6:メスガキは溶岩ワニと戦う(二度目)

 溶岩ワニの強さはこんなものだ。


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名前:パピ子

種族:動物

Lv:40(+18)

HP:98(+66)


解説:溶岩に住むワニ。硬い皮膚と強い顎で岩石すら砕く。(オーナー:ガドフリー・ブレナン三世)


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 これが今の溶岩ワニのステータスね。【動物教育】の効果でレベルが上がり、ついでにHPも上がってるわ。【動物教育】レベル1につきLv3上昇でHPが11上昇だから……。


「【動物教育】が6レベルあるってことになるから【獣性覚醒】のアビリティを持ってることになるわね」

「それがあるとどうなるんです?」

「【獣性覚醒】があるとペットが新しいアビリティに目覚めるのよ。溶岩ワニの場合は【ファイヤブレス】。口から火が吹けるわ」


 アニマルテイマーが真価を発揮するのは【獣性覚醒】を覚えてからと言われている。逆に言えばこれを覚えない限りは『ちょっと強い動物が味方』という程度でしかない。


「その通り! ブレナン帝国最強のアテンダント、パピ子は苦しい修行に耐えて新しい力を手に入れたのだ! 帝国地下にある神の座へと至る通路を進み、数多の困難をウィと共に乗り越えたのだ!

 最初の試練は知識の試練! 大陸三賢者すら堪えられぬ問いだったがこの智謀あふれる帝王においては児戯同然。難なく答えることができた!」


 あ、なんかじじいが回想シーンに入ってるわ。命令下す前に攻撃してやろうかしら。


「そして次の試練は力の試練! 天を支えよとばかりの重量が我が肩にのしかかったのだ! そのような状態の中、パピ子は悪魔のごとき試練を恐れることなく乗り越えた! おお、その激闘はなんたるや! 吟遊詩人がそれを見ていれば2000年は語り継がれる英雄譚になったであろう!

 そして最後の試練は心の試練! 世界か一人の命かを問う二者択一! 今ここで世界が存在しているのは、ウィが世界を選んだから。そう、世界の為に罪を背負う。それが帝王たるガドフリー・ブレナン三世の使命なの――ええい! 話してる途中で攻撃しようとするな! この節操なしが!」


 こっそり回り道してワニを迂回し、じじいを殴ろうとしたら怒られた。なによー。殴っていいよってことじゃないの?


「トーカさん、様式美は守りましょう」

「なによ。自分から勝負仕掛けておいて隙見せるとかバカ以外の何物でもないじゃない」

「……それで倒しても『卑怯な手を使って負けた』とか難癖付けられたらどうするんです」


 ぼそっとじじいに聞こえないようにチャットで言ってくる聖女ちゃんの言葉に納得するアタシ。まあそこでそういう奴は、なにしたって文句を言うんだろうけど。


「まあ分かったわ。とにかく【動物教育】のレベル上げてペットを強化してきたってことね」

「ちがああああう! 神の試練を超え、魂の相棒ともいえるアテンダントを強化してきたのだ!」


 アタシの正しい事実指摘に、唾を飛ばして否定するじじい。ああ? 何いってんのよこの妄言吐き。


「三つ試練超えるだけでジョブレベル上がるとかどんだけヌルゲーなのよ。アタシが頭こねくり回して楽にレベルアップする手段考えてるのは何だと思ってんのよ」

「そういう問題でもない気がします」


 アタシの言葉に少し呆れるように答える聖女ちゃん。ともあれ相手がレベルアップしたって言うんならそれに合わせてこっちも動くまでだ。


「ふははははは! 行くがいいパピ子! 聖女を洗脳する悪辣なる娘を火あぶりにし、その罪を焼き払うのだ!」

「洗脳されてるんだって、アンタ」

「トーカさんにメロメロで離れられない、という意味では洗脳されてるかもしれませんね」


 じじいの言葉に冗談めかして言えば、待ってましたとばかりに笑顔で言う聖女ちゃん。こ、この子いきなり何言いだすのよっ! アタシにメロメロとか……比喩! オノパトペとかそういう比喩表現っ!


「……っ、しょーもないこと言ってる場合じゃないわよ!」

「自分でふっといてカウンター食らってるだけでち。しかもハートにクリーンヒットでち」

「誰のハートに直撃したっていうのよ。アタシは別にそんなこと――!」


 追撃のかみちゃまツッコミに反論するアタシ。この二人結託してるんじゃないの、ってぐらいに奇麗な連撃だった。別にアタシが分かりやすいとかそういうことはないはずだ。ないはず。決して。


「来ますよ、トーカさん!」


 聖女ちゃんの言葉で意識を溶岩ワニに向ける。落ちつけアタシ。命令するのがハゲカス妄想じじいであるとはいえ、溶岩ワニはきちんとしたデータ。しかもテイマースキルで強化されてるんだから。遊び人の装備構成だと一撃でやられる可能性もあるんだし。


「サイと同じ戦術でいいわ。先ずは防御優先で」

「はい!」


 アタシの言葉と同時に聖女ちゃんは【天使の盾】をアタシに展開する。防御力をあげる聖魔法。防御が服とドレスのアタシがこのレベル帯の動物とやり合うには必須だ。これで溶岩ワニの噛みつきは耐えられるレベルまで押さえられる。


「がー」


 ワニは口を開けると同時に叫び、歯に炎を宿す。【エンチャントフレイム】。武器の攻撃力を増し、炎属性を与えるアビリティね。【天使の盾】で強化された対応としては正しい動き。火力を増して属性をつけて、防御を突破する戦術。


「予想通りね。それ、キャンセルよ!」


 だけどアタシはそれを予測していたかのように【早着替え】で白蝶オーバードに着替える。そのまま【笑裏蔵刀】を使ってクリティカル攻撃。オーバードの効果で付与効果を一つ外す。さっき付けたばかりの【エンチャントフレイム】を。


「熱いのだめなの。優しくしてね」


 ムジークの街から使っているマイクステッキのマイク部分で声を増幅しながらやさしく言うアタシ。ワニに言葉が通じるとは思えないけど、雰囲気雰囲気。


 ここまでは前の戦いと同じだ。相手の初撃を完封し、聖女ちゃんとアタシでHPを削り切る。アタシの打撃は弱いんでメインは聖女ちゃんの【神の鉄槌】なんだけど、まあそれはそれ!


「ぐぬぬぅ! しかしその程度の浅知恵など我がアテンダントからすれば些末! 言葉通り子供の戦術に焦ることなどない! いけぇ、パピ子!」


 だけどここからは違う。【獣性覚醒】で溶岩ワニが覚えたのは【ファイヤブレス】。威力はともかく相手に常時ダメージを与える<燃焼>を与えるバッドステータス攻撃だ。かなりの速度でHPを削る面倒なバステね。


 聖女ちゃんの【福音】で解除できるけど、メイン攻撃であるこの子の手番を使うのは悪手。かといってそのままにしておくのはもっと悪手。HPが低い遊び人は、溶岩ワニが力尽きるまでにスリップダメージで倒れてしまうだろう。


 治すの悪手。治さないのも悪手。だったらどうするか?


「それも予想どーり! アタシを炎上させて笑おうとか、頭足んないのにむだむだぁ」


 最善手は初めからバステを喰らわないことだ。溶岩ワニの挙動に合わせて、すでに覚えていたアビリティを使うアタシ。【着る】のレベル8で覚えられるアビリティ、【天衣無縫】だ。


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★アビリティ

【天衣無縫】:ほつれのない服とその着こなし。そこには隙一つない。一定時間、自分に不利になる効果をうけない。MP40消費


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 ワニの炎がアタシにまとわりつくが、それはすぐに消え去った。熱かったけど、それで終わりだ。ケーキ食べてすぐに回復できる。


 一定時間の間、すべてのバッドステータスを無効化するアビリティ……ではない。アタシにとって不利益な効果全てが無効になるアビリティよ。バッドステータスだけではなく、白蝶オーバードとかで行われる付与解除も含まれるわ。


 ……まあ、MP激重だけど。今のアタシのMP全部消えるわ。遊び人の低ステータス舐めんなー! 製作者バランス考えろー! でもまあ言うだけの効果はあるわ。


「ば、ばかな!? パピ子の炎が消えていくだと……!? 悪を裁く清らかな炎が、あの小娘の罪はその程度では浄化できないほどなのか!」

「いや違うから。普通にバステ無効化しただけだから」


 なんか別の驚き方をするじじい。アタシが極悪罪人みたいな言い方すんな。そして何か言いたげな顔してだまるな、聖女ちゃんとかみちゃま。


 ともあれこれで相手は封殺されたも同然だ。後は若干強化されたHPを削るのみ。じじいがこれ以上の切り札を持ってる様子もないし、ガンガン削っていくわよ。


 そして数分後――


「はーい、おしまい。

 この程度でアタシに挑もうとか、頭の中にカビ沸いてるんじゃないの? あ、ワニだからコケかな? きゃはははは!」


 倒れたワニに向けて手を叩き、勝利宣言をするアタシでした。うーん、気持ちいい。

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