12:メスガキはゆっくり休む

「今日はここまでよ」


 日が暮れそうになるので、終了宣言を出すアタシ。


 あの後はビーストテイマーが全員ハンタージラフをテイムできるようになるまで粘り、そこからは河原でヒュプノヒポポタマスとエッジクロコダイルを狩り続けた。そのおかげもあってか、全員35レベルまで上げることができたわ。


「ようやく終わったぁ……」

「し……死ぬ……」

「腕がもう動かねぇ……」

「俺のジラ様がボロボロだぁ……」


 なのにキャンプの人達は疲労でぐったりしている。朝から夕方までやった程度なのに、情けないわねぇ。


「なによ。HPとMPはレベルが上がった時に全快してるんだから大丈夫でしょ? 何そんなにつかれてるのよ」

「休みなくずっと弓撃たされてたからだ!」

「黙々と弓と矢を作ってると、気が遠くなってくるんだよ!」

「テイムしたラフちゃんもふらふらなのよ! 加減てものを考えて!」


 腰に手を当てて呆れたように言うと、元気よく言葉が返ってきた。なんだ、まだまだやれるじゃん。


「流石にスパルタすぎると思います」

「効率だけを求めると人情が薄れていくのでちね」


 そんなアタシに聖女ちゃんとかみちゃまもツッコミを入れる


「アタシはまだまだやれるっていうのに情けないわね。斧戦士ちゃんの時よりも軽くはしているわよ」

「ニダウィちゃんは元気の塊でしたからね」

「ま、峠は越えたわ。あとはスキル成長に合わせた微調整よ。剣ワニ相手にガシガシやっておしまいね」


 剣ワニ。エッジクロコダイルの略称ね。コイツは攻撃力と防御力が高い代わりに精神系バステへの抵抗力が弱い。アタシの【微笑み返し】や黒蝶ドレスの【魅了】であっさりと無力化できる。無力化できるのは数秒程度だけど、


「バステから回復する間にどう戦うか。それを体に染み込ませながらレベルアップ。こんなところね。大工の人は家具とか家とかを作ってレベルを上げてもいいかも」

「家も作れるんですね。いえ、大工ですから最終的にはそうなるんでしょうけど」

「まだまだ。大工がその気になったら攻城兵器もダンジョンの罠も作れるわよ」


【弓作製】を極めればフィールド設置のバリスタやカタパルトも作れるし、【罠作製】も足止めから丸太デスローラーまで幅広い。直接殴るのは無理だけど、防御に回った大工はプレイヤー知識と合わせれば超強いのだ。


 ……<フルムーンケイオス>で大工10人で作った建物型ダンジョンに挑んだ動画があったけど、メチャクチャえげつなかった。落とし穴が安全地帯になる吊り天井とか、矢印で誘導した先を見たら反対方向から矢が転がってくるとかどんだけか。


「ま、その領域はまだまだ先ね。とにかく伸ばせばどんなジョブでも強くなるのよ」

「そうですね。可能性は広いです。この前のアイドルさんたちもそうですけど、それが神様が与えた強みなんですね」

「正確に言えば、お母様が作った与えた強みでち。あたち達はそれを拝借して人類に与えただけでち」


 聖女ちゃんの言葉に答えるかみちゃま。この世界を作った神の母親。その力がアタシ達の『ステータス』であり、強くなる可能性だ。


「そう言えば以前あの巨乳悪魔が言ってたけど、神がステータスをパクッたって家出した話はマジなの?」

「そう言われるとなんかあたち達が聞き分けのない子供のような言われ方でちが……いえ、でもリーンの立場からすればそうでちよね。あたち達はそれが理由で袂を分かちまちた」


 ため息をつくかみちゃま。あ、これもしかして気軽に聞いたらダメな奴だった?


「この世界を発展させるためにあたち達は人類を作り、その可能性に賭けまちた。人類は文化を作り、世界を変えていく。ただそれはアンジェラたちからすれば世界の破壊につながるのだと」

「まあ、人間なんていい子ちゃんばかりじゃないもんね。むしろ悪人ばっかりだし」

「そーでちね。口が悪くてワガママな子もいまちゅちね」


 何故かアタシを見ながら言うかみちゃま。何よぅ、アタシは可愛くていい子だもん。ちょっとワガママで口が悪いぐらいは個性の範疇よ。


「この世界の人類が貴方達の世界の通りに発展するかはわかりまちぇん。そちらの世界にはない魔法が存在し、魔物が存在していまちゅ。思想や物質やエネルギーなどの問題を考えれば、魔法を中心にした発展をするでちょう。

 ……悪魔に滅ぼされなければ、でちが」

「ふーん、大変ね」

「トーカさん。他人事のように言うのはさすがに……」

「んー。正直、実感わかないのよね。神と悪魔の関係に関しては当事者同士でやって頂戴って感じだし」


 窘めるように言う聖女ちゃんにはっきりというアタシ。悪いけど、兄弟姉妹喧嘩に首を突っ込む気はない。無関係だという気はないけど、その辺りは当事者同士で解決するしかないと思っている。


「人類が滅びるとかもあれなのよ。完全に人間が死に絶えるっていうのがイメージできないわ。町とかが全部なくなっても、なんだかんだで細々と生きてそうだし。グランチャコのキャンプとかそんな感じで」


 悪魔がどれだけ強いモンスターを作って町とか国を滅ぼしても、こういう所で生きている。さすがに世界中を飛び回ってこういうキャンプを潰そうとはしないだろう。アイツラ、そういう細かい事をする性格ではなさそうだし。


「アナタがこのまま人類が滅んで……細々と生きていくのが正しいと思うんでちか?」

「そこまでは言ってないわよ。でもそこまで絶望視はしてないってこと。生き残ってればそこから発展する可能性もあるでしょ。こっちの人類だって最初は石化時代だったんだし」


 生きてればどうにかなる。実際、この世界の人間はステータスの恩恵がある。鍛えれば強くなることが確定しているのだから、後はその方法だ。


「ま、アタシみたいな有能で可愛い子が導いてあげるのが前提条件だろうけどね」

「確かにオピニオンリーダーは必要ですよね。誰かが先導することで大きく文化は発展します。実際、トーカさんの指導で強くなったり助けられた人は多いですから」


 冗談めかして言うアタシのセリフに、深々と頷く聖女ちゃん。


「ルークさんはあのままだといろいろ勘違いをしていたでしょうし、ニダウィちゃんは強さに拘泥して大事なものを見失っていたかもしれません。他にもいろんな方がトーカさんのおかげで自分自身を見つめ直したはずです」

「……む。まあ、そこまででも」

「あ、もちろん一番は私ですよ。トーカさんとずっと一緒にいて、トーカさんに一番影響されたのは私ですから」


 そこは譲る気はありません、とばかりに気合を込めてぐいぐい来る聖女ちゃん。


 うん、それはまあ、その。確かにこの子はだいぶ変わった。最初のころに見せた自信の無さはどこへやら。その変化をずっと傍で見ていたから、それがよくわかる。


「まあ、アタシもアンタと一緒にいていろいろ変わったんだし? その辺りはお互い様というか」

「そうですね。トーカさんも……できれば口の悪い所とかは治ってほしくはありますが」

「アンタも真面目すぎるところはもう少しなんとかなんない?」

「トーカさんがアバウトすぎるだけです」


 言ってにらみ合い。そして同時に噴き出すように笑う。


「あー、もう。アンタはやっぱり変わらないわ」

「そうですね。トーカさんも変わりません」

「はいはい、そろそろ寝まちょう」


 いつも通りに笑うアタシ達に、かみちゃまがそう告げて寝床につくアタシ達だった。

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