24:メスガキは説明する
バグ技。
ざっくり言うと、ゲームにおけるプログラムのミスを利用した技ね。ゲームを作った側も予期していない現象よ。
対する言葉として裏技があり、こっちは意図して隠してあったコマンドや仕様よ。うえうえしたした? 8回逃げるとぜったいかいしん? そんな技。
ちなみにチートは作ったプログラムに外部からコードを入力して改造したりするズル行為。お金が最大になったりレベルとかステータスがとんでもないことになったり。ネットゲームにもあり、運営に見つかったら一発でアカウント停止。チート使用、ゼッタイダメ!
話をバグ技に戻すと、バグ技はゲームのミスだ。ゲームを販売したい公開したりする前にそう言ったミスは見つけ出し、改定していく。デバッグ? なんかそういうのを繰り返してバグはないようにしてから世に出る。
だけど絶対はない。どれだけチェックしようとも、チェック漏れはどこかに生まれてしまう。プログラムが複雑であればあるほど、どこかにミスは埋もれてしまうのだ。
<フルムーンケイオス>でもバグ技はあった。アタシがゲームをやる前に消えちゃったけど、アイテムを使っても消費されないバグがあったという。
いわゆる無限アイテムバグね。増やしたいアイテムを<収容魔法>の二番目に起き、一番先頭にアイテム数を512個。増やしたいアイテムを挟んで三番目に一番目と同じアイテムを512個を持つ。
あとはフィールド状のとある地点を探して間に挟んだアイテムを使用すればいい。その場所は常に移動するが、アビリティを使うと使用者の8歩先に移動する。自分を中心とした8×8のどれかに『アイテムを使用しても消費されない』エリアが発生するのだ。
確率は64分の1。運が良ければ一発で見つかるし、運が悪ければ延々と当たらない。だけど当たればアイテムを使用しても消費されない。それを使えばMPポーションを無限に飲み続けて、無限に天使を呼ぶこともできるだろう。
世界は私を認めない。そりゃそうよね。そんなバグ技認めたらゲームにならないもん。全部消えて、サヨウナラ! バグ技を悪用するアカウントは凍結されてBANされるわ。
「――でな感じだけど」
当たり前なんだけど、アタシの考えを聞いた人たちは微妙な顔をした。
「バ、バグ……?」
先ずこの世界の人達はバグっていう概念が理解できない。そりゃそうよね。自分がゲーム世界を模して造られた(かみちゃまはどっちが先かは分からないと言ってたけど)とか理解の外よ。アタシだって自分が誰かが書いたWEB小説の人物だって言われても、絶対に受け入れられないわ。アタシ思うゆえにアタシなのよ。
「あー。ええと、ゲーム?」
アイドルさんはこの手のゲームをやらないのか、バグ技の事を知らなかった感じね。でもアリナシで言えばアリ? って顔をしている。どちらかというと、異世界転生したみたいに、理不尽だけど受け入れるしかないって顔だけど。
「巻き戻しとアカウントBAN。そして詫び石と言ったところだな。ふ、新規システムにはよくあることよ」
そして相変わらずなんだかよく分からないことを言う鬼ドクロ。こいつは理解したみたいね。そう言えばゲーマーっぽいこと言ってたわ。陰キャで協力プレイとかしそうにないけど。
ただ――
「とっくに修正されたバグなのよね。そもそもあのエンジェルナイトもわけわかんないわ。話を聞く限りではその司祭も大量に天使を呼び出して聖歌アビリティを使っただけっぽいし」
仮にその話がバグ技を使用してやったこととはいえ、それはとっくに修正されていることだろう。もう使えないはずだ。
仮に未だにその仕様が残っていたとして、アビリティで召喚された天使は人を襲ったりはしない。あんなふうに口悪く罵ってくるとかもあり得ない。
結局『昔に天使が大量召喚される事件があって、その原因はバグ技っぽい』という事が分かっただけである。それが今のこの事態とどう関係あるのか、そもそも関係あるのかどうかも分からない。
「ええとええと? ……そのバグ技? それって要するに場所が大事ってことでいいよね? アンサーアンサー」
「そうであろうな。いわゆる位置バグだ。推測だがアビリティ使用とレアアイテム習得率が連動する仕様で、それにアイテムコードが引っかかったと言ったところだろう」
アイドルさんの質問に鬼ドクロが答える。相変わらずよくわかんないことを言ってるので、そこはスルー。
「ギルマスギルマス。確か音楽ギルドって、その司祭が天使を大量に召喚した場所に建てたんだよね? だよねだよね?」
「そうね。初代のギルドマスターからそう伝わってるわ。聖なる場所を守るため、という意味あいなのだと思ってたけど……」
「うんうん。アミーちゃんも聖地にギルドを建てたって思ってた。だけどバグ技? その行為が認められない行為だって言うんなら、むしろその場所を隠すためなんじゃないかな? 臭いモノにフタをするってね。どうどう?」
アイドルさんがメガネ女に向かってそんな質問をする。メガネ女は慎重にそれに答えると、アイドルさんがさらに問い返す。
「……それは……そうでしょうね。ありえると思います」
かなり葛藤したのちにメガネ女は頷く。それまでは美談という感じの自分の組織の成り立ちが、実は犯罪的な行為を隠すためだった。その価値観の崩壊を受け入れて、冷静さを失わない。緊急事態だからという事もあるけど、結構すごくない?
「つまり、その場所に何かあるかもしんないってこと?」
「かもかも。他に手掛かりないしね。このままここで防衛してもいいんだろうけど、ギルドに行ってみるのもいいんじゃない? アイドルは常に最前線! アミーちゃんは待つよりも攻め攻め系! ゴーゴー!」
アタシが話をまとめると、アイドルさんはこぶしを握ってポーズを決めた。実際、何かあるとすればそこだろう。何もないかもしれないけどここで閉じこもっても事態が解決するとは思えない。
「回避カウンターなんだからどっちかっていうと受け系なんじゃないの? その格好で男っていうのは確かに攻めてる気がするけど。足の毛も剃ってるとかどんだけよ。もしかして下着も攻め攻めにキメてるの? うわヒクわー」
でも素直に納得するのはなんかしゃくに触るので、ちょっと思ってたことを言ってみる。
「ふっふっふ。そこを追及するとはいい度胸だな。ちょっとアミーちゃんガチキレしそうだよー」
「やーん。もしかして下着は事実? ヘ・ン・タ……あれ、何、持って……る……の?」
アタシの軽い会話に目が座った感じで笑うアイドルさん。アタシは攻めどきとばかりに更に言葉を重ねようとして、<収容魔法>の中からアイテムを取り出すアイドルさんを怪訝な目で見た。何かを取り出し、アタシに近づけてくる。
バケツ。
あれ? なんかよくわかんないけど声が出ない。自分でもよく分からない何かに締め付けられてる気がする。あ、まって。よくわかんないけどそれはだめ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。歯がかみ合わない。呼吸が整わない。視界が安定しない。なんでなんでなんで? さからえないさからえないさからえない――
「やりすぎです。アミーさん」
後ろから抱き寄せられて、バケツを遠のかされる。足の力が抜けて、抱き寄せた相手に体重を預けた。自分でもよく分からない汗をぬぐって、少しずつ呼吸を整える。
「うみゅううみゅう。確かにやりすぎた。ごめんごめん」
「今のはトーカさんにも問題がありましたしお互い様という事で。大丈夫ですか、トーカさん」
「うん。……うん」
アイドルさんを窘める聖女ちゃん。アタシはいつの間にか戻ってきてた聖女ちゃんに頭を撫でられながら、力なく頷いていた。どうやら聖女ちゃんに助けられたらしい。体に力が入らないので、そのまま温かい感覚に身を任せる。
「――話の流れはわかりました。トーカさんが復活次第、音楽ギルドに向かいましょう」
「だねだね。ギルマス、悪いけど防衛は任せたよ。何かあったら連絡するから。本当は囮とかやった方がいいんだろうけど。お任せお任せ」
「ふ、歴史に名を遺すつもりはない。我も影として事態解決に向かおう。刃はただ斬るだけが役割よ」
アタシ抜きでいろいろ話が決まってるけど、口を出す気力はない。眠いほど力抜けてるけど、激しい心臓の鼓動が眠らせてくれない。もー、好きにしてって感じで目を閉じた。
まあ、だからって言い訳する気はないんだけど。
――厨二悪魔がいなくなってることに、この時誰も気づかなかったのである。
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