14:メスガキは幽霊劇場に来る

『超アイドル戦線 ~心技体』のコンサート期間は10日間。10個の会場をローテーションするようにコンサートを行っていく。前半5日でお休み1日。その後で5日と言った感じ。


「――てな感じだったのよ」

「それは大変でしたね」


 今はその中休みの日。アタシは聖女ちゃんにアイドル活動のことを喋っていた。やれ忙しかっただの、いろんなアイドルがいただの、ファンが偏りすぎているだの。そんな話と、


「それにしてもアンジェラがいるなんて」


 言って顔を曇らせる聖女ちゃん。事、アタシ達は悪魔関係で色々迷惑をこうむってきた。その表情と懸念は当然だ。


「なにかを企んでいるわけじゃないみたいだけどね」

「信用できると思います?」

「あのアホさ加減よ? 裏はないんじゃない」


 鼻で笑うアタシ。あの厨二悪魔にやられたことは忘れたわけじゃないけど、あれは入念に準備を重ねるくせに不慮の事には対応できないタイプだ。予想外の事があると慌てふためいてにボロボロになるわ。


「……まあ確かにアンジェラはそういう所はありまちゅが」


 とはかみちゃまの言葉だ。同胞からも援護射撃がないぐらいにマニュアル人間……マニュアル悪魔? ともあれ不意打ちには弱いらしい。


「でも油断はできまちぇんよ。アンジェラの創造能力はあたちたち6子の中でも群を抜いてまちゅ。それが人間のエナジーを集めるということは何かしらの準備をしていることでち。

 今ここで事を起こすつもりはなくても、今後何かしらのアクションが起きるかもちれまちぇん」

「そのためにもとっととレベル上げて、戦える体制作らないとね」


 言ってアタシは歩いている先に移る洋館を見る。ムジークの町外れにある『ゴーストミュージアム』だ。名前の通り廃墟となった劇場で、ゴーストなどの幽霊系モンスターが現われる。エントランス、舞台、天井裏の三構成ダンジョンね。その順に強いゴーストが現われるわ。


 言ってもエントランスに出るモンスターのレベルでも20はある。町中にあるのに凶悪なことこの上ない。<フルムーンケイオス>でも何も知らない音楽系キャラが迂闊に中に入って、酷い目にあるのはあるあるだった。一応、警告の看板はあるけどね。


『この先、キケン!』


 その看板を超えたら入口だ。朽ちそうな建物。壁を伝うツタ。演出的な幽霊のエフェクト。如何にも何かが出ますよ、って感じの館である。


 アタシ達はここでレベルをあげる。そのためにここに来たのだ。


「最終確認よ。『優しき者』『天使の癒し』『レディバード』は取れた?」

「はい、ばっちりです」

「スキル構成は【聖魔法】4と【聖言】2。覚えたアビリティは?」

「【聖魔法】で【ヒーリング】【天使の盾】。【聖言】で【福音】です」


 よしよし。完璧ね。


 聖女ちゃんはアタシがアイドルやってる間に辻ヒールしてもらい、癒した数で獲得できる『優しき者』『天使の癒し』『レディバード』を取ってもらった。これで得たスキルポイント合計90ポイントと初期状態の50ポイントを合わせ、スキルをあげてもらったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アビリティ

【ヒーリング】:信仰の強さを癒しに変える聖魔法の基礎。キャラクター1体のHPを回復する。アンデッド系には効果は反転する。

【天使の盾】:信仰の強さを守りに変える聖魔法。キャラクター1体の物理防御と魔法防御を上昇させる。アンデッド系には効果は反転する。


【福音】:聖なる言葉が悪意や病魔を振り払う。キャラクター1体のバッドステータスをランダムに一つ解除する。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 HP回復と防御力上昇。そしてバステ解除。低レベルだと他の聖職者系と変わらない感じ。だけどこれで十分よ。


「よっし。準備万端ね。作戦はさっきも言った通りよ」

「はい。狙う相手は『動く鎧』のみ。それ以外は即撤退、ですね」

「館の外まで走って逃げればあいつらは追ってこないわ。鎧以外がいたら全部逃げ。今のアタシ達じゃ瞬殺されるわ」


 作戦は簡単。『動く鎧以外は相手をしない』だ。


「本当に大丈夫なんでちゅか?」


 心配するように告げてくるかみちゃま。今は聖女ちゃんの手を離れ、バリアみたいなものに包まれて宙に浮いている。そういう事ができる程度には神様力とかは回復したらしい。


「アタシに抜かりはないわよ」

「抜かりがあったからアイドルやってると思うんでちゅけど」

「よ、予定通りに物事が進まないのは仕方がないかと思います」

「一応ツッコんでおくけど、アタシの予定通りにいかない半分以上はあんたのワガママだからね」


 呆れるように言うかみちゃまにフォローを入れる聖女ちゃん。アタシの一言に何か叫びそうになる聖女ちゃんを手で制して、アタシは館の扉に目を向けて唇で舌を湿らせる。


「行くわよ。鎧来い!」


 とびらをけりあけ、なかにおどりこんだ! 


「うらめしいいいいいいいいい!」

「はい撤退!」


 中にゴーストがいたのですぐに背を向けて扉を閉めた。深呼吸して心を落ち着かせ、再度扉に向きなおる。


「もう一回!」

「オアアアアアアアアア!」

「さよなら!」


 今度はポルターガイストと動く鎧がいた。当たりなんだけど、ポルターガイストが邪魔なんで即撤退した。


「三度目の正直!」

「たん、たたたたった、たったったー」

「二度あることは三度あったわ!」


 三度目。動く人形のナッツクラッカーが踊っていた。なんですぐターン。いつかは倒す予定のレアモンスターなんだけど今会ってもどうしようもないわ。


「はたから見てると、扉を開けてすぐに逃げる変わった子でち」

「しょうがないでしょ。これ以外に手がないんだから」

「むしろ何で中の幽霊たちは外に出てこないんでしょうか? 何度も出入りするトーカさんを迷惑とか思わないのでしょうか?」

「知らないわよ。館の地縛霊とかそんなんじゃないの?」


 ゲームの仕様だから、っていう身もふたもない理由かもしれないけど。


 ともあれそんなことを何度も繰り返し、そしてようやく目的の状況に到達する。


「よっしゃ、動く鎧だけね。行くわよ!」

「はい!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:動く鎧

種族:アンデッド

Lv:21

HP:101


解説:幽霊が宿った鎧。高い防御力とタフネスを誇る番人。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 名前と見た目通り、同レベル帯のモンスターに比べてもHPや物理&魔法防御力が高い。加えて【テラーボイス】と呼ばれるアビリティを持ち、近接距離内の攻撃力を下げる前衛キラーだ。ぶっちゃけ、効率悪い敵の分類に入るわ。


 でも今のアタシ達にとっては最高効率。っていうか他が倒せないんだから選択肢がないわ。


 コイツの攻略は気づいてしまえば至って簡単。


「聖なるかな、聖なるかな……」


 聖女ちゃんは言って、聖魔法を解き放つ――【使】を。


 防御力を上昇させるアビリティ。しかしアンデッドには威力が反転する。【天使の盾】は『動く鎧』の防御力を下げた。『優しき者』『天使の癒し』『レディバード』のトロフィーで強化された聖魔法は、一気に『動く鎧』の防御力を0にする。


「グオオ……」


 その瞬間、糸が切れたかのように崩れ落ちる『動く鎧』。鎧系のモンスターだからか、こいつは防御力が0になったら即死する仕様になっているのだ。


<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


 20レベル上の相手を倒し、何度も鳴り響くファンファーレ。パーティに入っているアタシにも経験点が入り、一気にレベルが上がったわ。やりぃ。


「やりましたね、トーカさん!」

「そこの遊び人は何もしてないんでちゅけどね」

「言うな。アタシは有能なブレーンなの」


 ツッコミを入れるかみちゃまに、アタシはツッコみ返した。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る