15:メスガキはレベルを上げていく
入口を何度も出入りして『動く鎧』を倒し、一気に12レベルになる。ここからは怒涛のレベルアップだ。
「んんん……はぅん、っ! ああっ、んあ……っ!」
アタシも予定通り【笑う】を4レベルまで上げて【笑顔の交渉】【微笑み返し】を覚え直す。
「だだだだ誰かが見てるかもしれないところで、躊躇なくジョブを上げるのはやめてください! 人に見られたらどうするんですか!?」
「いーじゃないの別に」
「私は嫌なんです!」
そんな聖女ちゃんとの一幕の後に一旦戻って買い物をして、そこから再度幽霊屋敷に突撃。
「出会った幽霊に片っ端から【ヒーリング】よ。バシバシ癒し殺してあげなさい」
「癒し殺すというのは未だに慣れませんね……。天に還すとかそういう言い方はできないんですか?」
アタシの指示にそんなことを言う聖女ちゃん。やってることは変わらないんだからいいじゃないの、別に。
聖女ちゃんは癒し系トロフィー『優しき者』『天使の癒し』『レディバード』に加え、『格上殺し』『勇猛果敢』の自分より上のレベルに対するトロフィーがある。幽霊劇場の敵は全てその対象だから、2回ヒーリングすれば確殺できるわ。
そしてアタシも対アンデッド対策の装備を買ってきている。
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★アイテム
アイテム名:スプーキーシーツ
属性:服
装備条件:ジョブレベル10以上
耐久:+1 <耐性>闇属性:50% <弱点>光属性:50%
解説:幽霊を模した白い被り物。これでオバケの仲間入り。耐久力はなきに等しい。
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全身真っ白の服ね。シーツと言っているけど経常的にはローブみたいに顔が出る形だ。フード部分が顔みたいになっていて、それを深くかぶるとそれっぽいオバケに見える。
防御力は皆無だけど、キモは闇耐性50%。【カワイイは正義】を使えば闇属性――アンデッド系の攻撃はカットできるわ。ほとんどがアンデッドのこのダンジョンでは無敵の装備ね。MP消費が激しいけど、レベルアップすれば回復するし。
「うらめしいいいい!」
「勇者に追放されたああああああ!」
「婚約破棄されましたわきいいいいいいい!」
なんで大量のゴーストに囲まれても全然問題なし。恨み言っぽい事を囁かれても、全然響かないわ。
「ふーん、自分のアピールもできないコミュ障はつまはじきにされても仕方ないのよ。はい論破」
「やめろおおおおおお!」
「いやあああああああ!」
意味はないけど【微笑み返し】と同時にそんなことを言ってやる。別にダメージ与えたわけじゃないけど、勝手に精神的にダメージ受けたわ。あー、可哀そう可哀そう。
「その……来世とかあるかわかりませんが、強く生きて……死んでるんですけど……とにかく天に帰ってください」
いたたまれないような表情で聖女ちゃんが【ヒーリング】をかける。光に包まれて、ゴーストたちは消滅した。
2時間ぐらいそんなことを続けて20レベルまで上げて、【笑裏蔵刀】を覚え直す(聖女ちゃんの目が怖かったので、いったん宿に戻ってから覚え直した)。確定クリティカルのアビリティ。これでアタシも火力貢献ができるわ。なによりも、
「たん、たたたたった、たったったー」
回転するように踊る人形型モンスター『ナッツクラッカー』だ。この幽霊劇場の三大レアモンスターの一体よ。
「説明したけど、あれと『スワンレイク』と『スリーピングビューティ』はアンデッド属性じゃないから【ヒーリング】は効かないわ」
「三大バレエですね。分かりました」
「それで分かるアンタの知識量がすごいと思うわ」
なんでもチャイ……なんとかスキーさんの作曲だとか。そんなうんちくを聞きながらナッツクラッカーの方を見た。
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名前:ナッツクラッカー
種族:人形
Lv:42
HP:3
解説:劇場で踊る人形。近づく者は小さくなる呪いをかけられる。
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高レベル高ステータスだけどHPが低いタイプね。小さくなる呪いとか書いてある通り、ナッツクラッカーに対するダメージは10分の1になる。減衰したのちに防御力を計算するので、ほとんどのキャラはダメージが通らないわ。
アクティブにこっちを狙ってくるわけじゃないので、基本放置されるモンスターね。でもクリティカルを出せば倒せるので、それ狙って殴る奴もいるけど42レベルの攻撃力を前に骸を晒すことになるわ。
「ま、アタシにかかれば一撃だけどね」
【笑裏蔵刀】は確定でクリティカルが出る。なんで今のアタシには最適の相手なのだ。アタシはナッツクラッカーに歩を進め――
「お?」
眩暈がしたかと思うと、ナッツクラッカーが巨大化した。は?
違う。大きくなったのは人形だけじゃなく、周り全部だ。……いや、逆? アタシが小さくなった?
「どうしたんですか、トーカさん?」
動きが止まったアタシを心配するように聖女ちゃんが声をかける。何が起きているのかわかってないみたいだ。
「どうしたもこうしたも、いきなり小さくなって困ってるのよ」
「はあ? その、小さいトーカさんは可愛いと思いますよ」
「いきなり何言ってんのよアンタは! ……じゃなくて、アタシが普通に見えるの?」
「はい。強いて言えばいきなり止まったぐらいです」
いきなりドキッとすることを言われて叫び返すけど、聖女ちゃんから見たらアタシの姿は変わってないらしい。小さくなったように感じているのはアタシだけのようだ。
「なるほど、これが小さくなる呪いってやつね」
ゲームだとダメージ量減少で示されたけど、この世界だとこうなるのか。分かりやすいと言えばわかりやすい。
「小さくした罪は重いわよ。アタシの経験点になりなさい」
言って【笑裏蔵刀】でビンタ。ナッツクラッカーはくるくる回転して、地面に倒れ伏した。地面に落ちて砕け散り、アタシはまた眩暈みたいな感覚に襲われたかと思うと元の大きさに戻っていた。
<条件達成! トロフィー:『格上殺し』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
<条件達成! トロフィー:『勇猛果敢』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
<条件達成! トロフィー:『不可能を覆す者』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』。高レベル相手にダメージボーナスが付くトロフィーゲット! スキルポイントも一気に60点も入り、いい調子よ。これで【ドレス装備】も覚えられるわ。じゃあさっそく――
「トーカさん」
ジョブレベルをあげようとして、聖女ちゃんに止められた。
「……まあ、ドレスを買う資金はまだないし。今無理に上げなくてもいいわよね」
「はい。理解していただけて嬉しいです」
別にこの子に負けたとかそんなんじゃなくて、怒るっていうよりは泣きそうな顔してたんで仕方なくって言うか、そもそも幽霊劇場のダメージディーラーはこの子だから機嫌損ねるのは良くないって感じの政治的判断なわけであって。
「と、とにかくレベルアップとドレス買うための資金稼ぎね! がっつり行くわよ!」
アタシはいろんなことから目を逸らすようにそう叫んで、レベルアップに専念するのであった。
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