13:メスガキはアイドル達と話す

 悪魔が混じってるとか想定外の事は起きたけど、コンサートは予定通りに運営されていた。


 悪魔の存在を周りにしゃべらなかったのはいくつか理由があるわ。下手に喋ったらパニックを起こすし、そもそも信じてもらえるかどうかも分からない。何よりも、この残念な厨二悪魔が何かを企んでいるとは思えないもん。


『超アイドル戦線 ~心技体』。この大会の為に大きな会場を10個ほど借り、1つの会場に20グループのアイドルがひっきりなしに持ち歌を披露している。前のグループが終わって、その熱が冷める間もなく次。


 1グループの歌を借りに3分とすれば、1時間に1回出番が回ってくる計算ね。コンサートが3時間行って30分休憩、その後3時間というスケジュールになってるわ。おおよそ1時間もあれば準備も余裕でできる――


「なんて思ってた時期がアタシにもあったわ! 忙しー!」


 やらなくちゃいけない準備は結構多い。喉をいたわるためにジュースを飲んだり、次の舞台の為の衣装チェックしたり、パフォーマンスの再確認。アタシの場合は踊ったりポーズを決めたりする割合が多いので、開始10分前には準備体操をして体を整えないといけない。


「のひょひょ。人間は大変じゃのぅ。妾はステータスをちょちょいと弄れば状態変化は余裕余裕。時間調整もデミナルト空間でお茶の子さいさいじゃ」


 そんなアタシを見下すように言う厨二悪魔。この存在自体チートキャラめ。


 でも準備がギリギリというわけでもない。多少は他の参加者と会話する余裕はある。


「我ら!」「桜の元に集いし!」「七人のシノビ!」「闇に生きる我らは!」「花となって咲き乱れる!」「夜に咲く淡い桃色」「その名を!」


 一息ついてるアタシにびしっとポーズを決めるシノビスーツのアイドル達。


「「「「「「「モモイロセブン!」」」」」」」


 全員ピンク色のシノビスーツを着たニンジャジョブのアイドルだ。分身の術に見せるようなダンスや、ニンジャアビリティで消えたり現れたりするダンス主体のグループである。


「魔王をシノビスーツで倒してくれてありがとうございます。おかげで人気上昇です」

「魔王と共に戦ったのは私の兄です。兄からありがとうございますと伝言を承ってます」

「あ、うん。そうなんだ」


 そしていきなり低姿勢になった。頭を下げ、フレンド登録していいですかと、こっちが畏まれてしまう。アイドルとしてはアタシが後輩なのに。


「白!」「発!」「中!」

「「「我ら、ヤーシャアイドル『大三元』アル!」」」


 赤と白と緑のチャイナなドレスを着た格闘家風アイドルが、ポーズを決めて、


「きゃああああああ! 本物トーカさんアル! ラクアンを救っててありがとう!」

「クーデターの時は怖かったんです! いつか平和になったラクアンに来てください!」

可愛クァアイ! 萌娃モンウァ! 萌死我了モンスーウォラ!」


 いきなり握手されたりハグされたりされた。言葉はわからないけど、ちょっとテーラーおねーさんめいた感じはあった。


「ふはははははは! 我はゴーレムマスターギリアム! 人間もゴーレムも我が意のままに動く存在よ! さあ、我が手のひらで踊り続けるがいい!」


 英国紳士っぽい黒スーツを着たお兄さんが偉そうにふんぞり返る。


「貴殿がアサギリ・トーカか! 先の魔王戦は見事であったと褒めてやろう。その足で芸能界に殴りこむとはまさに予想外! その勇気に免じて飴をやろう。オレンジでいいか?」

「いらないわよ。っていうか、わざわざポーズきめて挨拶するのは何なの?」

「芸能界の礼儀である。あ、楽屋裏とかでは普通に会話するのであしからず。コンサートの最中で素に戻るとキャラ作り直すのに大変だからな! あ、飴はメロン味の方がいいか?」


 あ、やっぱりキャラ作ってるんだ。あと飴は押し切られてもらった。リンゴ味。


 結構濃いキャラばっかり。だけどとりあえず共通していることは、


「でもそれはそれとして勝つのは私達ですから!」

「ラクアンの救世主様には悪いけど、優勝は譲れません!」

「星を掴むは我! それは決定事項だ! ふはははははは!」


 どのアイドルも負けるつもりはない。アタシに敬意を抱き、それと勝負は別なのだ。負けてくれたら楽なのにー。


「いいじゃんいいじゃん。注目の的じゃん。みんなが認めてる証拠だよ。強敵とかいてトモと呼ぶ? そんな感じそんな感じ」


 いろんなアイドルたちの会話が終わったのを見計らって、アイドルさんが話しかけてくる。ついさっき歌い終わったばかりなのに、疲れとか全然見せない。笑顔を崩さず近づいてくる。


「アタシ『ティンクルスター』欲しいだけなんだけどね」

「違う違う。それも含めてがキミのキャラなのさ。興味がいないふりして興味津々。クールなフリしてデレデレ。そんなツンデレカワイイってヤツ。うんうん」

「誰がツンデレよ」

「自覚ないのかよ、キミ」


 呆れるように素でツッコまれる。


「そう言えば、芸能界ってもっとドロドロしてると思ってたけどそうじゃないのね。新人イジメとか、えろい番組監督とか、大御所芸人のセクハラパワハラとか」


 この会話をこれ以上続けるといろいろ負けそうな気がするんで、強引に話を変える。アタシ別にデレたりはしないけど、ただ具体的な事を言われると言い返せないような予感がしたんで。


「ないない。モンスター退治しないといけないんで、身内で争ってる余裕なんてないよ。権力争いとか足の引っ張り合いとかやってたら次の日に死んじゃうからね。無理無理」


 手を振ってこたえるアイドルさん。この世界のアイドルは戦闘力を求められる。人の希望になるという事はそういう事なのだ。外に敵がいる以上、身内でケンカなんてやってる余裕はないみたい。


「なんだ面白くない。ドロドロでぐちゃぐちゃな人間関係とか、第三者目線だと良いエンタメなのに」

「そういう事とは思っても口にするな、このマセガキ」

「痛い痛い。耳引っ張んないでよ」


 アイドルさんに軽く耳を引っ張られ、その手を払う。そんなことをやっている間にアタシの出番が迫ってくる。


「そんじゃ行ってくるわ」

「あいあい。全力でやって来い。キミが輝ける瞬間なんだから。アイドルにかける想いと持てる力とこれまでの努力をこの瞬間に開放するんだ! ゴーゴー!」 

「リアル訓練期間は2週間もないけどね」


 何とか空間の訓練を1日とするなら、アタシは1週間そこいらのインスタントなアイドルだ。動機も優勝賞品が欲しいとかそんな感じ。想いとかその辺を言われても、たいしたものはないのよね。


「それでもいいよ。それでもこの瞬間だけは君はアイドルだ」


 それでもいい。アイドルさんはそう言った。


「動機が物欲だろうが訓練期間が短かろうが、その想いと時間は君のモノ。一人のアイドルの想いなんだ。

 そこに差なんてない。願いが高潔だから偉いわけじゃないし、長年やってるから偉いわけじゃない。低俗でも短くでも、同じ人間の同じ想いなんだ。

 君に想う道があって、君がそこに向かおうとする限り、君はスターなんだ。その一歩こそが、アイドル道なのさ」


 ――アタシは、この人が何でアイドルをやっているかなんて知らない。


 男なのに女の格好をして、メチャクチャ努力して、普通に戦えばアタシより先に魔王を倒せていたかもしれないジョブなのに。きっとその理由はレアアイテムが欲しいっていうアタシよりはマシで立派な動機なのに、アタシの理由を馬鹿にしない。


「アイドル道とか興味ないわ。アタシは『ティンクルスター』が欲しいだけなの」

「にゃははにゃはは。でも足は前に進むんだろ? 舞台に立って、歌い踊るんだろ? それで十分十分」

「わけわかんない。全然わかんないわよ」


 アタシはレアアイテムが欲しい。ただそれだけだ。アイドルなんか真剣にやる気はない。これが終わったらアイドル引退。そんな理由なのに――


「なんでアンタも含めて他のアイドルたちはそこを馬鹿にしないのよ。レベル1の遊び人。優勝賞品欲しさで参加したおこちゃま。歌う前まではそんな目で見てたのに」

「簡単簡単。歌と踊りを見て、君が努力して輝いているってわかったからだよ。目的のために努力し、ふざけた理由でも真剣なのが伝わったからさ。ありていに言えば、君をアイドルと認めたからだよ。うんうん」

「わかんないわかんなーい」


 相変わらずわけが分からない。理解なんてできない。アタシはレアイテムが欲しいだけ。アイドルなんてかけらも興味のない。それは今でも変わらない。


「……そう言えば聞いたことなかったけど、暇ができたらアンタが何でアイドル目指してるのか教えてくれない?」


 でも、アイドルさんを始めとした星を目指す人には興味がちょっとだけできた。輝く人、星を掴むために歩む人。何のために歌い、踊り、そして歩むのか。アタシが今から進む一歩とどう違うのか。それには興味がある。


 理解できなくても、その輝きにどんな意味があるのか。なぜそこまでして輝くのか。それに興味が生まれていた。


「うは。そういう所がツンデレって言われるんだぞ、キミ」

「ツンデレいうな」


 からかうようなアイドルさんの返しに、アタシはムスッとして手を振った。デレてないもん。

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