8章 メスガキと草原の王国
1:メスガキはサイを狩る
グランチャコ――
そう呼ばれる地域に町はない。アウタナ地方みたいに所々村のような休憩所がある程度の大地だ。広大な草原と、ぽつぽつ生えた木。そして野生動物。そんな地域ね。聖女ちゃん曰く、
「サバンナですね。グランチャコはアフリカ南部に長く伸びる半砂漠地帯です」
なんだって。アフリカっぽいと言われればそんな感じ。アフリカってよくわからないけど。
ムジークを出たアタシ達が向かったのはこのグランチャコ。目的はゴールデンライノと呼ばれるモンスターだ。金サイと呼ばれるモンスターのドロップアイテムが高く売れるので、それを狩りに来たのである。
ただ簡単には出てこない。一日一回出会えればいいや、程度の確率だ。
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名前:スティールライノ
種族:動物
Lv:51
HP:152
解説:硬い皮膚を持つサイ。突撃し、その角で鎧に穴をあける。
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一般的に出るのは鋼サイと呼ばれるコイツだ。硬い上にHPも高く、更には【角突撃】を使ってくる。5マス移動+その間にいるキャラ全員に防御無視攻撃という面倒なヤツで後衛まで一気に突撃してくる後衛キラー。アタシも聖女ちゃんも一気に壊滅だ。
「やーん。硬くて太いのに貫かれたら、トーカ壊れちゃうよぉ……」
なんで見た瞬間に攻撃が基本。『黒蝶セレナーデ』を着て【笑裏蔵刀】を使うクリティカル攻撃。ドレス効果で<魅了>して同士討ちさせるわ。仲間同士で戦ってちょーだい。
「ありがとー。じゃあおやすみ」
で、最後に残って疲弊した奴にトドメ。聖女ちゃんの【神の鉄槌】でダメージを入れて経験点ゲットよ。
「今更ですけど……同士討ちさせて最後にとどめを刺すのは罪悪感が……」
「いいのよ。<魅了>される方が悪いんだから。アタシみたいなカワイイ子に騙されて死ぬんだから本望よ」
動物は精神系バッドステータスの回復率が低いもんね。<フルムーンケイオス>でも割と使われる戦術よ。あくまで低いだけだから、稀にすぐに回復することもあるわ。そん時は素直に逃げる。
「金サイ見つけたぁ!」
そうこうしていると体が金色に光っているサイを見つける。アタシは喜び勇んでそっちに走っていく。
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名前:ゴールデンライノ
種族:動物
Lv:54
HP:164
解説:金色に輝くサイ。その角は非常に高く売れると言われている。
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鋼サイと違うのは逃亡率の高さ。HPが3割を斬ると【角突撃】を使ってそのまま走り去ってしまうのだ。複数で囲もうがそれを強引に突破するので、戦士系だと倒すのは難しいわ。
でもバステは効く。なんで基本戦術は変わらない。<魅了>して周りのサイと戦わせ、最後の一撃はこっちでやる。それだけよ。
「そんなキラキラしたので突かれたら、ダメになっちゃうの……許して……」
そんなセリフと共に放たれたアタシの攻撃。それで<魅了>されてサイ同士で戦い始める。ああ、アタシの魅力が怖いわ。アタシの為にもっと戦え。
「よしよし。金角ゲット! これで7本目! これで四男オジサンに借りたお金は返済できそうね」
ムジークに行く際にオジサンに借りたお金はこれでどうにかなりそうだ。あと今後の事を考えてもう少し稼いでいったほうがいいかも? でもサイ相手だと経験点の実入り低いしなぁ……。
「悩むわねぇ。もう少しサイで稼いでいくか。それともレベルアップするために移動するか」
「個人的にはあまり気持ちのいい戦い方じゃないので、そろそろ終わりにしたいんですけど」
グランチャコに来て8日目。ずっとサイばかり狩っているのだ。戦い方云々はさておき、飽きてきたのは事実である。
「そうね、いったん終わりましょ。<収容魔法>の中もサイの角ばっかりだし。金じゃないけどこれもそこそこの値段で売れるから、金策は十分ね」
「サイの角は生薬に使われるなどで乱獲されましたからね。今ではサイは絶滅種として保護対象です」
「こっちの世界だとどんだけ狩ってもすぐに増えるけどね。その辺どうなの、かみちゃま?」
アタシは聖女ちゃんに抱かれているかみちゃまに問いかける。人がいないから何とかエナジーの補給ができないとか。見た目は赤ちゃんなんで戦闘に巻き込むのは危険に見えるけど、一応神なんで普通の魔物では傷つく事はないとか。
「モンスターは土地に紐づき、そこに流れるエネルギーから生成されまちゅ。その流れが止められない限りは途絶えることはありまちぇん」
「無限沸き? それって倒す人が居くなったらいずれ埋め尽くされちゃうってこと? この前の10万人天使大行進みたいに」
「そうならないようにお母様は計算していまちゅ。モンスターが一定数増えればエネルギーはせき止められまちゅ」
つまり、この前のムジークみたいに町がモンスターで埋め尽くされることはないわけである。まあ、あんなことそうそうあってたまるかって話だけど。
「仮に無限に資源が沸くのなら、経済はその前提で動きます。少なくとも私達が知る貨幣制度は成り立たないでしょう」
「そんなものなの?」
「はい。物の価値は需要と供給のバランスです。物がありすぎれば価値は下がり、少なすぎれば誰もが求めて高騰します。他にも様々な要因はありますが、バランスが崩れれば経済は崩壊します」
「ふーん」
あまり興味がわかないので、適当に聞き流すアタシ。ゲームだとモンスターは無限に沸くし、お金もカンストするまでは稼げる。時間さえかければそれこそ無限に物資は湧いて出るのだ。
「金が高値で売れるのは金という物質の普遍性もあるでしょうが、金の数が希少であることもあります。数が少ないという事はそれだけで価値があるんです」
「確かに金サイはめったに出ないわよね。だから高いってこと?」
「そうですね。金そのものの価値と世界に流通している数。それを求める人達を始めとした世界そのものの動き。それが物の価値を決めるんです」
金はピカピカしてきれいだから高い、というわけではない。腐らなかったり加工しやすかったり工業でつかったりと様々な利用価値があるから高いのだ。そんな便利だけど簡単に手に入らない。だから高い金を払ってでも買いたいから値段が高くなる。
「……って解釈であってる?」
「はい、おおむねそんな感じです」
頷く聖女ちゃん。毎回思うけど、この子なんでも知ってるわよね。ほーんと、凄いわ。
「ま、ゲーム設定あるあるよね。ダンジョンに入るたびに宝箱が復活してるとか。お店でどれだけポーション買っても尽きないとか。気にしてたらキリがないわ」
その辺をリアルに追求し始めたらきりがないわ。ファンタジーなんでそんなもんだとふんわり受け流して楽しむのが一番である。
「じゃあ最後にひと稼ぎしましょ。次に金サイが出たらおしまいってことで――」
「そこまでだ、密猟者!」
アタシの言葉を遮るように、声が響いた。
これで何処かの高台から見下ろして飛び降りてくるならまあカッコいいんだろうけど、あいにくとここは見渡す限りの平原。叫んだ方向を見れば走ってくる何か。
二足歩行の恐竜のような騎乗生物に乗り、鞭を腰につけている老人だ。頭は完全に禿げ上がり、その分白いひげが生えている。恐竜自体は<フルムーンケイオス>でもあった騎乗ユニットだ。お金を払えばアタシでも乗れるわ。
たっぷり10秒ほどそいつがこっちに来るのを待つ。そして恐竜から降りて、アタシを指さしハゲじじいはこう叫んだ。
「自然を乱す悪漢共! ここであったが百年目、この偉大なるブレナン帝国の王であるガドフリー・ブレナン三世が相手してやる!
さあ、お前のアテンダントを出すがいい!」
……なんなの、このじじい?
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