15:メスガキはじじいに言い返せない
「ふはははは! 我がブレナン帝国を守る四天王を前に怖気づいたか! 先ほど前での強気な表情はどこへ行った? 降参するなら減刑を考えてやってもいいぞ!」
驚くアタシを前に、大笑いするじじい。確かに驚いた。何に驚いたかって。
「70レベル超えなのになんで使役してる動物が溶岩ワニなのよ。鋼サイとか普通に使役できるし、【動物勧誘】を重点的に上げてればフレイムライオンも行けるレベルなのに」
そのちぐはぐさだ。そのレベルならもう少し強い動物をテイムしたほうが効率がいいのに。っていうか、一回目の戦いは【動物教育】入ってなかったからわよね? そこから一気にレベル上げたってこと?
「帝王の考えを読み取ることができるなど子供にできると思うな! サイとの決着は貴様を倒した後につけてくれよう! そう、我が神の啓示のままに動けば怖れる者は何もない! 少し準備が必要だがな!」
「まあ、ワニに炎吐かせればサイのHP削れるけど……そもそも【動物教育】でレベル上がってるんだから、普通に削り切れるわよ。決着も何も余裕で勝てる相手じゃない」
「黙れェ! 帝国の歴史に敗北の文字は不要! 確実に勝てると分かってから戦うのが賢人だ! サイの皮膚の硬さを突破できるという確信が得られるまで、戦うわけにはいかぬ!」
いや、普通に勝てるんだけど。っていう過去の動物パーティがあればもっと強い奴相手しても勝てるんだけど。
「っていうかアタシに負けまくってるじゃない。2連敗2連敗。帝国の歴史に思いっきり白星ついてるわよ」
「負けっていう意味なら黒星です、トーカさん」
「どっちでもいいわよ。とにかくとっくに負けの記録ついてるけどね」
聖女ちゃんの指摘を強引に振り切ってじじいに指をさす。
「いいや、ウィは負けてはおらぬ! 前までの交戦は前哨戦。この戦いにつなぐための帝国の策略なのだ! この戦いで貴様を下し、勝利することでこれまだで押されていたように見せかけた戦局を勝利に染め上げる!」
「ああ言えばこういうわね……」
「劉邦も項羽相手に最後に勝利して天下を取ったのですから、一理ある話ではあるんですが」
りゅーほーとかこーうとか知らないわよ。じじいのツラが厚い事なんて嫌になるぐらいにわかってるからどうでもいいわ。
「要するに、自分が勝つまでは負けないっていうわけでしょ。ワガママいうのも大概にしなさいよ。そんなんだからボケジジイとかハゲジジイとかクソジジイとか言われるんだから」
「そんなことは一言も言われておらぬわ! 我が民は皆ウィを敬愛し、ウィは王の急くむをもって皆を守っている! 感謝こそ去れど、悪し様に言われる筋合いはない!」
「どうだか。押しつけがましい親切を迷惑がって声も出せなかったかもしれないじゃない。どうせキャンプの人達とまともに会話なんかしてなかったんでしょ? みんな自分を慕ってるって勝手に妄想して。それともまともに人と話せない陰キャなのかしら?」
「陰キャの意味は分からぬが、ウィが民の心を理解していないという嘲りは理解できたぞ! 民が王を慕い頼るのは当然のこと! そして王がそれに答えるのもまた当然のこと! その常識を疑うなど悪魔の手先の証!」
アタシを指さし、思いっきり罵ってくるじじい。ホント、人の話を聞かないっていうか頭固いよね。自分の事を慕って当然とか、どんだけ時代錯誤なのよ。
「聖女なら理解してくれるでしょう。王と民の関係を! 帝国を守るために生きる王と、そこに住む民の関係を! 王は民と共にあり、民は王を慕い尊敬する! これこそが国にとして正しい在り方なのだと!」
「そうですね。それは確かに正しい国の在り方かもしれません」
「ちょっと?」
じじいの妄言に同意する聖女ちゃん。なんかイラっとしたので問い返したが、視線で大丈夫だと伝えてきたので黙ることにした。
「民も国の一部。それを守る王。確かにそれは理想でしょう。しかし民にも心があり、民もまた国に貢献しようと成長します。相互に強くなれば国をより強固にできるでしょう。
民の自由性を尊重し、信じて頼るのも王の器と思われます」
なんな小難しい事を言ってるけど、要するに『お前に守られなくても勝手に成長するから過干渉するな』ってことだ。
「おお、優しきは聖女の心! 理想を求める心は美しく、そして汚しがたき至高の芸術! しかしウィは王として現実を知る者。理想だけでは国を守れないのです! 理想と現実! 美しき者を守りながら、厳しき現実を切り開くのが王なのです!」
そしてそんな聖女ちゃんの言葉に感極まったかのように叫ぶじじい。こっちも言ってることは『何言ってんだこのアマ。俺のいう事に逆らうんじゃねぇ』である。
「口で言って聞く相手じゃないことはわかってるじゃないの」
「然り! 王の正しさは不変! むしろ貴様こそ王の威光にひれ伏すべきなのだ! 聖女の呪いを解き、ウィのすばらしさに首を垂れろ! 正しき者が勝つのは世界の摂理と知るがいい!」
「うるさいわね。アンタのどこが正しいっていうのよ」
いい加減へきへきして、適当に返答するアタシ。あー、もうめんどくさい。
「王である吾輩と、優れた聖女が結ばれることの正しさが理解できぬか!」
はいはい。王様偉いわね。ウザったいウザったい。
「気高き男性と優良なる心を持つ女性が結ばれ、優れた子供を産む! そうすることが世界にとって正しいのは明白! その可能性を封じるなど万死に値する!
貴様がいかなる理由で聖女を拘束しているかは知らぬが、女性同士で共にいても子供を生めず、世界にとって何の利益をもたらさぬと知るがいい!」
――――――――。
「……なによ。その、子供を産むしか意味がない的な考えは」
自分でも言葉に勢いがなくなってることに気づいていた。なんでショックを受けているか。それに気づいているけど、目をそらして。
「子を産むことは生物として当然の行為! 全ての生き物は次代を残すために愛し合う! 長く続いてきた生物の常識だ! それを否定することは、歴史を止める大罪と知れ! まさに悪魔の思想だ!」
常識。
男と女が愛し合って、子供を産む。それが次の世代を作って、歴史を作っていく。そうやって歴史は続いていく。
言われるまでもない。そんなことはアタシだってわかってる。それが普通で、普通じゃないのが非常識だと言われればそうなのだから仕方ない。
「貴様が聖女様を拘束している以上、聖女様は幸せにはなれぬのだ! いいや、人類は、この世界を不幸にするのだと知るが――」
「うっさい黙れ!」
じじいの言葉を思いっきり叫んで止めるアタシ。
「勝手な事言ってんじゃないわよ! そんなつまんないことで……とにかく黙れ!」
ヤバイ。頭の中がぐちゃぐちゃになって、まともに言い返せない。自分でも何が言いたいかが分からない。とにかくじじいの言葉を聞きたくない。
「いいや黙らぬ! 貴様の行動が世界を大きく後退させているのは事実! 我がブレナン帝国の繁栄のために、そしてこの世界の歴史の為に! ウィと聖女の婚姻は必須なのだ! それを邪魔する不届き物は、この場で処しててくれよう!」
ああ、もう。ひたすらいう事聞かないじじいね。黙れっていうのが分かんないの?
言い返そうと思うけど、言葉が出ない。言い返したいことはいくらでもあるけど、ぐちゃぐちゃになって言い返せない。
アタシとこの子が一緒にいることが正しくない。この子は幸せになれない。
それが非常識だと言われて。たったそれだけなのに。
アタシは何もかもを否定されたような気がして心が乱されていた。
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