3:メスガキは怒る

「ブレナン帝国最強のアテンダントが、こうもあっさりと……!」


 膝をついて落ち込むじーさん。それを見ながらアタシは鼻を鳴らす。


「ったく、アテンダントとかわけのわかんないこと言ってないで現実見なさい。人にテイムした動物けしかけておいて謝罪もないとか人としてどうなのよ。このおっぱいじじい。あんなのちょっと大きいだけじゃない。アタシだっていつかはああなるんだから。大きいのが正しいとか、いまどき多様性にマッチしないのよ。だいたい小さいから駄目だとか誰が決めたっていう話――」

「少し私怨が入ってまちゅね」


 謝罪を求めるアタシの言葉に冷たくツッコむかみちゃま。


 私怨じゃないわよ。別にアタシは小さいからどうとか聖女ちゃんが平均値より大きいだけで別に羨ましいとか思わないし大体口では関係ないと言いながらやっぱり大きい方が好かれるとか差は開くばかりとか胸囲の格差社会とか世の中色々間違ってるというか!


「くぅ……! 神の作りし至高を解しない愚者に頭を下げるのは業腹じゃが……勝負に負けたのは事実! 煮るなり焼くなり好きにせい!」

「あ、ふーん。好きにしていいんだぁ……」


 謝る気のないじーさんににやぁ、と笑みを浮かべるアタシ。よーし、言質とった。


「先ずは慰謝料として9999万ガネちょうだい。払えなかったらアイテム差し押さえね。装備とかも全部売っぱらって払って。それでも足りなかったらアタシのパシリね。

 それとは別でレベルアップのための盾になってもらうわ。ビーストテイマーらしいからその辺の動物テイムして盾にしてもらうわ。ん-、30年ぐらいで許してあげる。トーカやさしー」

「鬼でちか」

「トーカさん、やりすぎです」


 アタシの優しい提案に横から非難が飛んでくる。何よぅ、このじーさんが好きにしろっていうから好きにしてるのに。これでも死ぬまでって言わないだけ温情よ。


「ビーストテイマーではない! アテンダントマスターだ! 長き歴史を持つブレナン帝国にのみ存在する希少なる階位! 神の血を継ぐ帝王のみが扱うことができる選ばれし力なのだ!」

「へー。神って子供産んだんだ。へー」

「風評被害でち」


 すぐ近くに本物の神がいるなんて想像もつかないじーさんである。


「今は屈辱に耐えるしかないが、いずれ世界に覇を唱える力となろう! その際にはすべての存在をアテンダントして等しく扱おう。我が帝国の元に差別はなくなり、ああゆる民は平和に過ごすことができるのだ!」

「さっきおっぱいは大きい方がいいとか思いっきり差別してたじゃない」

「それは至高の美ゆえに止む無き事!」


 至高っていうか嗜好じゃない。あー、もうどうでもいいわ。


「はいはい。帝国ごっこ頑張ってね。密漁っていうかライノ狩りもあと一匹で終わるから。最強のあてん何とかと一緒に帰ってちょーだい」


 相手してらんないわ、とばかりに手を振るアタシ。聖女ちゃんは優しく話を聞いてあげようとしてたけど、アタシはそんなつもりはない。


「あの……そういう事ですので。無理をなさらずに頑張ってくださいね。ワニさんの傷は癒しておいたので、お気を付けて」


 言って頭を下げる聖女ちゃん。さっき倒した溶岩ワニの傷を【ヒーリング】で癒すとか、どんだけ優しいのよ。


「がー」

「おおおお。パピ子! 帝国最強のアテンダントが復活した! なんとお優しい! アナタこそ、我がブレナン帝国に舞い降りた聖女に相違ない! 抱いた赤子は神の血を色濃く残す救世主か!」

「はあ……。その、どうも」


 9割近く正解してるわね。聖女だし神そのものだし。なんだかんだで何度もかみちゃまに助けられたから救世主だし。


「聖女様、お名前は? ウィの名はガドフリー・ブレナン三世。ブレナン帝国の帝王としてこの地を守っております」

「あ、十六夜琴音です。こちらは朝霧桃華さん。この子はレイです」


 いきなり初々しく胸に手を当てて自己紹介するじーさん。かみちゃまの偽名に関しては何かあった時用に相談して決めたモノだ。何とかレインだからレイ。単純よねー。


 偽名を決める際に二文字にしないとトーカさんが忘れそうですから、とか言われたけど風評被害よ! アタシそこまで物覚え悪くないもん!


「イザヨイ・コトネ……素晴らしい聖名みなです。世界を照らすにふさわしい。帝国の名とともに、その名前も永遠に世界に刻まれましょう」


 芝居かかった口調で膝をつきて、聖女ちゃんの手を取るじーさん。そして、


「コトネ、貴方を我が帝国の妃にお迎えしましょう。我が花嫁となり、帝国の初代女王となる栄誉を与えます!」


 ものすごい熱量でそんなことを言いやがった。


「おいこら」


 間髪入れずにじじいを蹴っ飛ばすアタシ。何言ってんだコイツは。


「ぬぉう! 何をする小娘! 我がブレナン帝国の歴史的な一幕に邪魔をするとは! 礼節を欠く娘だとは思っていたがここまで場の空気を読まぬとは! 親の顔が見てみたいわ!」

「いきなり花嫁にするとかわけわかんないこと言ってんじゃないわよ! 空気読まないとか親の顔が見てみたいとかこっちのセリフよ!」


 イライラして、思ったことをそのまま返すアタシ。なんなのよこのじじいは!


「王に求愛されることがどれだけ幸せか分からぬのか貴様! しかもブレナン帝国の王にその素質を見出されての選出!

 ブレナン帝国ならずこのミルガトースの歴史においてのターニングポイントともいえるシーンが理解できぬとは! 学のない子供はこれだから困る!」

「じじいの妄想は勝手にしていいけど、つまんないこと言ってると蹴っ飛ばすわよ! いきなりそんなこと言われて嬉しがるとかどんだけおとぎ話なのよ!」


 反論するじじいに顔を近づけ言い返すアタシ。聖女ちゃんに近づけないように庇い、唾を飛ばして激論する。


「すでに蹴られたでちけどね。なんとかが馬に蹴られるごとく」

「その……トーカさんが怒ってくれるのはすごく嬉しいんですけど、さすがに老人を蹴っ飛ばすのはさすがに……」


 後ろにいるかみちゃまと聖女ちゃんがそんなことを言っているけど、後回し。


「妄想とは失礼な! 我が帝国を侮辱すると10万を兵士を敵に回すことになるぞ! それでもいいというのか!」

「はん、10万程度ならこの前倒してきたわよ。もう一桁増やして持ってきなさい!」

「あれはトーカさんが倒したわけじゃありませんけど」

「むしろ歌っていただけで1体も倒していないでちけど」


 後ろ、うるさい。アタシが重要ポジだったことは変わりないんだからいいの。


「ぐぬぅ! あくまでブレナン帝国の繁栄を阻もうというのだな! 神聖なる神の血を絶やせば世界は滅びるのだぞ! 貴様の行為は世界を破滅に導くというのに!」

「神聖と神がかぶってまーす。学がないのバレバレー。妄想ばっかりで現実見てないからそんな頭が悪いのよ。少しは勉強する事ね。具体的には常識とか!」

「口の減らない小娘め! 貴様のような矮小な考えを持つ者と、世界を背負う帝王のどっちが大事だと思っておるのじゃ!」

「何が世界よアホらしい。アンタとこの子がと結婚しないと滅びる世界とか、とっとと滅べばいいのよ!」


 アタシは聖女ちゃんを守る位置に立って腕を組んで、迷うことなくじじいにはっきりと言い放った。


「この子はアタシのモンなんだからね! 花嫁にするとかアタシが許さないわよ!」


 

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