11:メスガキは育てる
弓使い系が2名。生産系が1名。そして使役系が4名。それがキャンプの人のジョブ構成だった。
「見事なぐらいに後衛構成よね。確かに動物に真正面から挑もうって気にはならないわ」
弓使い系ジョブは前に戦士などがいないと戦いにくい。弓は遠距離から攻撃できるけど、弓を売った後の
「生産系は大工で木材専門。そしてあとは全員ビーストテイマー。……この辺りはそういうジョブが生まれやすいの?」
じじいの事を思い出して、少し陰鬱になるアタシ。この人達に罪はないけど、あんまり思い出したくないのも事実だ。まあ来たら蹴っ飛ばすけど。
「そうでちね。地域によって派生するジョブは異なりまちゅ」
アタシの言葉にうなずくかみちゃま。そうなの?
「あたちたち神は人類がもつステータスに『その地域で生きやすいジョブ』になるようにしまちた。ジョブによる不遇が生まれにくいように配慮したんでち」
神が人類を守るために、そういう工夫を施したという。
「斧戦士ちゃんみたいにダメージが通らない場所で軽戦士になったケースもあるけど」
「完全にどうにもできないようにはしていないはずでち。周りが協力すればどうにかなるようにはしているはずでちゅ」
アウタナの斧戦士ちゃんのことを言うと、かみちゃまはそう返した。確かにアタシのアドバイスでどうにかはなったけど、それでも不遇がゼロというわけでもない。誰もがベストのジョブになれないのは、
「皆が同じジョブだと、そこで文化が止まるんでち。多種多様の戦法を生み出すことが、人類の強みだとリーズハルグは言ってまちた」
という事らしい。確かにオンリーワンなジョブしか楽しめないのはクソゲーだ。
「そう考えると、トーカさんの存在はリーズハルグ神の眼鏡にかなう行為ですね」
「あたしその神様に出会ったことないんだけどね。会ったらお礼もらわないと。神様的なレアアイテムとか能力値アップのアイテムとか」
「やめた方がいいでちよ。デミナルト空間に閉じ込められてトレーニングさせられまちゅから」
アタシの言葉にうんざりとした声を出すかみちゃま。何よその体育会系は。
「それで、何をしたらいいんだ?」
キャンプの人達が手を挙げ、アタシに問いかける。おおよそ一日でこの人達を溶岩ワニぐらいに強くするのだ。あまりおしゃべりしている余裕はない。
「それじゃあ全員でパーティを作って。みんなレベル1みたいだから、経験点を平等に配分できるわ」
<フルムーンケイオス>ではパーティを組めば、誰かが手に入れた経験点をパーティメンバーで分配できるようになる。これにより生産系のキャラも戦わずして経験点が手に入るのだ。
「じゃあ大工のアナタ。貴方は『木の弓』と『鉄の矢』を作って」
その逆もしかり。生産系が物を作った経験点を周りに振り分けることも可能だ。
「え? 木の弓はできますけど、鉄の矢の材料は……」
「材料ならあるわよ。スティールライノの角を使って」
「いいんですか? 売ったら結構なお金になりますよ」
「鉱山に籠って鉄鉱石取ってくる時間がないから仕方ないのよ。はい、急ぐ急ぐ」
お金の面で言えばマイナスだが、些末事だ。それに金サイの角が大量にあるし、大きなマイナスにはならない。
「できた弓と矢をもって弓使いは動物を狩るわよ」
「ああ。それで何を狩るんだ? イッカクウサギか?」
「そんなの狩ってたら時簡足んないわ。キリン狩るわよ」
「キリン……ハンタージラフか!?」
アタシの提案に驚く弓使い達。この辺りでキリンと言えばハンタージラフ。防御力が低くレベル1の弓使いでもダメージが通る動物モンスターだ。ただ、そう簡単に狩れる相手でもない。
「無理だ! あいつは大人しそうに見えて一度攻撃したら長い首を振るって攻撃してくる!」
「首をムチのように振るって周囲の奴らを一気に攻撃してくるんだ! 弓が届く範囲にもあの首が伸びてくるんだぞ!」
必死に説明する弓使い2人。ハンタージラフは【首振り】というアビリティを持つ。自分を中心にした範囲攻撃。範囲内にいる奴らに首を振って叩き付けるという打撃技だ。その範囲は広く、遠距離攻撃を行うキャラまで届く。
ハンタージラフ自体のレベルもそこそこ高く、見た目に騙されて低レベルパーティで狩りに行けば、手痛い反撃を食らうモンスターの一つでもある。1レベルの弓使いがビビるのも無理はない。
「安心しなさい。アタシが盾になるから」
だけど溶岩ワニよりも弱い。【天使の盾】こみならアタシでも耐えられる。そして肝心の範囲攻撃も対策があるわ。その辺りを説明し、納得してもらう。
「そんじゃ、行くわよ。作戦通り、アタシが最初に殴ってから弓で攻撃ね」
ハンタージラフを見つけ、声をかけるアタシ。アタシが殴って盾になり、その後ろにいる弓使い2人と聖女ちゃんの構成。大工とビーストテイマーの人達はさらにその後ろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:ハンタージラフ
種族:動物
Lv:29
HP:58
解説:草原に住むキリン。大人しそうに見えて肉食動物を撃退するどう猛さを持つ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
聖女ちゃんに【天使の盾】を使ってもらい、その後でゴールドナイフを使ってハンタージラフに斬りかかる。ダメージは軽微だが、斬ったアタシに向けて顔を向け、真上から首を振り下ろす。一度だけではなく、何度も何度も。キリンの周囲全部が激しくたたかれて揺れた。
「行きますよ、トーカさん!」
攻撃のタイミングに合わせて、聖女ちゃんがアビリティを使う。【聖言】4レベルで覚えられるアビリティの【私は門】だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アビリティ
【私は門】:この門以外から入る者は、咎人なり。『範囲』『直線』のアビリティを受けた際、その対象を1体に変更する。MP20消費。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
かけられたキャラが範囲アビリティを受けた際、その効果を1人に変更するアビリティ。範囲攻撃だけではなく、範囲回復も含むので微妙に使いにくい。でもこっちが範囲回復を使わないのなら何の問題もなく使えるわ。
「今の内よ。ガンガン弓で攻めなさい!」
ハンタージラフの攻撃はアタシだけに集中している。後ろからどれだけ弓を撃っても、キリンの攻撃はそこまで届かないわ。アタシは適当なタイミングでケーキを食べたり聖女ちゃんの【ヒーリング】で回復したり。
油断でもしない限り、キリンがアタシを倒せる要素はないわ。後はじわじわと作った鉄の矢でダメージを与え続け、ハンタージラフを倒せば――
<イシメール・ベア、レベルアップ!>
<フォール・ニャシンベ、レベルアップ!>
軽快なアナウンスと共にレベルが上がる弓使い。同様に後ろで見ていた大工やビーストテイマーもレベルが上がる。
「やった! これで俺達も強くなった――」
「まだまだ甘いわよ。ここからが本番なんだからね」
喜ぶ人たちにクギを刺すように告げる。一回で終わりとかそんな甘々なわけないじゃない。
「弓使いは【剛弓】か【連射】の好きなスキルを一点特化で上げて。どれでもいいけど、しばらくはその一点伸ばしよ。大工は【大工術】伸ばしね。ハイクオリティの弓ができたら弓使いに渡して。そんでビーストテイマーは全員ハンタージラフをテイムして貰うわ。【動物勧誘】と【動物教育】の二つを平等に上げていきなさい」
矢次に指示を出すアタシ。こっからが本当の育成よ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます