28:メスガキは会談する
国の名前を決めてから三日後。じじいとの会談? 要するに話し合いが行われることになった。
この三日間は草原のインフラ整備にバタバタしていた。インフラと言っても電気とかガスがあるわけじゃない。主に水関係と動物対策だ。水源は離れたところに川があるけど、汲みに行くのが少し大変。そして危険な動物が多いのでその防衛策。
役立ったのは大工関係だ。水運搬用に頑丈な台車を作り、柵と見張り台、そしてクロスボウを作る。テイマーたちもそれぞれの動物を使ってパトロールし、周辺の安全を確保する。
「アタシほとんど何もしてないけどいいの? 報告聞いてるだけなんだけど」
「皆さん優秀ですからね。お任せしてもいいと思いますよ」
言ってもアタシとコトネはほとんど何もしていない。コトネは怪我人を癒したりしているけど、アタシに至っては本当にいるだけだ。積極的に何かをするつもりはないけど、ここまで何もしなくていいというのもすこし悪い気がする。
「まあ、行っても何もできないんだけど」
今のアタシは囚人服のせいでアビリティがまるで使えない。戦闘行為もできないので、本当に何もできないのだ。
アビリティが使えなくても知識で役に立とうと、レベルアップマラソンしようと今働いている人たちを誘ったら、
「ムリムリムリムリ! あんなキツイのもうやりたくない!」
「お願いですからもう少しマイルドな奴でお願いします!」
「うへへへ。途切れることのないチーターラッシュ。狙い、撃つ。狙い、撃つ。……うへへへへ」
などと全力で拒否された。最後のアーチャーはトラウマを刺激されたのかぶつぶつ言いだした。なによぅ、反復運動は基本じゃない。失敗したら死ぬかもしれないぐらいの環境の方が技術は身に入るんだし。
話を戻すと、そんな三日間を過ごした後にじじいがやってきたのだ。貴賓用のテントで待っているとか。アタシとコトネはそちらに向かう。
ちょっと高級そうな布のテント。そこに入ると、禿げ頭のじじいが座って待っていた。アタシの姿を見るや否や立ち上がり、
「アナンシ建国、おめでとうございます。ブレナン帝国の王として、新たな国の興りを祝いましょう」
などと言って頭を下げた。うわ、この前と全然態度違うじゃない。ニセモノじゃないかと疑うぐらいだ。
「頭をあげてください、ブレナン王。共にこのグランチャコに生きる者同士、上下はありません。
可能であれば過去の禍根を水に流し、未来を歩むために尽力したいのですが」
コトネがそんなことを言う。これでじじいが頷いて良かった良かった、となれば問題はない。昔の無礼を飲み込んで、これからも頑張りましょう。そうなればいいのだが――
「いいえ、それはできませぬ! その者は国を犯す猛毒! 抹消すべき愚王! 未熟なる知識と非常識な法を
ウィは王として、それを見過ごすわけにはいきませぬ!」
じじいは頭をあげ、アタシを指さし叫ぶ。言っていることはアレだが、要するに『お前だけは許さん!』という事だ。うん、この流れは予想できた。
「礼節をわきまえてください。仮にも一国の帝王が、建国したばかりとはいえ一国の王に対する態度としては、あまりに無礼。貴国は我が国に弓引くつもりですか?」
「それもまたやむなし。人類史に泥を残さぬために決断を下すのも、王の務めですから。今は納得できずとも、後世においては英断と判断されるでしょう」
コトネとじじいがなんかよくわかんないことを言ってるけど、要するに『ワレェ、ケンカ売ってんのか?』『そうじゃゴラァ! 正義はウィにあるんだよ!』という事である。
このあたりの流れはコトネとも話していたし、概ね想像通りだ。この後、許さないなら決闘だ、という流れになる。多分じじいが怒り狂ってケチつけるので、こっちはしょうがないとケンカを買う形だ。
どうするかは決着をつけるかは話し合い次第だ。ガチ殴り合いでもいいし、もう少し平和的に別の方法でケリをつけてもいい。そこは名目上の王であるアタシとじじい同士で決めれば文句を言われることはない。案はすでにあるし、それに持ち込むための口上も(主にコトネが)考えてある。
「我が王トーカは三柱の一つ、シュトレイン様の加護を受けたモノ。聖女たる私が慕い、生涯共に歩くと誓った存在。すなわち神の威光に逆らうことになります。
その侮辱だけでも神罰に値します」
あれ? そんなこと言う予定だったっけ? ちょっと怒気のはいったコトネの言葉に心の中で首をひねるアタシ。
「なるほど、ブレナン帝国の王としてアナンシの王に不服があるのはいいでしょう。
ですが貴国は歴史の浅いアナンシを恐れ、我が王トーカを恐れているのではないですか? 理解できない可能性を受け入れられず、未来を受け入れられず。新しい可能性を潰すことこそ、グランチャコの汚点。ひいては人類史への冒涜ではないですか?」
あ、怒ってる。コトネ怒ってる。アタシ知ってる。これ、三日間ぐらいだらけた日々をした時ぐらいに怒ってる。
「せ、聖女様? ウィはそのようなことは……」
「そのようなことは? これまでの態度はそう受けられても仕方のない事です。よもやそこまで考えが至らずに発言したという事ですか?
貴国の態度と言動は明らかにアナンシを下に見ています。歴史の浅さは認めましょう。王の若さも認めましょう。ですが集いし民はこのグランチャコの風を長く受けた者達。彼らは王に導かれ、才能を開花させました。帝王、貴方はその芽吹きをつみ取ろうとしているのです」
アナンシをバカにすることは、キャンプの人をバカにすることになる。アタシに育てられて、アタシの作戦に乗って国を興すために頑張っている人をバカにしている。
「ブレナン帝国、貴国は見過ごせぬと言いました。ですがそれはこちらの言葉です。
アナンシは貴国に宣戦布告します。未来を閉ざす帝王の政策、アナンシに対するる数々の無礼、そして何より我が王にして伴侶たるトーカに対する侮蔑。それを許すつもりはありません!」
そしてコトネははっきりと宣言する。ケンカを買うんじゃない。こっちからケンカを売ってやる。集まった人、そしてアタシをバカにするヤツは許せない。その気持ちをはっきり伝える。
……ちょっと意外だった。コトネがここまで怒るなんて。皆と、そしてアタシのためにここまで怒ってくれるなんて。
「いや、それは……」
「非礼を詫びる機会はすでに失われています。いいえ、帝王自らが放棄しています。
ガドフリー・ブレナン三世。返事は如何に!」
「……ぐぬぅ、良かろう。その宣戦布告、しかと受け取った」
コトネに押される形で謝罪も許されなかったじじい。まさかここまで言われるとは思いもしなかったのだろう。翻弄されるままにうなずくじじい。うわぁ、ちょっとスカッと来た。
横目でコトネを見ると、あっちもアタシに目線を向けているのが分かった。その表情はアタシと同じだ。あの子もあの子なりにじじいに思う所があったのだろう。
「そんじゃ、勝負の方法を決めましょうか。どっちかが死ぬまで殺し合う?」
「いや、それは……! グランチャコの草原を血に染めるのは互いにとって損益しかないのでは!?」
そしてアタシの出番とばかりに口を開いて、勝負方法を話し合う。全面戦争の言葉にビビるじじい。うん、言っておいてなんだけどアタシもそれはヤダ。戦争シミュレーションとか真っ平御免よ。
「じゃあ狩りで勝負しましょ。ボス狩りよ」
「ぼ、ぼす?」
「王同士の狩り勝負。グランチャコに名高い猛獣を選び、先にそれを狩った方が勝ち。
これなら流れる血も少ないし、グランチャコに住む人たちの為にもなる。悪くない勝負でしょ?」
困惑するじじいを見ながら、アタシは指を立てて提案した。
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