20:メスガキはじじいの事を考察する

「ガドフリーさんは<フルムーンケイオス>というゲームの仕様……正確にはこの世界の理を理解していない可能性があります」


 聖女ちゃんが言ったことを、考えてみる。


 ゲームの仕様を知らない。要するにスキルとかアビリティとかそういうのを全く知らないという事だ。ステータスなんてわからないから、当然ジョブレベルも上がらない。ジョブが上がらないからアビリティも覚えない。


 レベルは何かしたらしたら成長する。モンスターを倒したり、生産したり、使役系は使役した者が倒した場合も経験点が入る。とにかく、レベルアップは自動だ。だからスキルをあげずにレベルだけをあげることはできる。


 テイマーが使役できる数は本人のレベルに依存する。高レベルテイマーならそれだけの数を使役できる。もちろんアビリティがあれば効率よくなるが、なかったとしても不可能

「……いや待って。あのじじい、【動物教育】覚えてたじゃない」

「はい。ですがそれを覚えたのは二回目に襲い掛かってきたときです。一度目はパピ 子さんは火を吐かなかったじゃないですか」


 うん。アタシもそれは疑問に思ってた。常時発動系なのになんで一回目はなかったのか。初回戦闘と二回目戦闘の間にレベルアップしたのかな、って考えてたけど。


「沢山レベルを上げてスキルポイントが沢山余ってて、沢山のスキルポイントを一気に使った……?」

「沢山言い過ぎでち」


 アタシのセリフにツッコミ入れるかみちゃま。うるさいわね、それだけないわよ、って話。


「でもゲームの仕様を知らないっていうのは、普通にあることなんじゃない? アンタだってよくわかってないんだし」

「私もトーカさんほど深い知識はありません。それは他の人も同じでしょう。ですが程度があります。

 これまで出会った人達はそれなりにスキルやアビリティを駆使していました。トーカさんが教えたキャンプの人達もそうです。それは私みたいな別世界から来た人や、元からこの世界に住んでいた人たちも同じです」


 アタシの疑問に答える聖女ちゃん。確かにアタシより<フルムーンケイオス>を知っている人はいなかったけど、スキルとかその辺は大抵の人が知っていた。ただ効率のいいレベルアップ方法を知らないだけで。


 以前、ステータスに関して聖女ちゃんが考察したことがある。ステータスを持っていると、この世界に染まってしまうとかそんな感じだっけ? とにかくステータスがあることに違和感を感じなくなるという奴だ。それと同時にその使い方も理解してしまう。


「そもそも……ビーストテイマーでしたよね? それをアテンダントと言っていたころもそうです。他人のジョブは知りませんが、自分自身のジョブは何となくですが私も理解できます。少なくとも名称を間違えることはありません」

「要するに、それを受け入れないぐらいに頭が固いってこと? でもだから何だっていうのよ」


 じじいが<フルムーンケイオス>を全く知らないという事は納得できた。でもだから何だという話だ。いきなりアビリティを覚えたことも納得できたけど、それ以上のことはない。


「そうですね。ガドフリーさんはかなり頑固な人です。自分の意見を絶対視して、他人の意見を受け入れることはないでしょう。他の誰かがスキルやアビリティのことを説明しても聞き入れるとは思いません」


 それはイヤになるぐらいにわかった。っていうか人の話聞けよって何度思ったことか。それをいまさら言われても――


「そんな頑固な人が、


 …………ん? どういうこと?


「それまでスキルやステータスの事を知らなかったガドフリーさんが、いきなりアビリティを覚えてやってきたんです。おそらく自分で気づいたという事はないでしょう。誰かが教えないと分からない事ですが、誰が教えても受け入れないでしょう」

「……でも、実際にアビリティを覚えてやってきた」

「はい。ガドフリーさんは誰かに説明されて、スキルを所得したのでしょう」

「待ってよ。あんな頑固じじいに誰が言って聞かせられるのよ?」


 あのじじいが頭が固い事は今更だ。アタシがどんだけ正しいことを言っても聞き入れようとはしなかったし、伴侶(認めないけど!)とか言ってた聖女ちゃんの意見も聞かずに軟禁している。キャンプの人の意見も聞かないだろう。


「その……シュトレイン様の前で言うのは憚れるのですが」


 近くにいるんだろうかみちゃまの事を意識しながら、聖女ちゃんは言う。


「……神、だと思います」

「かみ」


 まさかヘアーやペーパー的な『かみ』ではないだろう。神。アタシの感覚的にはかみちゃまのイメージが強い。この世界に来る前でも、クリスマスとか正月しか縁がない……縁と言っても実際に会ったこともない何かだ。


「ガドフリーさんは神への信仰を欠かさない人です。神の存在を信じ、その血を引き継いでいるからこそ自分は王である。そう言う価値観です」


 確かにそんな妄言を言っていた気がする。戯言すぎて記憶にすらなかったけど。


「そう言った人は普通の人……ガドフリーさんも普通の人なのでしょうが、ともあれ他人と自分は違うと明確に壁を作っています。神の血を継いでいない人間の意見は、神の末裔である自分とは異なると」

「要するに見下してるんでしょうが。『高貴なるウィに意見するな!』『ウィ、神! 最高!』って感じで」

「まあその……。そこまで単純ではないかもしれませんが、その傾向があるのは確かです」


 ステータスのチャット画面から、少し疲れた聖女ちゃんの声が聞こえてきた。


「なによ? 何か間違ってる?」

「いいえ。トーカさんはもう少し表現を穏やかにする努力をしたほうがいいと思うだけです。そうすればもう少し愛嬌があると皆に言われて……いいえ、その話はここまでにしましょう。

 ともあれそんな考えを持つ人ですので、アドバイスを受け入れる存在があるとすれば神しかないのです」

「神って……まあかみちゃまがここにいるんだし、おかしくはないんだけどさ」


 アタシは近くでぷかぷか浮いている赤ん坊を見た。見張りのテナガエイプには本当に見えていないのか、牢屋の中に現れたアタシ以外の存在に見向きもしない。しかもアタシと聖女ちゃんのそれぞれの傍にいるとか。少なくとも人間ができる事じゃない。


「もちろん本当の神ではないと思います。神を名乗る何か。そう言うモンスターかもしれませんし、もしかしたらリーンたち悪魔の策略の可能性も――」

「それはないでち。あの三人なら、アンカーを通してなにかしらの魔物と融合させているはずでちゅ」


 悪魔の可能性を一蹴するかみちゃま。確かにあいつ等ならじじいを人間のままにする必要はない。じじいのアンカーが何かは知らないけど、どうせ頑固とかロリコンとかそんなのだ。


「モンスターが騙している可能性も低いでちね。グランチャコに現れることができるモンスターの中で、そこまで狡猾な事ができる者はいまちぇん。他者を騙す知性がある魔物は限られてまちゅ」


 グランチャコは動植物モンスターなエリアだ。この辺りで人語を解するヤツがいるとすれば、ニジイロオウムぐらいだ。あれも【魔法モノマネ】でこっちの魔法をそのまま返す程度でしかない。


「じゃあ何よ。本当に神がいて、それが喋ってるっての?」


 アタシの問いかけにかみちゃまは深刻な顔で黙り、言葉を選ぶように口を開いた。


「そう、だと思いまちゅ。おそらくは、天秤神……ギルガスが絡んでいるんでち」

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