17:メスガキは心配される

 コンサート期間後半戦開始。そこからもアタシは舞台で豚……観客たちを魅了し続ける。


 レベルアップして【着る】のレベルを上げたことで【ドレス装備】が可能になり、ゴーストミュージアムで稼いだおかげでドレスも二着ほど買うことができた。


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★アイテム

アイテム名:黒蝶セレナーデ

属性:ドレス

装備条件:魔法系ジョブレベル45以上 or 【ドレス装備】習得

耐久:+30 速度:+20 <耐性>闇属性:50% クリティカル発生時、対象に<魅了>を付与する


解説:夜に歌う貴婦人のドレス。窓辺で恋を歌う黒い蝶。


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 闇耐性の黒ゴシックドレス。対になる白ドレスに『白蝶オーバード』がある。これを歌に合わせて【早着替え】することで白黒ゴスロリなアタシを見せることができるわ。


 黒ドレスはクリティカル時、その攻撃を受けた相手を<魅了>するわ。なんで? って思って聖女ちゃんに聞いたら『セレナーデは恋人を褒めたたえる歌だからじゃないですか?』って帰ってきた。ほへー。


 でも<魅了>するってことは恋人を引き裂くから、どっちかっていうとNTRじゃない? アタシ子供だからNTRとかわからなーい。


 ともあれこれは何がいいかって【笑裏蔵刀】でクリティカルを自由に出でるので、狙ったタイミングで相手を<魅了>できることだ。攻撃力の高いモンスターを<魅了>して暴れさせて、弱ったところをとどめを刺す。そんなこともできるのである。


 でもまあ、それをするのはまだ先。コンサートにおいてはアタシの衣裳の一つ。歌のサビに差し掛かったところで派手なエフェクトと共に黒ゴシックに入れ替わる。ついでに【笑裏蔵刀】を使って笑みを浮かべてあげるわ。意味はないけど。


「ぶひひひひひひひん! トーカ様サイコー!」

「ぎゃあああああああ! もっと微笑んでー!」

「今俺の方を見た! 幼女の微笑みゲット! ヒャッホー!」

「我が人生に一片の悔いなーし!」


 なんか客のノリがいつもより激しいんだけど……<魅了>とかかかってないわよね? 攻撃とかしていないんだから、大丈夫だよね? いや、むしろ素でこの反応だっていうほうが怖いんだけど……気にしたら負けってことで忘れよう。


 そんなこんなで新装備を引っ提げて五日間歌い続けたアタシ。コンサート期間も終わって集計期間に入る。一日後に結果が出るんで、またまた聖女ちゃんと一緒にレベル上げよ。


「トーカさん、突破できるでしょうか?」

「ヨユーよ。アタシの可愛さを理解しないとかありえないわ」


 ゴーストミュージアムの舞台でアタシは聖女ちゃんと会話をしていた。アタシが囮で聖女ちゃんがアタッカー。アタシは夜蝶セレナーデを着て、魅了して動きを封じたりしているわ。


「その割には結構そわそわしてまちゅけど」


 かみちゃまがつまらないツッコミを入れる。半透明のバリアに入ってプカプカと宙に浮いている。かみちゃまの事を知らないと見えない認識阻害(これもデミナルトとかの応用らしい)をしているので、街中でも驚かれることはないという。


「してないわよ。アタシが受からないわけないんだもん。むしろ気になってるのはコイツらがここにいることよ」


 言ってアタシは横を見る。そこには日本刀を振るっている鬼ドクロがいた。角が生えたドクロ兜に黒い着流し。日本刀を持ったその姿は和風アンデッドだ。事実、こいつは装備品の呪いでアンデッド状態。


「ふ、我は死。死の歩みはどこにでもある」

「いや、アンタ即死特化構成じゃない。アンデッド相手だと相性最悪だって自分でも分かってるでしょうに」

「ワシの心配をするか。それこそ笑止。死からは誰もが逃れられん。死の技など付属品にすぎぬ」


 鬼ドクロのアビリティはバステ付与と即死攻撃がメインだ。即死が効かないアンデッド系モンスターにはその辺りが死に状態になる。


 ただ完全に無能というわけでもない。【呪詛同調】で呪い武器防具を装備したときにステータスにプラス補正を受けるし、バステを与えた相手への攻撃力を増す。そもそも素のレベルが高いから、ゴーストミュージアム内の敵は普通に攻撃しているだけで対抗できるのだ。


「要するに低レベルモンスターを倒してイキってるだけじゃない」

「生物としての強弱に意味はない。死を与える者は常道に取ら荒れてはならぬのだ。己のゆくままに歩み、平等に死を与えるのみ」

「つまり適当ってことね」

「身も蓋もないですよ、トーカさん……。少しは遠慮というか配慮というか……」


 アタシのツッコミにため息を返す聖女ちゃん。遠慮も配慮もアタシの辞書にはない単語なのよ。


「そうそう。そういう性格悪いキャラはさじ加減が必要なんだぞ。我が強いキャラはファンを選ぶからね。難しい難しい」

「そしてなんでアンタもいるのよ」


 そしてさも当然とばかりにアタシの隣にはアイドルさんがいた。ゴーストミュージアムにレベルアップしに来たというよりは、アタシの戦いを見に来た感じだ。時折アイドルさんを狙うゴーストをカウンターで倒すぐらいで、積極的に戦うつもりはない感じだ。


「やんやん。邪険にしないでよ。一応は君に訓練した師匠なんだぞ。弟子の様子をうかがうのは当然の権利なのさ。わかるわかる?」

「アイドルって暇なの?」

「ノンノン。オンオフの切り替えは大事なの。アイドルする時はめいっぱいアイドルして、オフの時はおもいっきり遊ぶ。でもスキャンダルにはご用心。困った困った」

「勝手に困っててどうぞ」


 推定レベル90超えの『夜使い』と『妖精衣』。はっきり言ってゴーストミュージアムなんか遊び場だ。せいぜいがレアモンスターを狙うぐらいである。ホント、何しに来たんだか。


「まあまあ、トーカさん。お二人ともトーカさんの事を心配してきたわけですし」

「アタシがレベルアップでミスるとかありえないわよ」

「そちらではなく、発表のプレッシャーで不安がってないかの方です」


 聖女ちゃんの指摘。それを聞いてもう一度二人の方を見る。


「夜のドレスを纏う闇の同胞。その心に陰りが見えるなら、ワシはそれを払う刃となろう。気付かぬうちに浸食する不安あるならば、傍に立つ者としてそれを阻もう」

「そういうことそういうこと。なんだかんだで初めての大会だしね。不安があるのは当然だもん。こういう時は一緒に騒いで不安を消すのが一番なんだよ。仲間は大事だね。いぇいいぇい!」


 鬼ドクロはさも当然とばかりに胸を張り、アイドルさんはいえーいとばかりにピースサインをする。ったくこいつらは……。


「勝手な心配御苦労様。あいにくとアタシが合格するのは確定なんだから心配なんてしてないわ。モヤってなんかないから好きにしなさい」


 大げさにため息をついて、好きにしなさいとばかりに背を向けるアタシ。邪魔するわけじゃないみたいだし、説得する時間ももったいない。


「うんうん。予想通りの反応だね。本当に不安もないしアミーちゃん達が邪魔なら、どっか行ってってはっきり言うはずだし。このツンデレツンデレ!」

「孤独ゆえに強くなる者もいるだろう。しかし孤独のみで得られる強さに限度もある。それを知る同胞ならば最善の道は理解できよう」


 ……なんか意味不明な事を言われた。ツンデレ違うし、同胞違うし。だからこいつらの意見は筋違い。追い払わないのは面倒なだけだし、最善の道は無視することなだけ。スルースルー。


「よかったですね、トーカさん」

「この異色パーティのどこがよかったなのよ」


 そしてさらに勘違いする聖女ちゃん。いや違うから。女装アイドルにドクロサムライに勘違い聖女に赤ちゃんにカワイイアタシ。誰がどう見てもちぐはぐだ。まともなのはアタシだけ。あー、もう。


「明日は合格してトーナメント戦も圧勝して、『ティンクルスター』もらって一気にレベル上げる。それ以外の未来なんてないの。だから不安とかぜーんぜん感じてないんだから」


 そのためにもレベルアップ。トーナメント戦中にも上げて、アイドルさんに対抗できるぐらいにしておかないといけないの。こんなところで仲良しこよしごっこしてる暇なんてないわ。とっとと目の前のエンジェルナイトを倒して――


「……は?」


 アタシの目の前に現れたのは白い羽を生やした剣士。ゴーストミュージアムにいるはずのないモンスター。アンデッドな洋館に天使。レベル80と明らかにゴーストミュージアムでもオーバースペックな存在。場違いにもほどがある。


 その場違いな魔物――エンジェルナイトは、アタシめがけて手加減なく白刃を振り下ろした。

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