21:メスガキはじじいと神の事を考える

 天秤神ギルガス。<フルムーンケイオス>における神の一人だ。


 とはいってもゲームには出ていない設定だけの存在で、神殿のマークに天秤があるよなー、とかそんな程度である。西の方にギルガス神殿跡とか言う結構デカいダンジョンがあるけど、それ以外でゲームで語られることはない。


「じちゅはムジークの街の騒動も――」


 かみちゃまはムジークで起きたバグチート野郎の話をする。騒動を起こしたのはチート野郎だが、それを呼び出したのはジプシーさん……なんだけど、彼女をそそのかしたのがそのギルガスっぽいという事だ。


「証拠はありまちぇん。あくまでそう考えると、腑に落ちるというだけでちゅ」


 そう締めくくるかみちゃま。信じたくないが、そう思うしかない。そんな声色だ。


 かみちゃまからすれば、ギルガスは同じ神で兄弟姉妹みたいなものだ。人類を共に守ろうと誓った同胞で、同じ目的を持った仲間だ。


「なんだってそんな事するのよ、その神様は」

「おそらくでちが、その場にいたアンジェラをムジークもろとも葬り去ろうとしたんでち。アンジェラがいなくなれば、人類の滅亡は遠のく判断したんだと思いまちゅ」

「思いっきりムジークの人死ぬじゃん。亡くなるじゃん」

「それでも1000年単位で見ればアンジェラ不在の方がいいと判断したんだと思いまちゅ」


 アタシの問いに答えるかみちゃま。そのギルガスが犯人だという証拠はない。だけどギルガスならそう考える。かみちゃまはそんな確信があるらしい。


「でも神って聖地じゃないと声が届かないとか、そういうのがあったんじゃないの? 実はグランチャコがそうだったとか?」

「グランチャコはただの大地で聖地ではありまちぇん。でちゅが聖地以外にも神が介入する手段はありまちゅ。

 長く神を信じて祈りをささげ、そしてその神に認められる行為を続けた存在。レベルこそ足りまちぇんが、神格者ディバインに至れる魂の持ち主になら言葉だけを届けることは可能でち」


 神格者ディバイン。その名前にアタシはイヤな顔をする。魔王と戦う際にそれになって、聖女ちゃんがいなくなったこと。そうするしかなかったとはいえ、いい思い出はない。


「要するにずっと神様にこびへつらって言う事を聞いてたいい子ちゃんだけにしか聞こえないってこと? そんな人間にしか話しかけないとか、神って結構コミュ障なのね」

「しょーがないでちよ。あたち達はリーンたちと違って実体を持たないんでちから。天空城からこの世界に影響を与えるのは難しんでちゅ。あたちもコトネちゃんを媒体に顕現しているだけの精神体で……あー、要するにコトネちゃんがいないと消えちゃう幽霊みたいなもんでち」


 精神体とかよくわからないことを言いだしたかみちゃまが、アタシの顔を見て言葉を言いなおす。なんか馬鹿にされたのかも?


「ギルガス様の神格者ディバインに至れる魂というのはどういうものでしょうか?」

「人間を誰も殺していないことでち。それでいて10年以上祈りを捧げていることが条件でち」

「それでしたら他の天秤神司祭も満たしそうなのですが……そうではないのですね」


 会話に割り込む聖女ちゃん。最後の言葉に首を縦に振るかみちゃま。偉いくなれば間接的に人の命を奪うこともあるのだろう。或いは誰かに殺せと命令したか? 正直、それはどうでもいい。


「でもそれならジプシーさんは違うんじゃない? 神に祈るタイプじゃなさそうなんだけど」

「アムちゃんは確かに神に祈りまちぇんが、神に関する物語を多く語ってまちゅ。それがカウントされた……というよりはそれをギルガスが祈りにカウントしたんでちょう。強引な解釈なので、届けられる声は多くはないでちょうが」

「なんか強引すぎない?」

「それをいい出ちぇば、あたちがここにいるのも強引の極みでちゅよ。昔コトネちゃんに宿ったことがある事実を軸にしているんでちから。

 ともあれ、ガドフリーちゃんの考えを変えたのはギルガスの可能性がありまちゅ」


 脱線してた話を戻すかみちゃま。


「仮にそれが真実だとして……ギルガス様はなぜこのような事を?」

「ギルガスは可能な限り人類を存続させようとしていまちゅ。その為にガドフリーちゃんにリーダー的な存在となってもらうように教育しているんだと思いまちゅ。

 広いこの地に人類のコミューンができれば、それだけ人類の存続率は増えまちゅから」


 グランチャコは広いが、人間が住む場所は少ない。でっかい街があればレベルアップも楽だよなぁ、とはアタシも思っていた。そういう意味では誰かが王様になって国作れ、という意見自体はアリとは思う。


「王としての考えや礼節などの立ち振る舞いなども、おそらくギルガスから教えてもらったものだと思いまちゅ。

 その……産めや増やせ的な思想もでちね。国の人口を増やさないといけないのは確かでちから」


 最後はアタシの顔を見てから言うかみちゃま。アタシに遠慮したのだろう。……まあその、アタシもちょっとじじいの言葉にモダモダしたのは事実だ。思いっきりじじいに心乱されたのも確かだ。だけど、


「はん。神様の言うとおりになってるだけの頭固いじじいってことじゃない。今は多様性が大事とか言われてるんだから、他の意見も取り入れないと意味がないのよ」

「数分前のトーカちゃんに聞かせてあげたい意見でちゅね」

「うるさい。あの時はどうにかしてたのよ」

「あい。好きな人を横から取られそうになって――もがもが」


 何か言いそうなかみちゃまの口を封じるアタシ。幽霊みたいなもの、と言いつつ触れるかみちゃま。口を塞げば一応声を止められるようだ。


「あの、もしかしてそちらにもシュトレイン様がいるんですか?」

「あい。トーカちゃんの所に分霊を飛ばしてまちゅ。ちょっと活を入れてきまちた」

「活? あの、トーカさん落ち込んでたんですか?」

「寝てたのよ! アタシが落ち込むとかないんだからね!」


 でも向こうにいるかみちゃまの口は塞ぐことはできない。変なこと言うなよ、かみちゃまあああああああ!


「とにかく! じじいがギルなんとかのいう事を聞いているとして!」


 強引に話を戻すアタシ。言ってから、その後が続かないことに気づいた。えーと、神様とかの言葉を聞いていたとして?


「……聞いているとして、どーするのよ。これから」


 閉じ込められている事実には変わりはない。アタシはアビリティは使えないし、聖女ちゃんは軟禁されている。アタシに着せられた囚人服は脱げそうにない。何かしらのイベントがないと脱げないもんね、これ。或いはバステ無効化のアビリティが必要だ。


 チャットとかアイテムとかは使えるんだけど、それだけでじじいをコテンパンにすることはできない。はっきり言って、手詰まりだ。


「……っていうか、移動系アイテムって使えるの? どっかの牢屋みたいにアイテム禁止の呪いとかはなさそうなんだけど。ザル過ぎない?」

「さっきも言いましたが、ガドフリーさんは<フルムーンケイオス>の理を知りません。移動も恐竜を使っているようですし、その手のアイテムの存在を知らないのかもしれません」

「マジか……本当だったら笑うわ」


<収容魔法>内のアイテムはそのまま残っている。奪われたのは戦っていた時装備していたゴールドナイフと黒蝶セレナーデだけ。マジでザル過ぎる。


「単にガドフリーさんを倒すだけでは、これまでと同じです」


 チャット画面から聖女ちゃんの声が聞こえる。


 確かに言うとおりだ。あのじじいは何度倒しても負けを認めない。いっそじじい本体を殴ったほうがいいぐらいだ。それでも傷を癒して同じことの繰り返しになる。はっきり言ってウザい。


「あの人を諦めさせるには、神に認められた王として戦い敗北を認めさせるしかありません。自分より下の人間から受けた屈辱は認めませんが、同格の存在との勝負なら受け入れるでしょう」

「あー。そんな感じよね。人のことを子供だの口が悪いだの散々罵って、負けを認めなかったし」


 かみちゃまの視線が『トーカちゃんが口の悪い子供なのは事実でちけど』と言いたげに見てる。知らない。知らーない。


 ともあれ、その理屈は納得できる。じじいに負けを認めさせるのは、そう言う偉い人間でないとダメってことだ。でもそんなのどこにいるのよ?


「というわけでトーカさん。私と結婚して王になりましょう」


 ………………………………………………………………はい?


 はいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?

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