2:メスガキはじーさんに喧嘩を売られる
悲報、よくわからないことを言うじーさんに絡まれた。
「貴様らのような卑怯千万なる輩を相手に遠慮など不要だが、あえて正々堂々挑むことにより王の威光を示す。王が法を守ることで付き従う民も安堵するのだ。
さあ、古の法則に従いアテンダント同士で決着をつけようではないか!」
王。古の法則。アテンダント。
全然意味わかんない。前も言ったけどグランチャコには大きな町はない。当然、王国とか帝国なんてのもない。人だってそんなにいないんじゃない?
古の法則。どうやらそれに従うなら、じーさんと戦わなくちゃいけないらしい。ただ、アタシが戦うんじゃなくて、アテンダント? それで戦うとか?
「アテンダント……接客係とかお供とか言う意味ですね」
「その通り! 心を通わし、誓いを交わした従者の事よ! 王たる存在の威光を示すにふさわしい決闘法だ!」
「んんんん……? もしかしてテイマー系? しかも動物系の?」
聖女ちゃんの言葉とじーさんの格好から推測できるジョブを言ってみる。腰にある鞭は『獣使いの鞭』だ。動物系モンスターのテイム成功率を引き上げる品である。あとはお供とか従者とかその辺から判断した。
「世間一般的にはそうともいうらしいな。しかしあえてこう言おう!
某はアテンダントマスター! 百獣を統べるブレナン帝国の王であると!」
胸を張って威張るじーさん。いや、そうともいうんじゃなくて、そうとしか言わないのよ。アテ何とかとか言わないのよ。
「あの、テイマーって何です?」
「モンスターを仲間にして戦うジョブの事よ」
ゲームの知識がない聖女ちゃんに答えるアタシ。
テイマー。フィールドにいるモンスターに話しかけ、自分の思うとおりに飼いならすジョブね。ファンタジー系RPGとかMMOでは割と一般的なジョブで、<フルムーンケイオス>でもこの手のジョブは存在するわ。
テイマー系ジョブは『ビーストテイマー』『バグテイマー』『ネクロマンサー』などがあって、それぞれ【動物教育】【虫教育】【死者操作】などのスキルがある。そのレベルを上げていくことで使役できるモンスターのレベルと数が増えていくのだ。
とはいえ使役するのは楽じゃないわ。使役条件は残HPが1割以下になってから。要するに、殺す寸前まで痛めつけてからでないとテイムできないのだ。テイム時間は15秒(アビリティ等で短縮可能)。テイム時間の間も攻撃されるので、下手するとそこで死んじゃうわ。
テイムできたとしても本人のスキルやレベルが低ければ命令を聞かないこともある。しかもテイマー自身はレベルが上がってもステータスはあまり伸びない。……まあ、それでも幸運以外の伸び率は遊び人よりは多いのがムカつくけど。
「少なくともアテンダントマスターなんでジョブはないわ」
「本来アテンダントは人間にあてる言葉ですからね。基本的には係や役職の意味ですし」
「ええええい! 黙れ黙れぇ! 王がそう定めたのだからそれに従え! 郷に入っては郷に従うという言葉を知らんのか最近の若いのは!」
アタシと聖女ちゃんの指摘に、いきなりキレ散らかすじーさん。
「うわめんどくさい老害ね。自分ルールを他人に押し付けるとか迷惑でしかないとか気付かないの?」
「年配が作ったルールには意味があるのじゃ! まだ幼い脳では理解できなかろうが、従っていくうちに理解できる!」
「それってブラック法律に従って頭が摩耗してだけじゃない? 考えるのを放棄して従ってるだけの脳味噌で作ったルールとかこっちから願い下げよ」
売り言葉に買い言葉。キレたじーさんに反撃するアタシ。
「そもそも年配ってだけでむぎゅ」
「落ち着いてくださいトーカさん。今の論点はそこではありません。
ブレナンさん。先ほどおっしゃった密猟者とはどういう事でしょうか? この世界ではサイを狩るのに許可が必要なんですか?」
さらに畳み込もうとするアタシの口を押える聖女ちゃん。そのまま聖女ちゃんはじーさんに問いかける。そう言えば最初はそんな感じで絡まれたんだっけか?
「当然じゃ。狩りという行為を否定はせぬが、過剰な乱獲は自然に影響を及ぼす! 王である偉大なるブレナン三世はそれを憂いて、愛馬ジムニーと共に日々グランチャコを巡回しているのだ!」
その二足歩行恐竜、馬じゃないじゃん。ツッコミたい雰囲気を察したのか、聖女ちゃんが口元を抑える力が増した。ちょ、鼻まで押さえないで、呼吸、呼吸!?
「この草原をですか? 国主自らが土地を守るために粉骨砕身しているのですね。ご苦労様です。
事後になりますが許可をいただけますか? できればその帝国の事も教えてほしいのですが」
へりくだって優しく言う聖女ちゃん。こんな老害じーさんを調子づかせるとろくなことないんだけど。そんな事より、そろそろ……口元!? 息させて……!
「聡明だな娘よ。礼節正しく目上に対する態度も正しい。年上に対する敬意も怠らず、それでいて端正な顔立ち。そこの娘とは大違いだ。
いいだろう、ブレナン帝国のことを教えよう。しかしそれを語るには多くの時間が必要になる。このような場所で立ち話するわけにもいかないからな。我が帝国まで案内しよう」
「あ……そうですね。ご厚意に感謝します」
言って頭を下げる聖女ちゃん。口元を抑えられたまま、アタシも頭を下げさせられた。なんでこんなのに頭下げんのよ! って言うか、そろそろ……ヤバ――
「ひゃああああ!? ちょ、トーカさん何処揉んでるんですかぁ!? そういうことはきちんと手順を踏んでください!」
朦朧とする意識の中デタラメに手を動かしたて力を込める。手応え的に柔らかかったけど、気にしてる余裕はない。大きく息を吸い込んで、呼吸を整える。手順踏んだらいいの、とか思ったけど今はそれどころじゃないわ。酸素を吸い込み、思いっきり叫ぶ。
「知らないわよ! っていうか口と鼻が塞がれて結構危なかったんだから!」
意識がはっきりしてから叫び返すアタシ。その言葉に聖女ちゃんは胸を抑えながらアタシが呼吸できなかったことに気づいたようだ。申し訳なさそうな顔になって口を開く――
「おのれ不埒もの、女性の胸に何たることを! 生命を象徴する女性の胸を乱暴に扱うなど万死に値する! 貴様のような輩がいるから悪は途絶えないのだ!」
――より前にじーさんがアタシを指さし叫んだ。はぁ? 何言ってんのよ。
「何よ。別にやらしい目的でもんだんじゃないからいいでしょうが。っていうか偶然胸に触っただけで悪人認定とかどんだけなのよ」
「偶然であろうとも故意であろうとも同じことだ!
生物学的に女性の胸が大きくある必要はないッ! だがしかし、神は女性の胸を大きく作りたもうた。体内の脂肪を美しい球状に作り出し、見るものを魅了する素晴らしき機構! 質感も素晴らしく抱擁による癒しはあらゆる治癒を凌駕する! そう、女性の胸とは! まさにっ! 神の造形なのだッ!」
メチャクチャ熱く語りだすエロじじい。アタシは怒りよりも呆れが前に立ち、赤ちゃんのふりしてるかみちゃまに問いかける。
「神の造形なんだって」
「ノーコメントでち」
じじいに聞こえないように小声で言って顔を背けるかみちゃま。同意されても困るけど、こんな話。
「本来ならアテンダントのない相手に攻撃を仕掛けるのは王の作法ではないが、相手が神の造形を無下に扱う悪魔なら遠慮はいらぬ!」
「本物の悪魔もこんな扱いされたら怒り狂うでしょうね」
「あくまで比喩表現の悪魔という事で」
呆れるように言うアタシに同じく呆れるように言う聖女ちゃん。アタシの頭の中でSD化した悪魔三名が抗議していた。
「出でよわがアテンダント! 溶岩より産まれし赤き鱗持つ覇王! その牙をもってすべてをかみ砕くがいい!」
は? 溶岩で鱗を持ってるって、もしかしてドラゴン!? ビーストテイマーって勝手に思ってたけど、実はレアジョブのファンタズムテイマーだったの!?
まずい。レベル90台のファンタズムテイマーだったら、運と努力で110レベルの
「がー」
…………。
じーさんの足元から現れたのは、赤い皮膚のワニだ。ラヴァクロコダイル。火山エリアに生息する種族動物モンスターだ。レベルも40レベル。牙に炎を纏わせて攻撃力を増したり火属性に耐性があるぐらいで、対策を取ればあんまり強くない。
「どうだ! 獰猛な牙に恐れ入ったか! あらゆる炎をものともせず突き進む不死身のアテンダントだ! 我がブレナン帝国最強の獣の姿を前に。恐怖におののくがいい!」
「……あー。このワニが最強なんだ。スティールライノは51あるんだけど? そいつはテイムしないの?」
「ふ、できるならやっておる。しかし今は時ではないという事だ」
あ、レベルが足りないのね。
「襲ってくる以上は倒すわよ」
「流石に仕方ありませんね……」
アタシの言葉にうなずく聖女ちゃん。スティールライノよりもレベルが低い動物に手間取りはしないわ。
「おおおおおおおお!? 帝国最強の、アテンダントが……!」
あっさりワニを倒すと、じーさんは崩れ落ちるように跪いたわ。らくしょー。
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