14:メスガキはまたまたじじいに会う
――襲撃は峡谷を通って移動しようとしたときだった。
「見つけたぞ、小娘! 貴様がここを通って移動することなど先刻承知! 散々攪乱したつもりだろうが、ウィの慧眼をもってすればお見通し! 子供の浅知恵など経験豊富な大人の知恵にかなうはずもないと知るがいい!」
じじいだ。二足歩行の恐竜に乗り、溶岩ワニを連れてアタシ達が通ろうとする道の前に立ちふさがっていた。
「攪乱も何も行く先々のキャンプで『次はあっち行くか』とか普通に話してたもんね。むしろようやく追いついたんだって感じだけど」
「だぁまれ! 情報の表裏を吟味するなど基本も基本! 権謀術数の世界を生きる帝王は考えることが多いのだ! 子供が偉そうに裏をかいたと粋がるなど片腹痛いわ!」
「勝手に疑って勝手に罠にはまってるだけじゃない。っていうかけんぼーしょう? 忘れっぽい病気だっけ? そんなのみんな知ってるからわざわざ言わなくていいわよ」
「誰が健忘症のクソジジイだ! 老人に対する敬意を忘れたクソガキが! 貴様のような奴は神に変わって天罰をくれてやる!」
アタシの言葉に大きく反応するじじい。クソジジイとか言ってないけど、勝手に言ったことにされてるのは我慢ならない。クソじゃ足りないわよ。言うならクソボケハゲジジイまで言いたいのに。
「我がブレナン帝国の民を拉致して狩りを手伝わせるなど何たることをしてくれた! 帝王として民の怒りを受け止め、鉄槌を叩き下ろしてくれよう! 奴隷の烙印を押して強制労働25年の刑に処す!」
「うわ。トーカのことを性奴隷にしたいんだって。じじい悪趣味」
「貴様のようなクソガキを性の対象にしたいなど誰が思うか!? 王の名誉を棄損した罰として5年労働期間を追加する!」
なによ、ただの冗談なのに顔真っ赤にして。っていうか30年とかやってらんないわよ。
「ふん。この子を嫁にするとか言ってるくせに何言ってんのよ、このロリコン」
「聖女様は格別なのだ! ウィが伴侶と認めた存在。ならば法を凌駕しても問題なし。全ては帝王であるウィが責任を持つ。ゆえに問題はない!」
「王様の気分で法律が変わるとかガバガバじゃないの。そんな帝国ってありえないわよ。どんだけ時代錯誤なんだか」
「王とは責務を背負う者! 王が法を定め、王が軍を納める。法による責任も、軍による殺戮の罪も、全て王が背負うのだ! その重責を知らぬ子どもが気軽に批判するでない!」
ああいえばこういうわよね、このじじい。どうでもいいわ。口論して考えが変わるようなら苦労はしないんだろうし。
「おお、聖女コトネ! 今度こそあなたを呪う鎖を断ち切り、悪の道から貴方をお救いしましょう! 聞けば拉致された我が民を懸命に癒し、地獄のような狩りから生存させたのは貴方の手腕! 我がブレナン帝国の伴侶として、婚姻前から恥じぬ行動をされていただき感謝の極み!」
「多くの命を救うのが私の役割です。ですが前にも申した通り、帝国に嫁ぐつもりはありません」
「おお、わかっておりますとも聖女。その魔女に呪いをかけられ、愛を囁くことができなくなっているのですね! ウィは全てを理解しています。あなたの愛を! その慈悲の心がこの大陸全てを包むのだと!」
アタシが魔女とかどんだけ頭狂ってんのよ。やっぱり一回殴っときたいわね。
「あいにくと呪いをかけるアビリティとか持ってないからね。大体<フルムーンケイオス>の呪術師ってMPと一緒にアイテム消費するから時間効率悪いのよ。射線ないから壁の向こうから攻撃できるのはいいんだけど、ドロップ回収ができないからトントンなのよね」
「トーカさん、今はそういう事を言っている場合ではないんですが」
メタい考えになってるアタシを引き戻す聖女ちゃん。いけないいけない。
「で、結局何の用なの? 文句は黙って聞いてあげたんだから、用がないなら通してほしいんですけど」
「全然黙ってないじゃないでち」
「アタシ的には黙ってる方なのよ。罵ってないんだし」
「そこなんですか……?」
当然じゃない。そういう視線を返すと、聖女ちゃんは額に手を当てて疲れたようにため息をついた。
「我が民を拉致して狩りをさせた罰をぬぐわせると言ったじゃろうが! 人の事を健忘症扱いするくせに、貴様こそ物を覚えぬな!」
「じじいの妄言なんか覚えるだけ無駄なのよ。帝国だとか10万人の手下だとか、挙句の果てにはプロポーズだとか。覚える価値ないんだから忘れて当然よ」
「ウィを嘘つき呼ばわりとは何たる侮辱! いいだろう。奴隷の烙印より先に王の裁きを受けてもらう! よく回る舌を引き抜き、癖の悪い手を切断して、我が民の前で拘束して石打の刑だ!」
なんかエッグいこと言いだしたわね、このじじい。そういう性癖なの?
「はいはい。最強の溶岩ワニを出してアタシを負かせてみなさいよ。それができないからアタシに拉致されて狩りを手伝わされるのよ。
きゃー。王様弱いもんねー。弱いから民を守れない。なさけなーい。しかも今は民の方が強いんじゃない? トーカの狩り、激しいもんね」
「っ! ……言いたいことはそれだけか、小娘」
アタシの一言にじじいが押し黙ったように口を開く。さっきまでの唾を飛ばしての激論ではなく、これ以上の会話を拒むとばかりの冷たい一言。それ以上奥に踏み込めば、殺すとばかりの重み。
「まだまだあるけど、勝ちセリフに取っておくわ。じじいにアタシの実力を分からせた方がダメージ大きそうだしね」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。そして帝王こそ最強なのだと、その身に刻んでやる!
出でよわがアテンダント四天王!」
言うと同時に、じじいの<収容魔法>から3体のテイムしたビーストが出てくる。テイマーがテイムした存在は<収容魔法>の中に入れられるのだ。その時は『(キャラ名)の石像』という形になっているが。
「パピ子さんだけじゃないんですね」
「テイマー系がテイムできる限界は、テイムするモンスターレベルが自分の2倍までなの。レベル40のテイマーなら、合計80レベルになるまでモンスターをテイムできるわ」
あのじじいが何レベルかは知らないけど、サイに勝てないとか言ってたし50を超えていることはないだろう。となると溶岩ワニのレベル40はかなり重たいはずだ。残りの三匹は大したレベルじゃないはず。
「ほーほー」
「げごげこ」
「うっきー」
現れたのは三角帽子を被ったフクロウと紫の毒カエルと手癖の悪そうなサルだ。正式名称は『マギオウル』『ドクヌマカエル』『テナガエイプ』。魔法使いにバステデバフ要因に回避盾。攻撃一辺倒の溶岩ワニに割り当てるにはいい構成だ。
「……ん? ちょっと待って……?」
アタシはモンスターデータを脳内で展開して、とある疑問にたどり着く。いやありえない。ありえないんだけど、念のために聖女ちゃんに確認する。
「ねえ、40+37+35+30はいくつになると思う?」
「142ですけど。いきなりどうしたんです?」
「……それを2で割って……嘘だー!」
アタシは計算結果に頭を抱えた。でも数字はウソをつかない。溶岩ワニのレベルが40。マギオウルが37。ドクヌマカエルが35。テナガエイプは30。この数字に間違いはない。それをテイムしているじじいのレベルは最低でも……。
「このじじい、最低でもレベル71はあるってことじゃないの!?」
今のアタシ達のレベルが40代。アタシ達より30以上強いという事になる。
……うへぇ。ただのキモハゲロリコンじじいと思ってたら、意外にめんどくさそうな感じじゃない。
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