16:メスガキは絶好調
『ゴーストミュージアム』でのレベルアップは続く。効率を考えて、場所をエントランスから舞台に移してアタシ達は暴れていた。
暴れると言ってもダメージリソースは聖女ちゃんだ。【聖魔法】を6にしてもらって、【神の鉄槌】を覚えてもらう。吹き飛ばし効果付きの聖属性攻撃魔法。位置移動ができるので壁などを利用すればうまくハメることができるわ。
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★アビリティ
【神の鉄槌】:罰するも神に仕える信徒の役割。扇状に吹き飛ばし効果を持つ聖属性攻撃をする。
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まあその、覚えてもらうまでにいろいろトラブルはあったけど。
「ジョブをあげるために宿に戻るとかめんどくさくない?」
「あんな感覚に襲われてるところを知らない誰かに見られたくないです」
「でも時間がもったいない――」
「見られたくないです。それとも、トーカさんは私のそういう所を誰かに見せたいんですか?」
詰問するように言われて、言葉を止めるアタシ。イエスかノーかで応えろ。誤魔化したら怒りますからね。そんな無言の圧力。この子のそういう姿を見せたいかどうかと言われると。
「…………まあ、見せていいもんじゃないわよね。うん」
その辺の男子とかに見られてその後の行動とかを考えるとムカッとした。理由はない。無いったらない。この子のそういう姿を見せたくないとか、そんなんじゃないから。普通に常識的にアウトなだけだし。
「そうね。ついでにアタシも【着る】を6にあげたいし。うん、ちょうどいいわ。いったん戻りましょ」
「はい。それがいいかと」
なんか最近この子にいいように行動を操られてる気がするけど、気にしたら負けよね。
ともあれ、ジョブレベルを上げて再突入。エントランスを通り抜けて舞台エリアに。階段状の座席とその先にある演劇の舞台。そこにいるのはゴーストの上位版ラースゴーストと嗤う骸骨ことラフスケルトンがいる。
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名前:ラースゴースト
種族:アンデッド
Lv:39
HP:61
解説:怒り狂った幽霊。見るものすべてに襲い掛かってくる。
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名前:ラフスケルトン
種族:アンデッド
Lv:42
HP:84
解説:巨大な頭蓋骨。死を超越し、生きている者を嘲笑う魔道士。
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ラースゴーストは【激怒】と呼ばれる攻撃力増加バフを自分にかける近接系。ラフスケルトンは闇系魔法による遠距離系だ。
「それじゃあ作戦通りに行くわよ。アタシが囮でアンタが砲台」
「砲台って言い方はやめてください」
「分かりやすくていいじゃない。行くわよ」
スプーキーシーツを着たアタシが【カワイイは正義】を使ってゴーストたちの前に立つ。アタシをターゲットにしたゴーストたちが殺到し、【憤怒】をかけて殴り掛かってくる。
「しねえええええええ!」
「むかつくううううう!」
「うわ、語彙力なさすぎ。脳みそスカスカね。あ、脳ないんだっけ。ごめーん」
殴りかかってくるけど闇耐性100%だからノーダメージ。余裕で攻撃を受けながら煽るアタシ。
「だからどうしてそういう事を言うんですか、トーカさんは」
「相手が手も足も出ない状況で無我に足搔いてるのを馬鹿にするのって気持ちいじゃない。こいつらはすぐに死んじゃうザコなんだからいいのよ」
「どっちが悪なのだか分からないでちね」
アタシの正論に呆れるように言うかみちゃまINバリア。仮にも人間の味方なんだから魔物と戦うアタシを悪とか言わないわよね。ふふん。
ともあれ、集まったラースゴーストを聖女ちゃんが【神の鉄槌】で一気に吹き飛ばす。レベル差は大きいとはいえ弱点属性での戦術。一撃でたおせるわけじゃないけど、こちらが負ける要素はないわ。
「あらあら、もうここに来れるレベルになったの? 早くない早くない?」
レベルアップの最中でアタシ達に話しかけてくる声。アイドルさんだ。その後ろにはジプシーさん。来た方向から察するに、天井裏から降りてきたところかな?
「アタシにかかれば余裕よ。っていうかアンタこそなんでここにいるのよ。レベル的にここじゃ合わないでしょ?」
ゴーストミュージアムのモンスターレベルはそんなに高くない。一番強い天井裏でも60台だ。レベル90になってるだろうアイドルさんがレベルを上げるには物足りない。<フルムーンケイオス>では自分よりレベルが低い相手の場合、習得経験点にマイナス補正がかかるからだ。
「うんうん。アミーちゃん達はレベルをあげに来たんじゃないよ。アムちゃんのお願いでアイテム集めしてたんだ。いぇいいぇい!」
ぴーすぴーす、とばかりに指二つ立ててドヤ顔するアイドルさん。ちょっとウザい。
「はい。アミーさんには護衛をお願いしています。私一人では心もとないので」
その後ろで頷くジプシーさん。シェヘラザードは攻撃もできるけど基本サポート系だ。ソロで戦うよりは護衛を強化したほうが効率がいい。
「【英雄の詩】こそ使えますが、心もとないので……やはりアミーさんの方が安定しますしね」
【英雄の詩】。シェヘラザードが使える攻撃アビリティだ。物語の英雄を呼び出して攻撃してもらうという名目だが、威力は単体にランダム回数の魔法攻撃。ぶっちゃけロマン技だ。不安定なことこの上ない。
「確かにウザうるさい回避盾連れて行ったら勝手に向こうから寄ってくるから、アイテム収集にうってつけよね。アビリティ無しでもウザいし」
「くそがきー。そこはうざかわいいって言えー」
アタシの的確な描写にぐりぐり拳押し付けてくるアイドルさん。ヘイト集めてカウンターする構成なので、モンスターが密集する中でアビリティ使ってるだけで勝手にやられてくれるのだ。
「全く全く。お願いしたらアミーちゃんもレベル上げ手伝ってあげたのに。でもそういう所が君のキャラクターだからね。可愛い可愛い」
「いらないわよ。アンタカウンターで敵倒すからこっちの取り分が減るの。【羽衣武舞】忘れるか妖精ドレス脱いでから言いなさいよ」
「やんやん。ドレス脱ぐとかセクハラだぞ。乙女がそんなこと言っちゃダメダメ!」
アタシがアイドルさんに盾を頼まない理由はいくつかあるけど、最大の理由はカウンターアビリティが自動発動な事だ。
「とにかくお断り。今日中に30レベルまで上げたいんだから遊んでる余裕はないの。決勝トーナメントでみんなの度肝抜いてやるわ」
すでにあたしの頭の中ではレベルアップのルートは決まっている。何回か宿に戻ったりと無駄足もあるけど、おおむねそのルート通りに進んでいるわ。
「いいねいいね。すでに予選は突破できるつもりなんだ。慢心してると足元すくわれちゃうぞ。まだ予選は終わってないんだぜ。だぜだぜ」
「そっくりそのまま返してあげるわ。休みだからってアイテム収集してるとか気を抜いてるようじゃ、新人に追い抜かれるわよ。
どーせ血まみれファントムのオペラ仮面でしょうけど、お疲れ様ね」
アイドルさんの挑発に真っ向から返すアタシ。ちなみにオペラ仮面というのは音楽系クエストで集めないといけないアイテムの一つ。それを求めてココの天井歌に籠るのはシンガー系ジョブのあるあるだ。
「いいえ。お願いしたのは『ネズミの尻尾』です」
それに応えたのはアイドルさんではなく、ジプシーさんだった。
「は? 『ネズミの尻尾』?」
天井裏にいる『ラットゾンビ』から得られるアイテムだ。ラットゾンビはその名の通りネズミのゾンビで、50匹で1個体という群体なモンスターよ。強くはないけどよく湧くし<毒>系のバステを与えてくるので、ぶっちゃけウザったいモンスター。狙って狩るような相手ではないし、売ってもそんなに値段はつかない。
「なんでそんなの集めてるのよ。<収容魔法>の邪魔にしかならないじゃない」
群体系モンスターという事だけあって、倒したら30近くのネズミの尻尾が手に入る。同じアイテムはひとまとめで表示されるけど、集めて何か得があるアイテムではない。
「伝説を語る為……とだけ言っておきましょう。それでは」
よくわからない返答をされる。アイドルさんの方を見ても、知らないとばかりに首を横に振るだけだ。詳しい理由は聞かされていないらしい。
そのまま歩いて出口に向かうジプシーさんとアイドルさん。それを見送った後、アタシ達はレベルアップを再開する。そして――
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
アタシ達は30レベルまで到達する。時間も時間なので、レベルアップはここまで。お金もそこそこたまったので、装備も整えられそう。いい感じいい感じ。
「順調順調。明日から五日間頑張って、予選突破。そんでもって決勝トーナメントも余裕で突破してやるわ」
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