10:メスガキは悪意を振るう
「というわけで、アタシが鍛えてあげるわ!」
アタシの言葉にキャンプの人達は唖然とした顔をした。何言ってるんだこの娘、っていう顔とできるならこっち来てほしくないんだけどなぁ、っていう顔だ。予想はできたけど、追っ払うほど嫌悪されてない。
「ええとですね。トーカさんは皆さんに自衛手段を教えようと。グランチャコはいろいろ危険なので、個人が強くなれば安全性が増すと言いますか」
唖然としている人たちに聖女ちゃんが説明をしていた。アタシの簡潔かつ完璧な宣言に補足をしている。そんなことしなくてもいいのに。
じじいが守ってくれるから、じじいの敵であるアタシ達には取引ができない。じじいの機嫌を損ねればどうなるか分からないからだ。
なら別にじじいに守ってもらわなくてもいいようにすればいい。じじいの守りより強い守りを置けば、じじいに従う必要はないわけだ。アタシって頭いい。
どんなジョブだとしても、アタシの頭の中には<フルムーンケイオス>の育成レシピがある。溶岩ワニより強くすることなんか余裕だ。
「いやな……俺達はどっちかっていうとアンタと関わりあいたくないっていうか」
帰ってきた答えは、消極的な拒否。現状、困ったことはない。むしろアタシがここにいることが問題なんだと言いたげである。正確に言えば、アタシと話をしていることがあのじじいにバレたら面倒という感じだが。
「ふん。あんなじじいにビビってる方がいいって? じじいのワニよりも強い動物はグランチャコにたくさんいるわ。そいつに襲われたらどうするのよ」
腰が引けているキャンプの人にアタシはそう言い放つ。溶岩ワニより強い動物モンスターなんか沢山いる。今のアタシ達は言うに及ばず、高レベルの戦士でもきっちり準備しないと負ける奴もいるのだ。
アタシ達が狩っていたライノ系は言うまでもなく、高速で暴れるジャガーバーサーカーや格闘アビリティを遠距離で放ってくるカンフーゴリラ。最強動物モンスターのホワイトライオンに、何故か強いヒトクイアリクイ。最後のはホント何なの? 食うのは人なの? 蟻なの?
「まあ、それは……」
煮え切らない返事。グランチャコの危険は十分に理解しているが、現実味がないという顔だ。然もありなん。これまで大丈夫だったから、これからも大丈夫だというのは誰もが思う感情だ。実際、その手の強い動物はそんなに数がいない。グランチャコの広さを考えれば出会うのは稀だ。
「別にアンタらがじじいに逆らえないヘタレなのはどうでもいいわ。強い相手に頭下げてへーこらするのは楽だもんね。守ってくれるんだし、あのじじいは褒めてれば調子に乗ってそうだし。そういうのがいいならそれでいいわよ」
調子に乗って聖女ちゃんにプロポーズするぐらいだもんね。ふん、年の差とか考えろっての。少し優しくされたからってコロッと行くとかどんだけか。そういうのは他所でやってちょうだい。アタシとこの子が関係してないなら、どうでもいいわ。
べ、別にあの子にプロポーズしたことに拘ってるわけじゃないんだからねっ! ジョウシキナイワー、って話なんだからっ!
……落ち着け、アタシ。心の中でせき払い。大事なのはここからだ。
「はっきり言って、アタシはあんたらが死のうが生きようがどうでもいいわ」
はっきりと言い放つアタシ。これは事実だ。このキャンプの人達がアタシ達がいない場所で襲われても、心は痛まない。多分『え。マジ?』ぐらいの感覚だ。これははっきりと告げておかないといけない事なんで、きっぱりと言い放つ。
「アタシがアンタ達を強くしよう、っていうのはじじいに対する嫌がらせよ。アンタが守る必要なんてないのよばーかばかって言いたいだけの、そういう悪意でしかないわ。
ブレナン帝国だっけ? それからすればアタシはその帝国史上最悪の悪女らしいからね。アンタらはアタシに拉致されて奴隷のような扱いを受けるのよ」
言ってにやりと笑ってやる。精一杯の悪女ムーブ。ああん、アタシいい子だから、こういう悪い子の縁起って苦手ねー。良い子だもん。
「要約するとですね、皆さんはトーカさんのワガママに巻き込まれるという事です。ガドフリーさんには『トーカさんに拉致されて狩りを強要された』と言ってください。
その結果でレベルが上がって強くなるかもしれませんが、それは世界の理という事ですから仕方ないですよね」
説明役の聖女ちゃんのセリフで、合点がいったという顔をするキャンプの人達。互いに顔を見合わせる。その顔にはさっきまでの『こいつをどう厄介払いしようか』という色はない。
アタシが単純に『善意でみんなを強くするわ!』と言っても協力はしなかっただろう。じじいが勝手に守り、その庇護……っていうかその恩義にあずかる以上は仕方のない話だ。しがらみから逃れられないのはどうしようもない。惰性でソシャゲ続けるとかよくある話。
そんな人たちに、アタシは『理由』を作ったのだ。『拉致されて狩りを強要される』というじじいには反目しない形でのレベルアップ。この連中だって弱いままでいいと思ってるわけじゃない。むしろ身を護る手段は多いに越したことがないのだから。
このキャンプの人はアタシの『いじわる』に巻き込まれる。じじいからすれば不本意だが、キャンプの人達に(じじいから見て、って意味での)罪はない。なんでじじいからあーだこーだと言われる筋合いもないのだ。
「いくつか質問があるんだが……」
代表して手をあげるキャンプの男性。道具屋のおっさんだ。多分このキャンプの長的役割なのだろう。アタシにではなく聖女ちゃんに向けているあたり、話が分かっている。アタシと仲良くしては、じじいに後で何言われるか分からないし。
「拉致されて狩りを強要されるのは全員なのか? 子供の世話をする者も必要なんだが」
「はん! 役立たずは要らないわ」
「――ということですので、その辺りはそちらで選出していただけるとありがたいという事です」
じじいの未来の嫁(アタシは認めてないけど!)の聖女ちゃんと話をするのは問題ない。聖女ちゃん自身もじじいからすればアタシが呪いで縛って行動を強要しているわけだし、なんでアタシの言葉を聖女ちゃんが伝えるという形で相談が進む。
「俺達あまり戦ったことがないだが。武器も粗末な者ばかりだし」
「知った事じゃないわよ。ザコはザコなりに足搔けばいいわ。死なない程度に頑張りなさい」
「その辺りは強さに応じてトーカさんが調整します。少しハードかもしれませんが、回復は私が行いますので」
「こいつは生産タイプなんだが、それも拉致されるのか?」
「腕の筋肉がちぎれるまでこき使ってあげるわ。当然狩りにも付き合ってもらうけど」
「強くなりたい意思があるなら、問題ないようです」
聖女ちゃんを仲立ちにして、相談が進む。具体的なジョブも聞いて、アタシの頭の中で育成計画が詰みあがっていく。余裕余裕。
「後、これは重要な問題なんだが……どれぐらい拉致されるんだ? ガドフリーのじいさんが見回りに来る頃には戻っておかないといろいろ厄介なことが起きそうなんだが……」
当然の質問だ。この人達からすればじじいがかんしゃくを起こさないようにするためにアタシから距離を取りたいのである。そのじじいに感づかれたら面倒ごとでしかない。
脳内計画を形にするように、アタシは指を2つほど立てて言ってやる。
「一泊二日のスパルタコースよ。拉致されたアンタらに拒否権なんてないわ。死に物狂いで狩りしてもらうからね!」
「ああはいってますが、行き過ぎたと思ったら私が割って入ります。あとあくまで希望者だけですが、どうされます?」
聖女ちゃんの言葉にキャンプの人達は再度相談タイムに入る。誰が『巻き込まれるか』を相談し、誰が残るかを話し合う。じじいに気を使うそぶりはみられない。
そして――
「オッケー。そんじゃ、アタシのワガママに付き合ってもらうわよ!」
合計7名。キャンプの半数以上がアタシに『拉致』されたのであった。
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