アタシはあらかじめ用意しておいた台詞を告げる。こういう言い方をすればじじいは逃げられない。事実、ビビりながらも反論の言葉を飲み込んだようだ。追撃とばかりに言葉を重ねる。


「アタシは王としてこのどれかを倒すわ。アタシも神の声を聴いたんだもん。しゅと……いん?」

「シュトレイン、です」

「そうそう、それ」


 悩むアタシに助言するコトネ。かみちゃまが『あたちの名前ぐらい覚えなちゃい』とばかりに半眼で睨んでいる。わ、忘れてたんじゃないのよ。とっさに出てこなかっただけで。


「グランチャコの王として、危険な猛獣の排除を為すのは当然の責務じゃない。

 それともなに? アンタは王になりたいだけでみんなが危険な目に合うのはどうでもいいって感じなの? 王っていう立場になりたいだけだったの?」

「そのような無責任なことはせぬ! ウィは帝国の民を守るために戦うるもりじゃ!」

「ならいいじゃない。むしろ渡りに船よ。アタシとの勝負に勝って、王としての責任も果たせる。一石二鳥じゃない」


 負けてやるつもりは毛頭ないけど、挑発の為にそう言うアタシ。王の責任とかはどうでもいいんだけど、じじいに言い訳させないためのエサみたいなものだ。こういう言い方をすれば、じじいは首を横に振れない。


「ぐ、ぬぅ……!」


 追い込まれたじじいはこぶしを握って唸る。じじいもボスキャラの強さは聞いてはいるのだろう。その被害もおそらくは。しかし王の責務がどうとかアタシとの勝負云々とかがあって引くに引けなくなっている。


「それとも諦める? 素直に敗北を認め、王としての器がない事を認めるなら勝負は無しにしてあげるわ。王の安全のために民を見捨てて逃げるのが帝国の判断だっていうのならね」


 ついでにもういっちょ追撃。やーん、悔しそうな顔をしているじじいの顔がさらに悔しそうになってる。ひっさしぶりに背筋がぞくぞくしてきた。もうちょっと弄ってやりたいけど、ヤケクソになって殴りかかられると台無しなんでここまでかな。


「ブレナン帝国を愚弄するか! 如何に王とはいえそれは無礼に値するぞ!」

「ええ、愚弄よ。愚かだって弄ってるの。臆病風に吹かれて腰が引けている帝王様ぁ。そんな国に誰がついて行くのかしらねぇ? きゃー、裸の王様ってこういうのを言うのかなぁ? 指摘してくれる人がいないから裸のまま歩いていくんだぁ。ぶ・ざ・ま」

「トーカ、言いすぎです」


 おおっと、じじいの叫びに反応して思わず素で弄っちゃった。今のアタシは王様。格好も威厳も大事。こっそりせき払いして、話を戻す。


「勝敗をつける方法が他にあるなら聞くわ。それこそもう一度殴り合ってもいいけど、王同士の勝負にはふさわしくないわ。拳と拳で殴り合って正しさを決めるとか、野蛮人のすることよ」


 アタシとしてはそっちの方が分かりやすいんだけどね。立場とか偉さとかメンドクサイ。じじいに勝ったら速攻放棄で決定ね。


「繰り返すけど、倒せない相手じゃないわ」


 これ自体は事実だ。じじいのレベルが70以上だというのなら、テイムする動物を変えればいける。テイマーの長所は相手によって動物を変え、様々な戦術を行えることだ。準備期間さえあればどうにかなる。


「神の加護、培った地力、そして知識。その三つを民のために示すのが王の務めよ。ボスを狩るのはその証とて相応しいわ」


 当然だけど、アタシはそんなこと欠片も思ってない。あくまでレベルアップの一環で倒しに行くだけだ。かみちゃまの加護とか鼻で笑う。……まあ、牢屋でぐずってたアタシに声をかけてくれたのは助かったけど。


「……条件がいくつかある」


 たっぷり30秒ほど沈黙したのち、じじいは口を開いた。


「この勝負に勝てば、聖女との関係は破棄。アナンシの国民は解放すると誓えるか」

「そこまで言うなら、そちらが負けたら帝国とか言うのはやめるのよね? コトネに求愛するのも当然よ」

「そ、それは……」


 あ、コイツ人に条件押し付けて自分は負けたら知らんふりするつもりだったな。或いは負けた時の事を考えてなかったか?


「誓おう。ウィに負けた貴様がウィに勝てない猛獣に勝てるはずもないしな」


 思いっきり無礼なことを言うじじい。焦んなきゃアンタなんかいくらでも勝てるってーの!


「狩る猛獣はこちらが選んでいいのか?」

「ええ。勝負方法を持ち掛けたのはアタシだから、その中の選択はそっちでいいわ」

「両者が同時に猛獣を伏した時はどう裁定する?」

「より相手を傷つけたほうが勝ち。判断がつかないのなら、アタシの負けでいいわ。勝負方法を持ち掛けたんだしそれぐらいは譲ってあげる」


 質問されるのは、おおよそ想定通りの事だった。


「いつ開始する予定だ?」

「そっちの都合も聞くけど、一週間後にスタートって考えてるわ」

「王同士と言ったが、ウィのアテンダントは一心同体。これらを使うが構わぬか?」

「当然。キャラのスペックを最大限に生かすのは当たり前よ」

「スぺ……?」


 おおっと、カタカナ文字はおじいちゃんには難しかったかな? 説明してやる義理はないんでスルー。これ以上質問がないみたいだし、話をまとめちゃおうか。


「じゃあ聞きましょうか。この勝負、受けるのかしら?」

「……ふん、このブレナン帝国の王は逃げも隠れもせぬわ」


 よく言う。散々ごねてたくせに。


「じゃあ正々堂々と行きましょう。卑怯なことは無しで」

「ウィが卑劣な真似をするとでも思ってるのか? 正々堂々と神の教えのままに生きるのがウィだというのに」


 よし、言質とった。アタシは笑みを浮かべて言葉を続ける。


「そう。ならこの囚人服を解除して、アタシから奪った装備を返して」

「……なんだと?」

「この服を着ているせいでアタシは全力を出せないわ。相手が不利な状況だと分かったうえで戦いに挑むのがブレナン帝国の正々堂々なのかしら?」

「ぐぬぅ……! 罪人の分際で!」

「そうよね。相手が不利ならそこをつく。それが戦いの基本だもの。勝利だけを求めるなら当然のこと。弱点を突く卑劣卑怯さが神の教えだから」


 まあ、アタシなら返さない。バステで弱らせたり、属性を使って有利に立つのが遊び人の基本戦術だし。


「黙れェ! 神を愚弄するとは怒髪衝天! いいだろう、その楔を解除し、そして汚らわしい装備もくれてやる!

 ただし、勝負が終わればその罪科を背負ってもらうぞ! 敗北の烙印を刻み、二度と日の目を見れぬ場所に投獄してやる!」


 言うと同時にアタシの囚人服が消える。装備欄的には何もないけど、デフォルトのシャツとホットパンツだけの姿になる。


「じゃあ何を狩るか、ここで決めてもらいましょうか」

「…………今、か?」

「今よ」

「で、では……ヒトクイアリクイを」


 恐る恐る、じじいは狩る動物を宣言する。ヒトクイアリクイ。正直、予想通りだ。人間特攻を持ってるから結構なダメージを食うけど、テイムした動物なら特攻は喰らわないもんね。


「オッケー。それじゃあ一週間後に狩りを始めましょ」


 さあ、ここから忙しくなるわね。脳内でスケジュールを組みながら、アタシは笑みを浮かべた。

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